『エイプリルフールズ』に騙されるな!

エイプリルフールズ 【ネタバレ注意】

 よくもこんなに面白い映画を考えたものだ。
 「面白い」という言葉にはいくつかのニュアンスがあるが、ここでは「滑稽」とか「楽しい」という意味で受け取っていただきたい。

 とりわけ笑ったのが、ハンバーガー店のマスター役の古田新太さんとアルバイト役の木南晴夏さんの演技だ。やんごとなきお方の来店に動転した彼ら。作法をわきまえぬ客たちを「お前ら公安に消されるぞ!」とマスターがどやしつける一方で、コーヒーカップを運ぶアルバイト女子は「おコーヒーでございます」なんて云いながらガタブル震えてしまう。芸達者な古田新太さんと木南晴夏さんが演じる取り乱した人間のバカさ加減が実に愉快だ。
 やんごとなきお方を乗せたリムジンの運転手、滝藤賢一さんもすっかり目がいっちゃって、いやこの人はいつも目がいっちゃってるような役だけれど、本作は特に度外れた演技で笑わせてくれる。

 いくつものストーリーが付かず離れず並行して進む『エイプリルフールズ(4月のバカたち)』でも、私がとりわけ楽しんだのはやんごとなきお方のエピソードだ。一番泣いたのは少女誘拐の話。感心したのが除霊師の話と引きこもり中学生の話だ。
 本作は石川淳一監督が「できればあまり前情報なくご覧いただいて、バカ映画が始まったなっていう所から、けっこう泣けるなっていうことで終わりかけて、結局バカ映画だったなって思いながら帰ってもらえると僕はすごく嬉しいです(笑)」と語るとおりの映画なのだが、面白いのはバカ担当や泣かせ担当に分かれていないことだ。それぞれのストーリーがバカな要素と泣ける要素を持ちながら並行してクライマックスを目指すので、おバカな前半ではバカの波状攻撃が繰り出され、泣ける後半では感動の波状攻撃に見舞われる。

 豪華キャストのオンパレードで、多くのストーリーが絡み合う本作を、少し整理してみよう。
 本作を構成するのは、主に次のストーリーだ。

(1) テレビのエイプリルフール企画に触発された女による、イタリアンレストランの立てこもり事件。犯人の女は、"やんごとなき"夫妻の妻の方に人生最大のアドバイスを貰っている。狙われた嘘つき男は、除霊師に貰った芋ケンピのおかげで真の愛を手に入れる。

(2) お忍びで休日を楽しむ"やんごとなき"夫妻。夫妻が乗るリムジンの運転手の娘は、ヤクザに誘拐されている。夫妻が楽しみにしていたコンサートの歌手は、イタリアンレストランで人質になっている。お互いに嘘をついていた"やんごとなき"夫妻は、二人の強い愛を確かめ合う。

(3) 少女を騙して連れ回すヤクザたち。親に愛されてないと思ってひねくれていた少女は、やがて親の愛情をダブルで実感する。

(4) いつも二人でつるんでいる大学生。"やんごとなき"夫妻の来店のためにハンバーガー店を追い出され、ヤクザたちにラーメン屋を追い出された二人は、嘘がきっかけで真実の愛を手に入れる。

(5) テレビのエイプリルフール企画に出演した売れない役者。彼の妻は、イタリアンレストランでの嘘をきっかけに人生の目標を見つける。

(6) 詐欺容疑で刑事に踏み込まれた除霊師の老婆。彼女を連行した刑事には、イタリアンレストランのオーナーシェフの友人がいる。刑事が長年追っている逃亡犯は、イタリアンレストランで人質になっている。除霊師の口車に乗せられそうな男は、イタリアンレストランに駆け付けねばならなかった。

(7) インターネットの情報を見て、自分を異星から来たスペースノイドだと思い込んだ中学生。インターネットに情報を書き込んでいたのは除霊師だった。

 それぞれのストーリーは、些細なことまできめ細かく絡み合っているのだが、とてもすべては書ききれない。
 ここから浮かび上がるのは、あるエピソードで脇役の人も他のエピソードでは主人公であるということだ。雑魚キャラ扱いの人なのに、別のところではみんなに待ち望まれていたりする。どんなチョイ役でも一人ひとりに人生があり、背景がある。その当たり前のことを、本作の作り手は忘れない。

 そして「歌にはコンプレックスがある」という富司純子さんがクライマックスで歌ってくれるのが、なんと名曲『アメイジング・グレイス』だ。18世紀の奴隷貿易で儲けた男が、牧師になって作った讃美歌である。
 罪深い自分でも今日を迎えられたことに感謝するこの歌は、嘘をついた者たちが紆余曲折を経て愛と幸せを手にする本作に打ってつけだ。

 それに本作の登場人物たちは、嘘つきだけど悪人ではない。そもそも本作は、コンゲームや騙し合いの映画ではない。ミステリーでもサスペンスでもない。だから大ドンデン返しや、アッと驚く結末を期待したなら、それは自分の期待感に騙されている。
 本作の登場人物が嘘をつくのは、真実の辛さから目を背けるためだったり、ちょっとした嘘を人付き合いの潤滑油にするためだ。それは平凡な私たちの姿に他ならない。

 脚本家の古沢良太(こさわ りょうた)氏は、数々の映画やテレビドラマの脚本を書きながら思うところがあったのではないか。
 人間にはいろんな面があり、人前ですべての本性をさらけ出したりはしない。人間の真実の姿なんて(ときに本人にも)判らない。けれどもテレビドラマや映画では、ある程度登場人物が心情を吐露したり、ナレーション等で気持ちを明らかにすることで、観客の理解を助けてやる必要がある。そういう配慮をしなければ、多くの観客はついて来られないだろう。
 『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズのように本音で取っ組み合う世界と、『外事警察』のような陰謀と騙し合いに終始する世界の両極端を描きながら、古沢氏はそのあいだにある、普通の人が普通に嘘をつく日常を描いてみたくなったのではないか。
 氏は本作の企画をスタートさせるに当たり、「エイプリルフールの1日の中で起こる群像劇」というアイデアを提案した理由を次のように語る。
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そもそも"嘘"って、映画のモチーフとして昔から使われているように、とても面白いものですよね。たくさんの登場人物が大きな嘘をつくわけじゃないけれど、小さな嘘をついていくうちに影響しあって、小さな奇跡を起こす。そのモチーフがすごく面白いと思っていました。
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 だから本作で語られる嘘は(あまり)罪がない。場合によっては、嘘をつき通すことで本当の愛を知り、本当の奇跡を呼び起こす。
 若い男女の愛、歳を重ねた夫婦の愛、親子の愛、同性愛、そのすべてが嘘のおかげで大団円を迎えるのは気持ちがいい。
 このとき、すべてのエピソードが一点に収斂し、登場人物が一堂に会す――なんてことにならないのも感心した。自分の行動が誰にどう影響したか、自分の身に降りかかったことの発端は何なのか。現実の私たちはそんなことを知る由もない。すれ違いはすれ違いのまま、知らないことは知らないまま、会わない人とは会わないままなのが自然であろう。そこを作り込み過ぎないのが、小さな嘘と小さな奇跡の本作に相応しい。

 本作はまた、真実を語る映画でもある。
 作り手の本気がうかがえるのが、(3)の少女の話だ。家を出たら性風俗産業で稼げばいいと甘いことを考えている女の子の性根をたたき直すため、ヤクザが彼女を風俗店に連れていく。ここはオブラートにくるんだ描写で済ませることもできただろうが、映画の作り手は、たぶんこの作品の出来得る限りのリアルさで風俗店のあり様を見せつける。それは少女の甘っちょろい考えを吹き飛ばし、ひいては客席にいる未成年者にも抵抗を覚えさせるものでなければならない。作品のトーンを壊しかねない風俗描写をガッツリ描いたのは、作り手の心意気が本物だからだろう。
 公式サイトによれば、このエピソードのコンセプトは、"まっすぐな男の、娘に対する最後の授業"であるという。男(と作り手)の思いは、娘だけでなく観客にも伝わったのではないだろうか。


 真実といえば、本作の登場人物は誰も彼も嘘をつくのに、嘘をつかない人もいる。
 それが(6)の除霊師だ。本作の中でもっともうさん臭くて怪しい老婆は、実は嘘をついていない。怪しげな占いは的中し、誰にも話せなかった刑事の内心もお見通し。彼女の云うことは次々に実現する。生活のために芋ケンピを法外な値段で売りつけてるが、老婆はそれを芋ケンピとも芋ケンピじゃないとも云ってないから嘘ではない。
 主要人物の中でただ一人嘘をつかないのが、一見すると嘘の塊のような除霊師なのは愉快である。

 おっと、もう一人、嘘をつかない人物がいた。(7)の中学生は自分を宇宙人だと信じて、マンションの屋上で宇宙船を呼び続ける。おバカな彼はインターネットの情報に騙されただけで、誰にも嘘をついていない。

 ――と思わせて、本作は最後の最後にトンデモないドンデン返しを用意する。
 深夜0時を回った4月2日、嘘が許されない日になって、最大の真実が明かされる。
 除霊師はインターネットに嘘の情報を書き込んだように見せかけて、本当にメッセージを届けるべき相手に届けていたのだ。彼女の云うことは実現する。
 地球人はスペースノイドに騙されていたのだ!

 ひゃー、こいつは騙された!!


エイプリルフールズエイプリルフールズ』  [あ行]
監督/石川淳一  脚本/古沢良太
出演/戸田恵梨香 松坂桃李 ユースケ・サンタマリア 富司純子 里見浩太朗 寺島進 滝藤賢一 窪田正孝 矢野聖人 小澤征悦 菜々緒 戸次重幸 宍戸美和公 大和田伸也 高橋努 浜辺美波 山口紗弥加 千葉真一 高嶋政伸 りりィ 岡田将生 生瀬勝久 小池栄子 千葉雅子 浦上晟周 木南晴夏 古田新太
日本公開/2015年4月1日
ジャンル/[コメディ] [ドラマ]
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【genre : 映画

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