『幸せはシャンソニア劇場から』よみがえる

 【ネタバレ注意】

 巴里の空の下、建物の屋根が連なる。カメラはゆっくりと下がり、街角の石畳を映し出す。
 そこに流れる懐かしい音楽。
 『巴里の屋根の下』(1930)を髣髴とさせる導入部に、ルネ・クレールのファンである私は嬉しくなった。

 導入部だけではない。
 『幸せはシャンソニア劇場から』は1936年という時代設定のみならず、戦前の名画を思い起こさせる要素が一杯で楽しませてくれる。

 『巴里の屋根の下』の主人公は、楽譜を配って歌を教えることで生計を立てている。だから歌うシーンが頻繁にある。
 『幸せはシャンソニア劇場から』もミュージック・ホールが舞台なので、歌と音楽に溢れている。

 一方で描かれる洗濯工場の労働者たちは、『自由を我等に』(1931)の蓄音器工場に重なる。


 シャンソニア劇場を訪ねてきた美女ドゥースの意外なしたたかさも注目だ。

 『巴里の屋根の下』のヒロイン・ポーラは、少々ずるい女だった。
 不良の親分フレッドに誘われればどこへでもついていき、困れば主人公アルベールの好意に甘え、アルベールが不在のときにはアルベールの親友ルイと仲良くなる。
 悪女でも計算高いわけでもないが、男を頼ることをためらわないずるさがあった。

 『幸せはシャンソニア劇場から』のドゥースも、街の顔役ギャラピアの援助を受け入れながら、"アカ"のミルーと仲良くなり、そのくせチャンスがあればみんな捨ててしまう。
 劇中、ギャラピアは悪玉扱いだが、冷静に考えてみるとそれほど悪い男ではない。少なくともドゥースへ貢ぐ姿はいじらしい。
 でもドゥースには利用されっ放しだ。

 ドゥースだって取り立てて悪女なわけでも計算高いわけでもない。
 でもギャラピアの真心(下心とも云う)を利用するとは、80年近いときを隔てても、フランス女性はしたたかだということか。


 そして物語は、パリ祭が山場となる。
 もちろん『巴里祭』(1932)を思い起こすところだが、以前の記事にも書いたとおり、フランスでは革命記念日を「パリ祭」とは呼ばない。
 しかし日本で「パリ祭」と呼ぶ伝統にならって、字幕では「パリ祭」と訳してくれているのが嬉しい。
 そして、パリ祭がハッピーに終わらないのもお約束だ。


 さらに、すったもんだの挙句、友人のために投獄されるのも、『巴里の屋根の下』と同様で懐かしい。


 ラストは、街角の石畳からカメラが引いていき、巴里の街を俯瞰するというこれまた心憎いカット。
 『巴里の屋根の下』に始まり『巴里の屋根の下』に終わるということか。


 映画の最後に、クリストフ・バラティエ監督の叔父であるジャック・バラティエ監督への献辞があるが、ジャック・バラティエは1969年にルネ・クレールのドキュメンタリーを作った人物である。
 だからといってクリストフ・バラティエ監督がどこまでルネ・クレールを意識したかは知らないけれど、ルネ・クレールのファンには嬉しい2時間だった。


 『幸せはシャンソニア劇場から』は腹がよじれるほど大笑いさせる映画ではない。
 号泣させて涙を搾り取る映画でもない。
 けれど、ちょっと微笑み、ホロリと泣いて、ちょいとばかり苦さもあって、パリジャンの粋を味わえる映画である。


幸せはシャンソニア劇場から』  [さ行]
監督・脚本/クリストフ・バラティエ  脚本/ジュリアン・ラプノー
作詞/フランク・トマ  音楽/ラインハルト・ワーグナー
出演/ジェラール・ジュニョ ノラ・アルネゼデール ピエール・リシャール マクサンス・ペラン
日本公開/2009年9月5日
ジャンル/[ドラマ] [音楽]

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