『ピートと秘密の友達』 このドラゴンは友達ではない

ピートと秘密の友達 オリジナル・サウンドトラック 【ネタバレ注意】

 ドラゴンのエリオットが可愛いのだ。この映画の魅力はそこに尽きる。

 物語の原型は、ディズニーが1950年代に権利を取得した未発表原稿だという。それが1977年に『ピートとドラゴン』として映画化され、2016年に再び映画化されたのが本作『ピートと秘密の友達』だ。

 しかし、本作の設定は1977年の旧作とは驚くほど異なっている。1977年版のピートは、ゴーガン一家に奴隷のようにこき使われる少年であり、エリオットに助けられて港町まで逃げてくる。もっぱら海沿いの町が舞台となり、ドラゴンを捕まえようとする詐欺師やら、ピートを追ってきたゴーガン一家との騒動が描かれる。

 再映画化に当たってはこれらの要素があらかた削られ、ピートは自動車事故で両親を亡くし、たまたまドラゴンの住む森に取り残された設定だ。少年はエリオットに保護されて、人間と接することなく六年も森で暮らし、野生児として成長する。ターザンや『ジャングル・ブック』の主人公モーグリを彷彿とさせる生い立ちだ。
 興味深いことに、ディズニーは『ピートと秘密の友達』と『ジャングル・ブック』を並行してリメイクしている。


■『ジャングル・ブック』との類似と相違

 同じウォルト・ディズニー・ピクチャーズが、本作に並行して『ジャングル・ブック』も実写映画化し、同じ2016年に公開するとは大胆だ。これは両作の外観に似たところがあろうとも、その本質は違うことを会社が理解していたからだろう。『ジャングル・ブック』がジャングルの物語に終始し、村の人間はほとんど関わらないのに対し、本作では人間の町と森とが等分に描かれて、ピートは二つの世界を媒介する役目を果たす。
 それどころか、2016年版の『ジャングル・ブック』は、同じウォルト・ディズニー・ピクチャーズの1967年版アニメーション映画や1994年版実写映画には存在した人間の描写をわざわざ削り、物語がジャングルに終始するように見直している。それらを考え合わせれば、2016年の『ジャングル・ブック』と『ピートと秘密の友達』は、明確な方針の下で棲み分けが図られたものかもしれない。

PETE'S DRAGON 『ピートと秘密の友達』でピートとエリオットが直面するのは、旧作のような詐欺師やならず者一家ではなく、森を伐採する林業従事者たちであり、木が伐られ、人間が森に入ってくることが彼らにとっての危機となる。
 ピートの味方になってくれるのは、1977年版では灯台守の親子だったが、本作では森林保護官のグレースとその父親だ。舞台は森と製材所のある町に限られ、緑色のドラゴンは《森=自然》の象徴として機能する。ピートを保護するエリオットは、すなわち人間を育む大自然であり、エリオットを傷つけたり捕まえたりすることは自然の破壊に他ならない。

 だから自然を保護しましょう、という主張で終わらないところが本作の巧みな点だ。ピートを襲う狼や熊をエリオットが追い払っくれることから判るように、ピートが生きてこられたのはエリオットのお陰であり、人間は保護される側なのだ。ここには人間がしばしば忘れがちな、自然に対する畏敬の念が込められている。

 聖書によれば、神は人間の誕生を祝福して「海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」と云ったそうだが、本作を貫く精神は自然崇拝が色濃く残る日本の観客にこそしっくりくるかもしれない。


■その結びつきは友情なのか?

 とはいえ、自然と人間というテーマは、本作ではあくまで通奏低音として流れるにとどまる。『ピートと秘密の友達』の主眼は、ピートとエリオットの強い愛情と、彼らを引き裂く運命だ。ピートは町の住民の好意によって、エリオットは町の住民の欲望によって、住み馴れた森から連れ出されてしまう。

 本作の原題『Pete's Dragon』を邦題では『ピートと秘密の友達』としているが、エリオットを友達と呼ぶのは正確ではあるまい。1977年版のエリオットは、ピートがゴーガン一家から逃れて落ち着き先を見つけるまでのあいだともに行動するだけだったが、本作のエリオットは五歳のピートを保護して、六年も一緒に暮らしたのだ。エリオットは紛れもなくピートの家族である。二人を結ぶのは、友情というより愛情と呼ぶべきだろう。

PETE'S DRAGON そのエリオットの存在感が本作の肝だ。
 1977年版『ピートとドラゴン』は実写とアニメーションを融合させた作品だった。『メリー・ポピンズ』に代表されるディズニーお得意の技術だが、『メリー・ポピンズ』がジュリー・アンドリュースら俳優の演じる人物がアニメの世界へ入っていく趣向だったのに対して、『ピートとドラゴン』では実写ドラマの世界にセルアニメのドラゴンが出没した。絵に描かれたドラゴンは実写の世界で浮いており、まるで異世界からの闖入者だ。
 そんなドラゴンならいずれ実写ドラマの世界から姿を消しても、観客は違和感を覚えないかもしれないが、CGIで生み出された本作のエリオットはまるでスクリーンの中で生きているようだ。フサフサした毛並みも、ピートにじゃれつく仕草も愛らしく、顔立ちこそ1977年版を受け継いでひょうきんながら、ピートと一緒にいるときの幸せそうな様子には感情移入せずにいられない。

ポスター/スチール 写真 A4 パターン2 ピートと秘密の友達 光沢プリント ドラゴンが出てくる映画といえば、近年では『ヒックとドラゴン』という傑作がある。この作品は猫の動きを取り入れて、ドラゴンの可愛らしさと凶暴さを表現していた。
 一方、本作のエリオットは、クンクン臭いを嗅いでまわったり、うなだれての上目遣いで見つめたりして、明らかに犬を参考に描かれている。ピートとエリオットの関係も人間と犬のものに等しい。ピートに従順で、ときに体を張ってピートを守るエリオットは、ピートへの愛情に溢れている。エリオットの名前も、ピートが持っていた絵本の犬の名前から付けられている。
 犬と人間の愛情は多くの映画で描かれており、本作はその流れに連なるものといえるだろう。ただ、犬の大きさが尋常ではなく、人家で飼うことが不可能なのだ。

 やがてピートとエリオットに別れが訪れる。
 六年も暮らしたのに今さら別れるのは理不尽に感じられるが、本作では誰に強制されるでもなく、自分たちが別れなければならないことを理解する。
 そのとき観客は気づくのだ。これが犬や猫との別れに当たることを。犬や猫と人間が生涯をともにすることはできない。彼らの寿命は14、15年くらいしかないから、どんなに愛情を注いでも人間を残して逝ってしまう。
 劇中でドラゴンの寿命は明らかにされないし、グレースの父が若い頃に見たドラゴンがエリオットであるなら、その寿命は犬や猫よりはるかに長いかもしれない。だから死別という形にはならないものの、どんなに愛しくてもいつか別れてしまうことを示唆する点で、本作は極めて現実的だ。

 彼らの別離が死に別れでないことは、本作を後味の良い映画にしている。
 死に別れを目にするのが辛いのはもちろん、死に別れなくても、人間が飼っていた動物を森に放すような映画だったら、人間の身勝手さが鼻についたことだろう(最期まで面倒をみるのが飼い主の責務だから)。
 本作では、もともと独りで生きられるドラゴンが人間の子を保護していたのであり、人間の子を受け入れる家庭が見つかったのでドラゴンが身を引く展開になっている。
 ファンタジーだから描ける穏やかな別れ方だ。


■多くの人が見たかった光景

 けれども、本作の真髄はそのラストにある。

 後日、ピートは新しい家族とともにドラゴンが住むという北の地を目指す。
 父と母と娘とピートの四人家族のうち、血が繋がっているのは父と娘だけでも、そんなことは関係なく、ピートにとっては大切な家族だ。
 北極星に導かれてたどりついた地に、エリオットはいた。他のドラゴンたちもいる。彼らは軽々と宙を舞い、楽しそうに遊んでいた。悲しい別れを経験したピートは、元気そうなエリオットを見て笑顔を浮かべる。
 それはまるで虹の橋のたもとにいる動物たちを思わせる。

 「虹の橋」は、世界中で親しまれている作者不詳の詩である。
 天国の手前には虹の橋があり、寿命の短い犬や猫たちは人間より先にそこに行っている。彼らはそこで遊びながらも、人間が来るのをずっと待っている。やがてあなたも虹の橋に行くときが来て、橋のたもとで動物と再会を果たす。もう二度と離れることはない。あなた方は一緒に虹の橋を渡っていく……。
 こんな内容が綴られた詩は、いろんな言語に訳されて広まり、ペットを亡くした悲しみに暮れる人の癒しとなっている。

 『ピートと秘密の友達』のラスト、羽の生えた犬のような彼らは、人間が来たことを喜ぶように飛び回る。
 その平和で幸せそうな様子は、見る者の気持ちも穏やかにしてくれる。
 それは虹の橋がどんなところかを、ちょっと早めに覗かせてもらったような光景だ。
 「虹の橋」に癒された人が見たかったであろう光景が、そこには広がっている。


ピートと秘密の友達 オリジナル・サウンドトラックピートと秘密の友達』  [は行]
監督・脚本/デヴィッド・ロウリー  脚本/トビー・ハルブルックス
出演/オークス・フェグリー ブライス・ダラス・ハワード ロバート・レッドフォード ウェス・ベントリー カール・アーバン ウーナ・ローレンス
日本公開/2016年12月23日
ジャンル/[ファンタジー] [アドベンチャー]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

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