『オール・ユー・ニード・イズ・キル』 面白さの秘密

 娯楽映画や娯楽小説は、私たちを心地好く現実逃避させてくれる。
 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の痛快な面白さの根底にあるのも、虫がいい現実逃避である。
 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の原作は日本の小説『All You Need Is Kill』。"kill"というネガティブな言葉を避けるため原題は『Edge of Tomorrow』に変えられたが、邦題は日本での知名度を活かすためでもあろう、原作の題名をカタカナ表記にしている。

 「このじつにユニークな"タイムループ"というコンセプトに僕は夢中になった」とダグ・リーマン監督は語る。
 しかし、同じ時間を繰り返す「ループもの」と呼ばれる作品は数多い。たとえば、楽しい時間をいつまでも繰り返す『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や、絶望的な状況で戦いを繰り返す『魔法少女まどか☆マギカ』が挙げられよう。
 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も後者と同様に、果てしない戦いを繰り返す物語だ。

 本作の構造はシンプルだ。
 トム・クルーズ演じるウィリアム・ケイジ少佐は、これまで広報しか担当しておらず戦闘能力ゼロ。地球外生物との戦いの最前線に送られて、あっさり戦死してしまう。気が付くと出撃の前日に戻っていた彼は、勝利を目指して戦いを繰り返す。
 これだけのコンセプトだが、映画は滅法面白い。

 「ループもの」の常として、主人公は前のループの経験を活かしながら少しずつ前進していく。彼はヘリがどこに墜ちるかも知っているし、敵がどこに出現するかも知っているから、同じ轍を踏まないように行動できるのだ。
 中盤には、同じくトム・クルーズが主演した『マイノリティ・リポート』の主人公が予知能力者と逃避行する場面を思わせる展開もあり、ニヤリとさせられる。
 元の時間に戻るきっかけは、主人公の死だ。彼が死ぬだけでなく、毎度々々ヒロインの死にも遭遇する戦いは苛烈きわまりない。
 それでも本作が楽しいのは、凡人が優越感に浸れる物語になっているからだろう。

 同じ時間を繰り返すリフレインプレイヤーである主人公は、これから起きることを知っている。失敗をしでかすことも、どう立ち回れば避けられるのかも知っている。
 人はこれから何が起きるか判らないから将来を心配し、不安にさいなまれる。でも周りの人が知らない中で自分一人が知っていたら、こんないかした立場はない。気持ちのいいシチュエーションだろう。
 もしも明日の試験問題に何が出題されるかを自分だけが知っていたらどうだろう。試験に合格するかどうか不安に思うことはない。みんなが出題されないところを勉強しているあいだに、自分は確実に試験に出る箇所に集中して勉強できる。みんなに出題内容を教えて上げれば、感謝されるかもしれない。
 「ループもの」の根底には、みんなにとっては不確かな未来を自分だけが知っている優越感、自分だけはやり直せる優越感があると思う。

 もちろん過酷な戦いの中で、本作の主人公は優越感を覚えるどころではない。
 しかし、自分が戦いを終わらせねばという悲壮感を抱けるのも、リフレインプレイヤーの特権だ。

 しかも何度でもやり直せるから、ますます未来を確かなものにできる。
 試験に不合格だったら、また受ければいい。どんな難問でも、事前の勉強と受験とを何十回も繰り返せば解けないはずはない。
 戦闘能力ゼロだった本作の主人公も、ループの中で特訓を続け、遂には誰もが一目置くほど優秀な兵士になる。
 たとえ訓練しても、リセットで過去に戻ったら肉体的な習熟や技能は失われるんじゃないかとか、細かいことが気にならないではないが、ここで重要なのは他の人が一日を過ごすあいだに主人公が数十日分、いや数百日分の鍛錬を積み、他者を引き離せるということだ。
 クリプトン星の生まれじゃなくても、超兵器を発明する天才じゃなくても、いかに凡人であろうとも他者の数百倍の鍛錬ができれば優れた成果を出せるはずだ。ループに巻き込まれたおかげで、特別なものを持たない凡人が他者より優位に立てるのだ。

 加えて、この状況は自分が望んだものではない。自分はループ地獄に巻き込まれた被害者だ。
 そんな被害者意識を抱きつつ、他者より圧倒的な優位に立てる物語なのだから、「ループもの」に人気があるのもうなずける。
 大多数の観客は戦場に出たことなどないから、戦闘経験のない主人公に自分を重ねやすい。通常なら観客だけに許されるはずの神の視点を主人公が持っている点でも、観客は同化しやすい。そして「ループもの」の特性が<主人公=観客>に優越感を味わわせ、スリルとサスペンスとアクションが時間を忘れさせる。

 多くの人が娯楽映画を観るのは、苦悩するためではない。
 人は心地好い時を過ごし、爽快な気分を味わうために映画館へ足を運ぶ。
 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、そんな私たちの望みを存分に叶えてくれる。


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監督/ダグ・リーマン(ダグ・ライマン)
出演/トム・クルーズ エミリー・ブラント ビル・パクストン ブレンダン・グリーソン ノア・テイラー キック・ガリー 羽田昌義
日本公開/2014年7月4日(2014年6月28日先行上映)
ジャンル/[SF] [アクション]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : ダグ・リーマン ダグ・ライマン トム・クルーズ エミリー・ブラント ビル・パクストン ブレンダン・グリーソン ノア・テイラー キック・ガリー 羽田昌義

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