『ターミネーター:新起動/ジェニシス』 ジェネシスではなかった!

ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray] 近頃、人工知能の暴走が多過ぎると思わないだろうか。
 アイアンマンに作られた人工知能ウルトロンが現生人類の絶滅を企む『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)や、科学者の記憶をアップロードされた人工知能が世界を支配しはじめる『トランセンデンス』(2014年)や、新型プログラムを仕込まれたロボットが不法行為に手を貸す『チャッピー』(2015年)……。『her/世界でひとつの彼女』(2013年)に至っては、人工知能と恋に落ちた男性が"彼女"に振られてしまう。

 挙句の果てに、2015年7月の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』だ。人工知能スカイネットと人類との時空を超えた戦いを描くシリーズ最新作である。
 映画の制作には何年も要するのに、似た趣向の作品が集中するとは興味深い。
 もちろんこれは偶然ではなかろう。

 コンピューターは1940年代に暗号解読や弾道計算等の戦争の道具として発達した。1951年に商用コンピューターが発売され、やがて人工知能ブームが起きると、それを追うように映画には「人類に反旗を翻すコンピューター」が登場した。

 最初の人工知能ブームは1950~60年代で、1966年の『サイボーグ009』(敵の首領は電子頭脳だった)や、1968年の『2001年宇宙の旅』(コンピューターHAL 9000により宇宙船の乗員が殺される)、1970年の『地球爆破作戦』(米ソ両大国のコンピューターが勝手に手を組んで人類を支配する)等がこのブームに符合しよう。まだ日本では、コンピューターと呼ぶより電子頭脳と呼ぶほうが通りが良かった時代である。

 二度目のブームは1980年代で、映画界はスーパーマンがコンピューターと戦う『スーパーマンIII/電子の要塞』(1983年)や、ターミネーターシリーズの嚆矢となる『ターミネーター』(1984年)を公開した。シリーズ最高峰にして(その時点での)完結編『ターミネーター2』は1991年の公開だ。劇中において人工知能スカイネットが核ミサイルで人類文明を破壊する「審判の日」が1997年とされたのは、当時の人工知能ブームの中、「10年後の1998年には、人間と同じやり方で自ら学べる機械が出現する」と予言されたことを踏まえたのかもしれない。

 人工知能の暴走を描く映画が溢れる現在は、3回目の人工知能ブームの真っ只中だ。人間が教えなくてもコンピューターがみずから学習するディープラーニングの実現は、人工知能の可能性を飛躍的に高めた。
 タブレット型端末の普及はコンピューターを身近にし、私たちはごく日常的にコンピューターの恩恵にあずかるようになった。
 一方で、今後20年のうちに英国の雇用の35%が機械に置き換えられる可能性があるといわれ、米国の総雇用者の約47%の仕事は機械に置き換わる可能性が高いといわれる。ロボットやコンピューターは芸術等のクリエイティブな作業には向かないという意見もあるが、いまや機械が作曲も執筆もする世の中だ。
 こんな時代、人工知能が人間の手に負えなくなる映画が続出するのはとうぜんだ。一貫して人工知能と人類の戦いを描いてきたターミネーターシリーズの復活は、今を置いてない。

 こう書くと、「2003年には『ターミネーター3』が、2009年には『ターミネーター4』が公開されたではないか。ターミネーターシリーズは30年以上連綿と続いている。」と主張するご仁もいるだろう。
 ごもっとも。
 しかし、第一作、第二作の監督・脚本を務めたジェームズ・キャメロンは、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』を「私の心の中では第三作」と呼ぶ。『ターミネーター3』『ターミネーター4』をお気に召さないキャメロンは、それらをバッサリ切り捨てた。

 『ターミネーター3』も『ターミネーター4』もそれなりに面白いと思うけれど、『ターミネーター』や『ターミネーター2』と比べたらそりゃあ分が悪い。
 そもそも『ターミネーター』は一作できっちり話が終わっているから、続編なんて必要ない。それをあえて時間をかけて構想しただけあって、『ターミネーター2』は文句なしの傑作だ。完結編に相応しい、ドラマチックな最後だった。
 なのに、その続きを無理矢理つくったのだから、『ターミネーター3』が蛇足感でいっぱいなのは仕方がない。スカイネットと戦う未来世界を舞台にした『ターミネーター4』は、番外編の位置づけにならざるを得ない。
 それでもジェームズ・キャメロンに「第一作には偉大なアイデアがあった。第二作の物語には、観客がターミネーターのために泣くほどの道徳的な複雑さがあった。第三作や第四作はその域に達していない」と云われると、ぐうの音も出ない。


 通算で第五作に当たる『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は、かくも辛口のキャメロンがシリーズの後継作と認める作品だ。

ターミネーター [Blu-ray] 第一作と第二作はSFアクションと銘打たれることが多いけれど、その構造はホラー映画だ。問答無用で襲ってくる不死身の怪物から逃げ回る映画である。第一作ではアーノルド・シュワルツェネッガー演じるターミネーター「T-800」が、第二作ではロバート・パトリック演じる液体金属製ターミネーターの「T-1000」が恐ろしいモンスターだった。

 しかし、いつまでもターミネーターで恐怖を演出できるものではない。
 ゴジラシリーズがいい例だ。1954年の『ゴジラ』第一作の水爆大怪獣ゴジラは恐怖の象徴だったけれど、観客がゴジラに慣れるにつれてただのヒーローになっていき、ゴジラシリーズはゲスト怪獣の量で観客の興味を繋ぎとめるようになった。
 ターミネーターシリーズも、新型、旧型のターミネーターが入り乱れる派手なアクションが売りになった。それはそれで面白いが、恐怖を置き去りにしたために、一、二作目のような迫力は失われた。

 ところが本作は、再び怪物に追いかけられる話に立ち返った。
 「いまさら……」と思われかねないのを解決する方法は、一、二作目のストーリーを改めてなぞることだった。

 私は本作のアプローチに感心した。
 30年以上続いてきたシリーズだから、観客には様々な人がいるはずだ。旧作をきちんと観てきた人もいれば、映画を観なくてもターミネーターについては見聞きした人もいるだろう。本シリーズをまったく知らない人も少なくあるまい。そんな多様な観客がみんな楽しめるように工夫されたのが本作だ。

 本作は過去の映画の「続き」ではない。未来から現代へ刺客が送り込まれる第一作をなぞっており、旧作を知らない人でも一から作品世界に入っていける。ターミネーターについて見聞きしたことがある人は、こういう作品かと改めて理解を深めるだろう。
 だが本作は、未来から現代に着いて早々に第一作から乖離する。そのため、旧作を知らない人が普通にスリリングな展開を楽しむと同時に、旧作を知っている人は意表を突いた展開に翻弄される。どの観客もそれぞれの立場で楽しめる作品なのだ。

 こんなことができるのも、(第三作や第四作では忘れていたが)ターミネーターシリーズが歴史改変SFだからだ。
 豊田有恒氏は、蒙古が支配する未来から鎌倉時代の日本にやってきた未来人が武士と力を合わせて蒙古軍を撃退する『退魔戦記』を著した。未来人が現代あるいは過去にタイムトラベルして歴史を変える歴史改変SFでは、未来か過去、又はその両方が私たちの知る歴史と異なる。
 本作では、歴史を変えるために過去に刺客を送り込む機械軍に対抗して、人類側も歴史を守る戦士を過去に送るまでは旧作と同じだが、到着した過去がすでに改変されていたことから、戦士と観客はド肝を抜かれてしまう。観客が目にしているのは、いったいどの時間軸なのか。旧作の世界とはどこで分岐したのか。観客をすっかり混乱させてくれるのは、歴史改変SFならではの醍醐味だ。

 しかも、旧作とは少し違うといっても、基本は旧作の再現だから、旧作の面白さも改めて味わえる。
 私が本作で一番面白かったのは、T-1000との激闘だ。どんな攻撃にもびくともしないT-1000を見ながら、私は『ターミネーター2』の面白さを思い出していた。
 20世紀から21世紀へのタイムトラベルはテレビドラマ『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』を思わせるし、避難先の隠れ家や爆発を逃れるシェルターは『ターミネーター3』の核シェルターに似ている。
 少しずつ違いながらも旧作をなぞる本作は、いいとこ取りのリメイクであり、ターミネーターシリーズのセルフパロディなのだ。

 ゴジラシリーズや007シリーズに顕著だが、長く続いたシリーズは原点回帰と称して部分的なリメイクに陥ったり、偉大な旧作に囚われてセルフパロディに堕してしまうことがある。
 それを喜ぶファンもいるが、私はそういう変化球を好まない。
 けれども本作は、歴史改変SFとして複数の時間軸の混合に必然性があり、旧作をなぞることに納得できる。
 この手で来たか、と私は感心した。


ターミネーター2 特別編(日本語吹替完全版) [Blu-ray] もっとも、いくら再現しても『ターミネーター2』の素晴らしさには及ばない。こいつばかりは仕方がない。相手が傑作すぎるのだ。

 タイムパラドックスの扱いも巧いとはいえない。複数の時間軸にまたがる記憶を持つなんて都合が良すぎる。
 主人公たちがスカイネットの誕生を阻止するために1984年から2017年にタイムトラベルするのもどう考えてもおかしくて、せっかくスカイネットの誕生まで33年も余裕があったのに、タイムトラベルのおかげでスカイネット誕生が目前に迫ってしまう。
 主人公を襲う新ターミネーターのT-3000や、T-3000を生み出すT-5000の描写も、ナノマシンの特徴を生かしたとはいえない。
 でも、細かいことは気にしないのが本シリーズを観る心得だ。アンドロイド(人型ロボット)をサイボーグと呼んだり、裸でタイムトラベルすることを正当化したりと、気にしてたら切りがないのは旧作も同様だ。

 本作の特筆すべき点は、ジョン・コナー伝説を断ち切ったことだろう。
 未来の指導者ジョン・コナーはシリーズを通じて伝説的な存在であり、登場シーンの多寡にかかわらずシリーズ全体に大きな存在感を放っていた。
 そのジョン・コナーを本作では英雄の座から引きずり下ろした。セルフパロディと思わせながら、大胆な改変だ。賛否両論あるだろうが、私はチャレンジ精神を買いたいと思う。


 当初『Terminator Genesis(ジェネシス)』と伝えられた原題は、『Terminator Genisys(ジェニシス)』だった。Genesis(ジェネシス)とは旧約聖書の創世記のことであり、「起源」「起こり」を意味する。シリーズをリブートした新三部作の一作目として適切な題だと思うが、本作は一ひねりしてGenisys(ジェニシス)にした。Genisysは、劇中ではスカイネットと化すコンピューターシステムの名称だ。サイバーダイン社が開発したシステム「Genisys(ジェニシス)」を起動すると、人類を滅亡させるスカイネットが誕生する。
 Genisys(ジェニシス)は、Genesis(ジェネシス)にかけるとともに general intelligence system(汎用知能システム)の略でもあろう。人工知能ブームの中で新たに紡ぐ物語に相応しい、洒落た題名だ。

 2019年にターミネーターシリーズの著作権がジェームズ・キャメロンに戻るため、パラマウント映画は新三部作の二作目を2017年に、新三部作の三作目を2018年に公開するつもりでいる。
 このシリーズがどこまで発展するのか楽しみだ。


ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]ターミネーター:新起動/ジェニシス』  [た行]
監督/アラン・テイラー
出演/アーノルド・シュワルツェネッガー ジェイソン・クラーク エミリア・クラーク ジェイ・コートニー イ・ビョンホン J・K・シモンズ マット・スミス
日本公開/2015年7月10日
ジャンル/[SF] [アクション] [サスペンス]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

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