『バクマン。』実写映画の3つの魅力

バクマン。Blu-ray 豪華版 【ネタバレ注意】

 週刊少年ジャンプの王道ともいえる新妻エイジのマンガに対抗するため、原作担当の高木秋人(たかぎ あきと)と作画担当の真城最高(ましろ もりたか)が編み出した戦法、それが「邪道」だ。彼らは邪道なマンガを引っ提げて、少年ジャンプの激烈な人気競争に飛び込んでいく。
 というのが『バクマン。』のストーリーだが、本来これはおかしなことだ。王道の反対は、邪道ではないからだ。


■王道の反対は邪道ではない

 王道とは、「儒教で理想とした、有徳の君主が仁義に基づいて国を治める政道」(以下、言葉の意味はデジタル大辞泉より)のことである。すなわち、もっとも正当な道・方法を意味する。
 同時に「royal road」の訳語であり、「安易な方法。近道。」を意味する。
 後者は、アケメネス朝ペルシア帝国のダリウス大王が駅伝制のために建設した「王の道」に由来する。20~30キロメートルごとに宿駅が整備され、普通なら三ヶ月かかる距離でも七日程度で書状を届けられたという。ここから、近道・楽な道という意味が生まれた。

 もちろん天才マンガ家・新妻エイジが安易な方法、近道を選んでいるわけではない。彼のマンガは少年ジャンプらしい、もっとも正当な作品として扱われる。
 これに対して、高木秋人と真城最高が描いた「王道マンガ」は編集長に却下される。近道、楽な道を選んだことを見透かされたからだ。
 かくして『バクマン。』は、王道という言葉の二つの意味を使い分ける。

 ところが、「王道マンガ」を否定された高木と真城の行き着いたのが「邪道」だというのだ。
 邪道とは、「正当でない方法。本筋から外れたやり方。また、よこしまな道。」のことである。「正当な道」を意味する王道の反対なのだから、「正当でない方法=邪道」でいいじゃないかと思われるかもしれないが、王道という考えを唱えた儒者孟子は、王道に対立する概念として覇道を挙げた。覇道とは、「武力や権謀をもって支配・統治すること」だ。
 誰もが認め、それだけに楽な「王道」ではなく、自分たちにしか描けないマンガを考えに考え抜いた高木と真城は、「邪道」というより「覇道」であろう。もとより「邪道」の反対は「正道(正しい道理。正しい道。また、正しい行為。)」だ。「王道」と対比するものではない。

 『バクマン。』の面白さは覇道にある。
 アンケート至上主義を標榜し、読者の人気投票で上位の作品なら巻頭カラー等の目立つ扱いをする一方、下位の作品は容赦なく打ち切ってしまう少年ジャンプにおいて、競争に勝ち抜いて連載を持ち続けるマンガ家は、仁徳に満ちた王者(王道で天下を治める君)ではなく、権謀を巡らす覇者(覇道によって天下を治める者)なのだ。
 有徳のマンガ家が仁義に基づいた作品を発表する。そんな本来の意味での王道のマンガが面白いとは限らない。善し悪しはともかく、面白さだけを追求するマンガ家や編集者たちの生存競争が、『バクマン。』の面白さの源泉だ。


 それに加えて、本作には実写映画ならではの三つの魅力がある。

新宝島 豪華初回限定盤(映画「バクマン。」BOX)■ 1. 描写――視覚化された創作活動

 世の中には映画にしやすいものとしにくいものがある。スポーツやダンスのように体を動かすことは、視覚的に映えるから映画にしやすい。他方、勉強とか事務作業等はその行為を撮ってもパッとしない。
 創作も同様だ。作家や画家を主人公にした映画はその人生を描くものが多く、執筆作業や絵を描く行為そのものにはあまり時間を割かない。机に向かって文を書く様子をスクリーンに映しても、面白くもなんともないからだ。

 これは映画というメディアにとってけっこう深刻な問題だ。
 誰もがスポーツやダンスで活躍するわけではない。世の中は少なからず勉強やプログラム作りや事務作業といった見栄えのしない行為で回っている。にもかかわらず、取り上げられる領域に偏りがあるのなら、映画は世の中の真の姿を映し出しているとはいえない。
 マンガを描くとかアニメを作るなんてのは、地味すぎて映画に向かないことだろう。これほどマンガやアニメが普及しても、マンガ家やアニメーターは映画のヒーロー・ヒロインになれない。
 そんなことが積み重なって、世間のイメージは形作られていく。
 それでいいのか、と私は常々思っていた。

 だから、マンガを描く行為そのもので盛り上がる映画『バクマン。』に感心した。
 ペン先からインクが飛び散り、マンガのコマが宙を舞う。視覚効果を利用したその表現は、ケレン味が過ぎるようにも思える。だが、マンガを描く行為そのものを視覚化する試みとして、大いに注目されるべきだ。『のだめカンタービレ』が音楽を視覚化したように、最新技術を使うことでこれまで表現できなかったものが表現できるようになったのだ。

 その表現は、少年ジャンプに相応しいバトル物になっている。
 新妻エイジの新作と、高木・真城の対抗作がぶつかり合う。アンケートの得票数は、『ドラゴンボール』の戦闘力を測るスカウターのように、彼らの力を数値で示す。
 マンガの執筆でバトルする。これまでこんな実写映画はなかっただけに、本作は際立ってユニークだ。


バクマン。 コミック 全20巻完結セット (ジャンプコミックス)■ 2. キャスト――驚愕するかっこよさ

 さて、本作の主人公たちはマンガ好きやマンガ家だが、マンガ好きとは具体的にどんな人物なのだろうか。
 頻繁に映画やテレビのヒーロー・ヒロインになってきたスポーツマン等と異なり、マンガ好きやマンガ家を代表するビジュアルはないように思う。
 人間はよく知らないものをよくは思わないものだ。知らないものには好感を抱いたりしない。ヒーロー・ヒロインとして描かれることのないマンガ家やその予備軍は、(当事者を除けば)よく知られてないものの最たる例ではないだろうか。
 だからこそ、マンガ家たちが大挙して登場する『バクマン。』のキャスティングとビジュアルは、マンガ家やマンガ好きのイメージ形成に大きな影響を及ぼすかもしれない。

 そんなことを考えていた私は、佐藤健さんが演じる真城最高や神木隆之介さん演じる高木秋人のかっこよさに魅せられた。染谷将太さんや桐谷健太さんらが演じる他のマンガ家たちも、なんとかっこいいことか。映画にはいろいろなマンガ家が登場するが、誰も彼もバトル物に相応しい個性的な面々だ。

 しかも、声優を目指すヒロインの愛らしいこと。
 マンガ雑誌のアンケート至上主義やアイドルの恋愛禁止の是非はともかく、そんな制約の中で必死にもがく若者たちに共感せずにいられない。

 マンガ家や声優を中心に据えて、これほどまでにかっこよく、素敵な青春映画が誕生したことに私は驚いた。
 さすが、サブカル漬けの男を主人公に、ロマンチックな恋愛映画『モテキ』を作り上げた大根仁監督だ。その手腕に舌を巻く。


■ 3. テーマ――友情・努力・勝利を超えろ

 友情・努力・勝利をキーワードに盛り上がる青春物語。それが映画『バクマン。』だ。
 なにしろ原作は、「友情」「努力」「勝利」で知られる少年ジャンプに連載されたマンガだし、その少年ジャンプでいかに人気を獲得するかが物語の主軸だから、『バクマン。』そのものと劇中劇(劇中マンガ)の双方に友情・努力・勝利が溢れている。
 これで熱くならないはずがない。面白くないわけがない。

 しかし――友情・努力・勝利は映画のテーマたり得るだろうか。
 週刊少年ジャンプならいい。対象読者は主に小中学生だ。友情と努力と勝利に彩られた物語は、とても受けるに違いない。
 だが、一本観るのに少年ジャンプ一ヶ月分の料金を要求する映画は――少なくとも本作は、小中学生をメインターゲットにはしていない。進路を考える高校生や、マンガ産業の熾烈な競争を描く本作は、ビジネスパーソンも含めた十代後半以上がターゲットだろう。
 それらの観客を前に友情・努力・勝利を繰り返すか?

 大人だって友情・努力・勝利は嫌いじゃない。そこに心惹かれるのは確かだ。
 しかし、それだけでは魅力的とはいえない。ピクサーが子供向けアニメを通して努力しても報われないことを描き、ディズニーすらも友情・努力・勝利(だけ)が大切ではないことを描くご時世なのだ。

 それだけに本作の着地は見事だ。
 原作マンガがたび重なるアンケート順位1位獲得へ突き進むのに対して、本作は友情も努力もそして勝利も描きながら、そこで大団円にはしない。挫折やほろ苦さを織り込んで、そもそも人生に大団円なんてものはないことを知らしめる。
 友情・努力・勝利に酔いたい観客を裏切らず、友情・努力・勝利では物足りない観客をも満足させる。こんな結びが待っていようとは。
 最後の1分1秒まで工夫が凝らされた『バクマン。』は、いつまでも心に響く映画である。


バクマン。Blu-ray 豪華版バクマン。』  [は行]
監督・脚本/大根仁
出演/佐藤健 神木隆之介 染谷将太 小松菜奈 山田孝之 桐谷健太 新井浩文 皆川猿時 リリー・フランキー 宮藤官九郎
日本公開/2015年10月3日
ジャンル/[青春] [ドラマ]
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【theme : 邦画
【genre : 映画

tag : 大根仁 佐藤健 神木隆之介 染谷将太 小松菜奈 山田孝之 桐谷健太 新井浩文 皆川猿時 リリー・フランキー

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