『キング・オブ・エジプト』の見たこともない世界

キング・オブ・エジプト(2枚組) [Blu-ray] なんてもったいない!
 極めて特徴的な原題があるのに、『キング・オブ・エジプト』という平凡な邦題になってしまったのは残念だ。
 しかも本作の惹句は、次のようなものだ。

  <神の眼>を盗んで
  エジプトの王座を奪え!

 これではまるで、<神の眼>を盗んでエジプトの王座を奪う話みたいではないか!
 公式サイトのストーリー紹介には、「鍵を握るのは、奪われた恋人を救うため立ち上がった盗賊の青年ベック」と書かれている。これではまるで、奪われた恋人を救うため立ち上がった盗賊の青年ベックの物語みたいではないか!
 そういうアドベンチャー映画にニーズがないとは云わないが、そういう売り方に刺激される人もいるかもしれないが、でもまったく異なる魅力に溢れた映画を、ありがちなアドベンチャー映画に見せかけて売り込むとはあまりにもったい。

 もっとも、日本で公開されただけでも御の字なのかもしれない。
 1.4億ドルもの巨費を投じてつくられた本作は、北米でわずか0.3億ドルの興行収入にとどまってしまい、一時は「『ゴッド・オブ・エジプト』、アメリカで大コケ イギリスでの公開をキャンセル」とのニュースまで流れた(幸い、米国公開の四ヶ月後に英国でも公開された)。
 マイナスイメージを払拭するように、日本の配給会社は『ゴッド・オブ・エジプト』と報じられたイカす邦題を『キング・オブ・エジプト』に変えてしまい、「THE BATTLE FOR ETERNITY BEGINS (永遠の戦いがはじまる)」というスケールの大きな惹句を「エジプトの王座を奪え!」と矮小化したが、公開が見送られるよりはマシだろう。

 アメリカ映画『キング・オブ・エジプト』の原題は『Gods of Egypt』である。
 Godが複数形になっているのは、『神々と男たち』のような比喩的な意味ではない。本当に神がわらわら登場し、動物をモチーフにした輝く甲冑を装着して、丁々発止のアクションを繰り広げるのだ。
 だから本作は、盗賊の青年が活躍する冒険物の要素も確かにあるが、その実『聖闘士星矢』や『鎧伝サムライトルーパー』に通じるバトルスーツ物なのだ。『聖闘士星矢』はもちろんのこと、レイ・ハリーハウゼンの作品や『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』『インモータルズ -神々の戦い-』等でもお馴染みのギリシア神話を離れ、エジプト神話を題材にしたところが新機軸だ。題材にしたといっても、エジプト神話を映画にしたのではなく、神話のキャラクターやエピソードをつまみ食いしただけだから、映画は自由奔放で、そこがまたいい。


ポスター/スチール 写真 アクリルフォトスタンド入りA4 パターン1 キング・オブ・エジプト 光沢プリント 主人公は盗賊のベックに加えて天空の神ホルス。ホルス側の神々が戦う相手は、邪悪な砂漠の神セトの軍勢とセトに与した神々だ。舞台は神と人の住む大都市から砂漠の果てへ、そして天上や冥界へと広がり、全宇宙の命運を決する戦いになる。
 圧巻は暗黒神アポピスの出現だ。もくもくと広がる暗黒の塊が宇宙を貪り食う様は、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』に登場したマーベル・コミック最大の悪役、宇宙魔神ギャラクタスにも似て、これ以上ないスケールを感じさせる。

 それをも凌駕する本作最大の見どころは、なんといっても宇宙の描写だろう。本作の宇宙は、古代人が考えるような天動説の世界なのだ。
 大地は巨大な円盤の形をしており、その片面に人間の世界がある。大地の周囲を巡る太陽を動かすのは、宇宙の諸々を生み出した主神ラーだ。ラーが太陽を円盤状の大地の表面に引っ張り上げると昼になり、裏面に回すと夜になる。
 念のために書き添えると、これは必ずしもエジプト神話の世界観に沿ったものではない。本来エジプト神話では、大地は男神ゲブ、天は女神ヌトであり、彼らのあいだを大気の神シューが引き裂いたことになっている。本作はこの世界観に合わないが、エジプト神話の映画化ではないから気にすることはない。

 それよりも私は、実写映画ではじめて見る天動説の世界に興奮した。今の時代に、映像技術を凝らして天動説の世界を描こうなんて、普通は考えないだろう。でも、あり得ないものを堂々と見せてくれるのも映画の醍醐味だ。リアリズムもいいけれど、嘘を思い切り嘘っぽく描くのはなんと楽しいことか。
 前作『ノウイング』で聖書を題材にしながら聖書からどんどん乖離させて大胆不敵なSFに昇華させたアレックス・プロヤス監督ならではの、超絶センスが光っている。
 だいたい、我々の星が球体であるという事実を捨てて、宇宙の構造から想を練った映画なんてなかなかあるまい。あまりの凄さに私は圧倒されっ放しだった。

 この稀有壮大な世界を視覚的に実現した美術にも目をみはる。ホドロフスキーの『DUNE』のためにメビウスらが考案したデザインを彷彿とさせるセットやコスチューム、そして仏マンガ界の大御所フィリップ・ドゥルイエの流麗なタッチを思わせる美しい色合いに感激した。

 こんな映画にはそうそうお目にかかれないと思うのだが、それが日本ではエジプトの王座を奪う話みたいに宣伝されるのが――そしておそらく配給会社の想像どおり、神々の闘いを前面に出した宣伝では動員が伸びないのかもしれないことが残念でならない。

キング・オブ・エジプト Soundtrack 内容に関して少々難を云えば、主人公二人にいささか感情移入しにくいところがある。ベックは義賊でもなんでもないただの泥棒であり、しかも盗みを働くのをちっとも悪いと思っていない。ホルスには性根の悪いところがあり、飲んだくれたり嘘を吐いたりする。こんな困った男たちに観客はしばらく付き合わなければならない。
 しかし、彼らを補ってあまりあるのが魅力的な女性キャラクターたちだ。ベックの恋人ザヤの可憐さや、ホルスを愛する女神ハトホルの思慮深さと侠気が観る者を惹きつける。セトの支配に最後まで抵抗を示すのは夜の女神ネフティスだし、他方、セトの軍勢で気を吐くのも戦いの女神アナトとアスタルテの二人組だ。彼女たちのおかげで本作の魅力は倍増している。
 そして、珍しく悪役を演じるジェラルド・バトラーと太陽神ラーを演じるジェフリー・ラッシュのさすがの存在感にも唸らされる。


 この際、もう少し踏み込んで書いておこう。
 私がこの映画を気に入ったのは、スケールの大きさやビジュアルが凄いからばかりではではない。映画化不可能と思われた大好きな小説に似たところがあるからだ。私は本作を観て、1960年代のSF冒険小説の傑作、フィリップ・ホセ・ファーマーの階層宇宙シリーズを思い出していた。

 階層宇宙は、円柱状の大地の上にやや小さい円柱を載せ、その上にさらに小さい円柱を載せた、ウェディングケーキのような段々になった星だ。各円柱の上面に、生物の住む世界がある。虚空にこの星が浮かぶ様は、おそらく本作の円盤状の大地のようであろう。
 階層宇宙シリーズに登場するのは、神にも等しい力を持つ長命族。自由に宇宙を作り、生命を創造し支配する彼らは、永遠ともいえる時間の中で骨肉相食む争いを繰り広げている。この点も本作に共通するところだ。
 叔父であるセトに戴冠式を邪魔されて砂漠に放逐された本作の主人公ホルスは、支配者の座を追われて旅する階層宇宙シリーズの主人公ウルフに相当しよう。本作のコソ泥ベックは、さしずめウルフの相棒となる人間の冒険家キカハだろう。

 アレックス・プロヤス監督は、フィリップ・ホセ・ファーマーの二大シリーズのうちのもう一つ、リバーワールドシリーズをテレビドラマ化した際のエグゼクティブプロデューサーでもあるから、階層宇宙シリーズも読んでいるに違いない(本作がエジプト神話を題材にしたのも、ギリシア神話を取り上げたらあまりに階層宇宙シリーズと同じになってしまうから神話くらいは違いを出そうと考えたのではないかと勘繰りたくなる)。
 だが、アレックス・プロヤス監督や脚本家のマット・サザマとバーク・シャープレスのコンビが、階層宇宙シリーズを読んだかどうかは重要ではない。面白い作品を作ろうと考えた末にたどり着いたのが、往年の名シリーズに近いところだったということだ。

 そう、本作の"天動説の世界"が素晴らしいのは、単に中世以前の「遅れた」世界観を再現したからではなく、階層宇宙シリーズに見られるような「プライベート・コスモス」の概念を映像化したからなのだ。
 超種族が自分好みの宇宙を創り、創造した生物を住まわせ、その生き様、死に様を観察する。その壮大な世界を描くことで、私たちが陥りがちな人間中心、自民族中心、自分中心の思考を引っくり返し、自分が属する世界(国や風土や文化)を絶対視することに疑問を投げかける。それは『ノウイング』にも通じるプロヤス監督お得意のテーマだが、ややもすれば『2001年宇宙の旅』のように哲学的になりかねないところを、プロヤス監督はアップテンポなストーリー運びと派手なアクション満載で描いてくれる。

 今回の舞台になったラーのプライベート・コスモスは、天動説を地で行く世界だった。シリーズ化されれば様々な驚くべき宇宙が描かれたかもしれないが、本作だけでも階層宇宙シリーズのような壮大な世界が存分に楽しめる。


キング・オブ・エジプト(2枚組) [Blu-ray]キング・オブ・エジプト』  [か行]
監督・制作/アレックス・プロヤス
脚本/マット・サザマ、バーク・シャープレス
出演/ニコライ・コスター=ワルドー ブレントン・スウェイツ ジェラルド・バトラー ジェフリー・ラッシュ チャドウィック・ボーズマン エロディ・ユン コートニー・イートン ルーファス・シーウェル レイチェル・ブレイク ブライアン・ブラウン エマ・ブース アビー・リー ヤヤ・デュン
日本公開/2016年9月9日
ジャンル/[アドベンチャー] [アクション] [ファンタジー] [SF]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

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