『バルフィ!人生に唄えば』 やったもん勝ちなんや!

バルフィ!人生に唄えば [Blu-ray] 【ネタバレ注意】

 現実の出来事を誇張しながら展開するテレビドラマ『アオイホノオ』、第8話に名言が飛び出した。

 「世の中、やったもん勝ちなんや!」

 自主制作アニメに、パワードスーツをはじめ古今東西のSF作品のキャラやメカを登場させようとする岡田トシオに対し、常識をわきまえた赤井タカミは「そんなこと勝手にやっちゃっていいんですか!?他人の作品ですよ」と意見する。
 だが、岡田トシオが返した言葉がこれだ。「世の中、やったもん勝ちなんや!」

 現実に、岡田斗司夫氏や赤井孝美氏らはパワードスーツやヤマトやイデオンが登場する何でもありのDAICON3オープニングアニメを1981年に発表した。
 他人の創造物を勝手に取り込むことの是非は、ここでは論じるまい。重要なのは、このアニメがSFファン、アニメファンに大きなインパクトを与え、アニメの歴史を変える画期となったことだ。

 アヌラーグ・バス監督の『バルフィ!人生に唄えば』は、過去の名作を取り込んだことで剽窃と非難された。
 たしかに本作は、劇中で数々の映画を再現している。
 主人公バルフィが引き戸に隠れるシーンは『チャップリンの冒険』の再現だし、バルフィが彫像のカバーの下で寝ているところは同じくチャップリンの『街の灯』だ。警官隊から逃げ回るシークエンスは『キートンの警官騒動』のままだし、さらに自転車に乗って逃げればジャッキー・チェンの『プロジェクトA』になる。ドアにぶつかって顔が歪んだり、人形と戯れるところは『雨に唄えば』でドナルド・オコナーが披露した名人芸だ。
 先人の偉業を取り込みながらクレジット一つないのはいかがなものか、と非難するのは判らないでもない。

 これに対してバス監督は、オマージュを捧げたかったんだと述べている。それが証拠に本作でチャールズ・チャップリンのポスターを映したと説明する。
 チャップリンのポスターを映したくらいで、上に挙げた数々の映画の再現をオマージュとして済ませるかどうかはともかく、これらの元ネタは映画史上極めて有名なシーンばかりであり、映画ファンなら多かれ少なかれ察しがつくに違いない。
 そして元ネタが判る人ならば、これが単なるご愛嬌だと感じるはずだ。
 なにしろバルフィ役のランビール・カプールの熱演にもかかわらず、チャップリンほど滑稽でもなければバスター・キートンほどの切れもなく、ジャッキー・チェンほどのアクションでもないしドナルド・オコナーの芸域にも達していないのだから。
 しかも『ロイドの要心無用』よろしく時計台に登るものだから、てっきりハロルド・ロイドのように時計の針にぶら下がってハラハラさせるのかと思いきや、にこやかに手を振るだけで何もしない。その見事な肩透かしには苦笑させられる。
 とどのつまり、本作の"オマージュ"シーンで実感するのは、先人たちの偉大さであり、その偉業はちょっとやそっとじゃ真似できないということだ。それでもチャレンジするランビール・カプールとアヌラーグ・バス監督が微笑ましい。

 そもそも本作はチャップリンやバスター・キートンやジャッキー・チェンの真似で笑わせたり楽しませたりする映画ではない。
 描かれるのは聾者の主人公と自閉症の少女の交流だ。
 だからこそ、音声のコミュニケーションよりも仕草、動作に重きを置いた作品になっており、そこからサイレント映画やアクション映画の面白さを援用した作りがなされている。
 だが、そのおどけた仕草や愉快なアクションは、本作において枝葉でしかない。本作の魅力は何と云っても個性的な登場人物であり、感動的な物語であり、ユーモア溢れる語り口なのだ。これは抜群に楽しくて愉快で、それでいて切ない映画である。
 剽窃との非難に対して、バス監督が「プロットと脚本とキャラクターとシチュエーションは独創的だ」と主張するだけのことはある。

 聾者が登場する映画は数々あれど、言葉を発さないからといってサイレント時代の動きを取り入れた映画を、寡聞にして私は知らない。
 それがチャップリンやキートンの真似かどうかという以前に、こんな映画を作ってみようという発想が面白い。そして、それを実践したからこそ本作は大ヒットし、高い評価を得られたのだ。
 まさしく「世の中、やったもん勝ち」だ。

 発想の面白さはそれだけではない。観客は映画のオープニングからニヤニヤさせられることだろう。
 本作は普通なら映画の終わりにクレジットする献辞やパートナー企業のロゴを頭に持ってきて、なかなか話がはじまらない。で、何をしているかというと、献辞等をクレジットしながら「♪映画がはじまるよ~、上映中は足を伸ばしちゃいけないよ~、静かに観なきゃいけないよ~」と面白おかしく鑑賞マナーを歌っているのだ。鑑賞マナーを本編映像に組み込んだ『謝罪の王様』に勝るとも劣らない洒落た注意喚起である。
 そんなところからもアヌラーグ・バス監督の映画への愛が、とりわけ映画を観るという行為が好きであろうことが伝わってくる。そこに共感できるから、本編での数々のオマージュも微笑ましく見てしまう。

 『バルフィ!人生に唄えば』には、こんな素敵なアイデアが最初から最後まで一杯に詰まっている。
 本作はバルフィという愉快な男の誕生から死までを描いた一代記でもあるし、ロマンチックなラブストーリーでもあるし、なんと誘拐事件を描いたミステリーでもある。
 その上、愛や人生や幸せについて考察し、その普遍的な結論に共感せずにはいられない映画だ。


 だが、私が一番感心したのは、聾者や自閉症の少女を取り上げながら、そこを主眼とするのではなくラブストーリーやミステリーを彩る登場人物として扱ったことだ。
 映画やテレビドラマではどうしても障碍そのものを主題にしがちだ。観客の多くにはそれが珍しくて特別なものだから、興味をかき立てるのにうってつけなのだろう。
 しかし、恋や冒険は誰にでも──障碍の有無に関係なく──訪れるものだ。それは誰にとっても大切な経験だろう。
 聾者や自閉症患者が、健常者に交じって恋のバトルを繰り広げる。耳が聞こえたり聞こえなかったり、喋れたり喋れなかったり、そんなことに意味はない。誰もが平等に恋のライバル。
 そんな作り手のスタンスに、一番感心したのだった。


バルフィ!人生に唄えば [Blu-ray]バルフィ!人生に唄えば』  [は行]
監督・制作・原案・脚本/アヌラーグ・バス
出演/ランビール・カプール プリヤンカー・チョープラ イリヤーナ・デクルーズ
日本公開/2014年8月22日
ジャンル/[ドラマ] [ロマンス] [コメディ]
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【theme : ロマンス映画
【genre : 映画

tag : アヌラーグ・バス ランビール・カプール プリヤンカー・チョープラ イリヤーナ・デクルーズ

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