『味園ユニバース』 渋谷すばるを堪能せよ!

味園ユニバース 通常版 [Blu-ray] その瞳に狂気をたたえ、猫背気味にステージに突っ立って、突き放したようにシャウトする。若かりし日の甲本ヒロトを彷彿とさせる男。
 『味園(みその)ユニバース』で渋谷すばるさんが演じたポチ男(ポチオ)は強烈だった。

 あまりテレビを見ない私が芸能人を知る機会は少ない。映画出演ではじめて知る人が多い。
 同じ関ジャニ∞(エイト)のメンバーでも、『ちょんまげぷりん』の錦戸亮さんのように映画に出る人は憶えるが、渋谷すばるさんのことは恥ずかしながら存じ上げなかった。
 いや、関ジャニ∞全員が出演した『エイトレンジャー』は観ているのだが、一度に大勢出られても私には憶えきれなかった。

 だから、強烈なポチ男のキャラクターを演じられるこの逸材が、どこから来たのかと驚くばかりだった。
 『味園ユニバース』の公式サイトによれば、この映画の企画は渋谷すばる主演を想定することからはじまったという。彼が大阪出身だから映画の舞台は大阪で、彼が歌手だから音楽中心の映画になった。ポチ男のキャラクター――すなわち凶暴な性格も、不愛想なところも、投げやりに見えるところも、渋谷すばるさんが演じることを想定した当て書きなわけだ。

 記憶を失い、ポチ男というニックネームで呼ばれる主人公は、作品の解説文で「歌以外のすべてを忘れた男」と紹介されている。そのロマンチックな響きは、アイドルグループ・関ジャニ∞のメインボーカルに相応しく思える。
 しかし、映画の作り手が用意したのは、正体が判れば判るほどクズであることが露呈する、救いがたいキャラクターだった。
 そんなネガティブな人物像をぶつけてくることからも、作り手が映画初主演の渋谷すばるにいかに大きな期待をかけているかが判る。そして彼は、凶暴な面構えで見事期待に応えてみせた。


 面白いのは、主人公の過去が判明するにつれて、情けないクズっぷりがどんどん露呈するにもかかわらず、映画そのものは男のファンタジーとも云うべき、夢のような世界になっていくことだ。
 なにしろ男は、過去のダメな自分をすべて忘れている。若く美しい女性に拾ってもらい、諦めていた歌手になる夢を取り戻す。人生のやり直しどころか、この上ない好条件の人生へとスライドするのだ。
 ところどころ暴力シーンが挿入され、反社会的な臭いも漂わせるこの映画が、不思議と心地好いのは夢物語の構造を持っているからだろう。

 功を奏しているのが、記憶喪失という仕掛けだ。この仕掛けがなかったら、ありきたりの映画になってしまう。
 「道を踏み外して、ぐれていた男が、一人の女性との出会いをきっかけに、夢に向かって歩きはじめる。」
 本作のストーリーを端的に云えば、こういうことだ。よくある話だし、これでは面白味を感じない。
 ところが記憶喪失を仕掛けることで、この映画は「一人の女性と出会い、夢だった歌の世界に歩き出すハッピーな物語」と「実は道を踏み外して、ぐれていたことが判明する切ない物語」を同時並行で語ることになる。前者の世界には、赤犬というバンド仲間がいる。後者の世界には反社会的勢力がうごめいている。二つの物語、二つの世界が交差しながら進むことで、映画は俄然面白くなる。

 誰だって忘れてしまいたいことの一つや二つはあるだろう。きれいサッパリ忘れられることもまた、ある種の僥倖かもしれない。
 記憶喪失という仕掛けについて、山下敦弘監督は次のように述べている。
 「普段なら絶対に出てこないし、やらないアイデアですが、実際起こりそうでありながら現実離れした面もあるフィクション度の高い設定も今回ならばありだと思えたんです。それが出来るのも、オリジナルならではの強みだし、渋谷君だからこそ実現可能ではないかと考えたんです」
 このアイデアも、当て書きだから出てきたのだ。


 甲本ヒロトさんを尊敬しているという渋谷すばるさんだけあって、劇中のボーカリストとしての振る舞いや歌い方には通じるものがある。
 その甲本ヒロトさんが作詞・作曲した『リンダリンダ』をはじめ、THE BLUE HEARTS時代の曲を取り上げたのが、映画『リンダ リンダ リンダ』だ。そのメガホンを取った山下敦弘監督が、本作を監督するのも縁なのだろう。
 この映画に甲本ヒロトさんは関わってないけれど、本作の勢いや純粋さや、ある意味子供っぽい粗暴さには、同じ匂いが感じられる。

 大阪、味園ビルの貸ホール「ユニバース」が舞台になる上に、その名を題に付けるだけあって、本作は歌に溢れている。赤犬をはじめとするバンドが歌う数々の楽曲と、ポチ男こと渋谷すばるさんが披露する本作のオリジナル曲『ココロオドレバ』や『記憶』、はたまたスピッツの『チェリー』や松田聖子さんの『赤いスイートピー』等々、新旧の歌謡曲やロックが全編を彩っている。
 中でも大きな扱いなのは、和田アキ子さんの代表曲『古い日記』だ。「あの頃は……」ではじまる歌詞は過去を振り返るしんみりした内容なのに、力強い歌声が過去の思い出を吹き飛ばし、今を生きる歌に変えている。
 過去にとらわれるか、未来に踏み出すか。そのはざまに立つ男の物語に相応しい。


味園ユニバース 通常版 [Blu-ray]味園ユニバース』  [ま行]
監督/山下敦弘
出演/渋谷すばる 二階堂ふみ 鈴木紗理奈 赤犬 川原克己 松岡依都美 宇野祥平 松澤匠 野口貴史 康すおん
日本公開/2015年2月14日
ジャンル/[ドラマ] [音楽] [青春]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

【theme : 日本映画
【genre : 映画

tag : 山下敦弘 渋谷すばる 二階堂ふみ 鈴木紗理奈 赤犬 川原克己 松岡依都美 宇野祥平 松澤匠 野口貴史

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示