『ピクセル』 いやされる大人の童話

ピクセル ブルーレイ プレミアム・エディション(初回限定版) [Blu-ray] ピクセルじゃなくてボクセルだろ、というツッコミはなしだ。
 『ピクセル』には立方体が集まったエネルギー体が登場し、地球の物体を小さな立方体に分解してしまう。だから2次元の画素を表すピクセル(picture + element)よりも、3次元の立体を表すボクセル(volume + pixel)のほうが内容に即している。
 作り手だってそれは百も承知だろうが、物語の背景にあるのは1982年当時のドット絵主体のアーケードゲームだから、作品を象徴する言葉としてピクセルが適切だと判断したのだろう。

 映画『ピクセル』は1982年の夏からはじまる。チープ・トリックの名曲『サレンダー』の軽快なメロディーに乗せて、アーケードゲームの開始画面のようなクレジットが映し出される。最高にイカしたオープニングだ。
 アーケードゲームの対戦シーンの曲がクイーンの『ウィ・ウィル・ロック・ユー』なのも、これ以上ない選曲だ(正確にはフォンリヒテンがアレンジしたバージョンだが)。

 チープ・トリックもクイーンも、なにやら映画『ピクセル』を象徴するようだ。
 1978年に発表された『サレンダー』は日本でこそチャートの3位に上るほどヒットしたが、アメリカ本国では62位止まり。チープ・トリックはまず日本で人気が出て、それが米国に波及したバンドだ。今や『サレンダー』はローリング・ストーン誌が選出するオールタイム・グレイテスト・ソング500の471位にランクインするというのに。クイーンもイギリス本国の評価が高いとはいえない頃から日本で人気を得たバンドだ。
 チープ・トリックもクイーンも好きな私は、早くからこれらのバンドを支持した日本のリスナーのセンスに感服している。
 『ピクセル』は米国の映画評価サイトRotten Tomatoesで肯定的な評価が17%しかなく、平均点は10点満点で3.8点足らずだ。別の映画評価サイトMetacriticでも100点満点中27点しかとれていない(2015年9月23日現在)。いずれも評論家による評価である。これまでもRotten TomatoesやMetacriticの評価には首を捻ることがあったけれど、これにはまったく賛同できない。一方、日本で『ピクセル』は観客動員数TOP10で初登場1位に輝いた。日本の観客のセンスに期待して、好成績を願うところだ。


ポスター アクリルフォトスタンド入り A4 パターンC ピクセル 光沢プリント ご機嫌なはじまり方をした『ピクセル』は、1982年からすぐに現代へ、明るい夏の思い出からシリアスな現在に舞台を移す。
 ゲームに興じていた13歳の元気な少年たちは、今や46歳の中年男だ。才能溢れるゲーマーだったサムは、妻に捨てられたしがない電気業者。サムと世界一の座を争ったエディは刑務所暮らしに落ちぶれている。神童と呼ばれたラドローは3次元の友人がおらず、2次元の美少女を心の支えに生きている。
 コンピューターゲームが得意ではなく、唯一クレーンゲームの腕が冴えていたウィルは米国大統領に就任したが、何をやっても非難される。文章の誤読が多いと、まるで日本国の第92代内閣総理大臣・麻生太郎氏のようなバッシングを受けている。本作のヒロイン、ヴァイオレットも登場していきなり夫に捨てられている。
 本作はコメディだから軽いノリを維持するが、主人公たちの抱えるものを思えば悲哀を感じないではいられない。

 もしもここで思い当たるものが一切ないとか全然身につまされないというのなら――自身はもとより友人知人に離婚した人は一人もいないとか、人の羨む地位について失敗なんてしたことがないとか、いつでも友人に囲まれた人気者だというのなら――それはとても幸せな人だ。たぶん、中年男女が悪戦苦闘する本作を観ても面白くないに違いない。そこまでリア充じゃない大人には、少年時代に得意だったゲームの腕ぐらいしか誇れるものがない中年たちに切なさを覚えるだろう。

 とはいえ、本作は観客をしんみりさせるわけではない。
 異星人とのファーストコンタクトを描く本作は、ふざけたビジュアルに反して意外やまともなSFだ。
 人類がかつて宇宙に発した探査機やらテレビ放映やらが、勘違いした異星人を招き寄せてしまう作品といえば、『スター・トレック』(1979年)等の先行事例があるが、本作は勘違い異星人が一方的に押し付けた理不尽なルールに全人類が翻弄されるところにSF的な面白さがある。
 元をただせばそのルールも人類が考えたものであるという皮肉。そもそも人類が発した友好のメッセージを、友好的に解釈してくれるだろうと勝手に思い込んでいた人類の傲慢。SFならではの価値観の転倒が随所に織り込まれ、笑いとともに胸に響く。

 しかも、地球の命運をかけて異星人とゲーム対決する本作は、全編これ愉快痛快なアホらしいアクションでいっぱいだ。本来は矛盾している「楽しいアクション」の見事な実現に私は感心した。
 アクションシーンは往々にして戦いのシーンである。アクション映画のほとんどは、他者を攻撃したり他者に攻撃されたりの争いごとを描いている。アクション映画が爽快なのは、ストーリーを計算して敵をぶちのめす必然性を高めているからであり、アクションだけを切り出して見ればしょせんは殴り合い殺し合いだ。あまり気持ちのいいものではない。ジャッキー・チェンのアクションは楽しいが、あれはアクションの中にコミカルな動きを取り入れたからで、アクションそのものが内包する痛みや他者への攻撃性は減じていない。
 アクションを志向すればヒューマニズムが損なわれる二律背反を前にして、黒澤明や宮崎駿のような完全主義者がアクション映画を撮らなくなるのはとうぜんだろう。それらの映画作家がヒューマニズムを犠牲にするはずはないのだから。

ピクセル Soundtrack その点、本作はゲームキャラが攻めてくるというバカバカしさに徹することで、ヒューマニズムに抵触しないアクションシーンを実現した。
 単に異星人というだけでは、こうはいかない。たとえ地球人ではなくても、彼らが尊い命を持つことに変わりはないし、敵異星人が敵国の人間のメタファーであることからは逃れられない。異星人との激戦を描いた『世界侵略:ロサンゼルス決戦』が、日本軍のアメリカ本土攻撃を発想の原点としていたように。
 本作で攻撃してくるのは、ゲームキャラクターを模したエネルギー体だ。コンピューターゲームのルールにしたがって振る舞うので、光線銃に撃たれると活動を停止するが、戦いが終わればすべては元に戻る。こんなご都合主義が許されるのも、ゲームキャラという設定だからだ。ほどよくリアリティを削ぎながら笑いとバカバカしさを補強した作品世界だからこそ、「楽しいアクション」を実現できる。

 これはゲームクリエイターの岩谷徹氏が1980年に発表したゲーム「パックマン」の開発コンセプトにも通じている。凶暴なエイリアンと戦うゲームが多かった時代、岩谷氏は女性やカップルが楽しめるゲームを作ろうとして、可愛いパックマンがクッキーを食べるゲームに取り組んだ。現在は東京工芸大学の教授を務める岩谷氏が『ピクセル』の劇中人物としてパックマン戦に登場するのも、「パックマン」の人気だけでなく、そのコンセプトや開発の姿勢そのものが尊敬されているからだろう。
 劇中で岩谷徹氏を演じるのは、岩谷氏に似た人を探すオーディションで受かった日系カナダ人俳優デニス・アキヤマさんだが、岩谷氏本人の姿もゲーム機を修理するエンジニアとして見ることができる。

 もっとも、『ピクセル』は緩くて楽しいだけの映画ではない。老若男女誰でも楽しめる本作だが、ピリリと辛いのは大人向けを意識しているからだろう。
 世間からこき下ろされる米国大統領や、意味不明の発言をする英国首相、頭が固くて役に立たない司令官等、社会的には成功者と目される人の本作での扱いは辛辣だ。陰謀論者で頭がおかしいと思われているラドローが真実を話し、真面目そうな軍人が嘘をつくのも、そして群集がラドローの真実よりも軍人の嘘を信じるのも、ずいぶん皮肉な展開である。
 米国人が戦いに臨もうとしてるのに、日本人が話し合いで解決しようと丸腰でしゃしゃり出て、あっさり敵にやられてしまうのは風刺が効き過ぎかもしれない。本作が公開された頃の日本は、期せずして国際平和共同対処事態法と平和安全法制整備法を国会で審議している最中だった。

 随所に皮肉が見られるが、総じて『ピクセル』は大人を癒してくれる映画だ。
 しょぼくれた中年男女の活躍で事態は丸く収まり、彼らはそれぞれのハッピーエンドを迎える。これは『テッド』と同じく、だらしない大人になったしまったオタクたちに花を持たせる映画なのだ。
 もちろん大人の観客は、こんなうまい話がないことくらい判っている。だからこそ、映画ならではの夢を見せる心配りにじんと来るのだろう。
 そして、人生は何度でも再チャレンジできるというポジティブなメッセージに勇気づけられる。


ピクセル ブルーレイ プレミアム・エディション(初回限定版) [Blu-ray]ピクセル』  [は行]
監督・制作/クリス・コロンバス
出演・制作/アダム・サンドラー
出演/ケヴィン・ジェームズ ミシェル・モナハン ピーター・ディンクレイジ ジョシュ・ギャッド ブライアン・コックス デニス・アキヤマ ショーン・ビーン アシュレイ・ベンソン
日本公開/2015年9月12日
ジャンル/[コメディ] [アクション] [SF]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : クリス・コロンバス アダム・サンドラー ケヴィン・ジェームズ ミシェル・モナハン ピーター・ディンクレイジ ジョシュ・ギャッド ブライアン・コックス デニス・アキヤマ ショーン・ビーン アシュレイ・ベンソン

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