『そこのみにて光輝く』 底のみにて見える光

 映画の魅力とは何だろう。
 映画の数だけ違う魅力があると思うが、これだけは欠かせないというものは何だろうか。

 ストーリーの面白さじゃないことは確かだ。
 ストーリーが面白い映画も良いけれど、先の展開が読めてしまう映画でも一向に構わない。小津安二郎監督の映画や『男はつらいよ』シリーズに足を運ぶ観客は、波乱万丈の物語や意表を突いたオチなんて望んでいない。ルイス・ブニュエル監督の『アンダルシアの犬』のように、ストーリーがない映画もある。

 音楽も必ずしも重要ではない。優れたミュージカル映画がある一方で、『白いリボン』のように音楽が一切なくても傑作たり得る。
 映像はとても大事だが、ターセム・シン・ダンドワール監督の人工的で豪勢な映像やら、タルコフスキー監督の野原を歩くだけの映像やら、映像にも様々なものがあり、これが魅力とは特定しにくい。

 映画は総合芸術だから、一つの要素を取り出して検討してもあまり意味はないが、私が特に重視しているのは映画の持つリズムである。
 映像の切り替わりや役者の動作、背景に流れる音楽、それらが統合して心地好いリズムを伝えるとき、いい映画だと感じる。次のショットに変わる際の微妙な間合いや、役者が口にするセリフのテンポ。あらゆる要素がリズムを生み出し、観客を陶酔させる。そんな映画に出会えると、最高に嬉しい。

 呉美保(お みぽ)監督の『そこのみにて光輝く』も、そんな嬉しい作品だ。
 題材の暗さにも関わらず、物語の救いのなさにも関わらず、ここには清々しいほどの気持ち良さがある。いつまでも余韻に浸っていたい心地好さだ。
 呉監督の奏でるリズムに、観客は共鳴し共感する。

 細部まで神経の行き届いたその心遣いは、まるで老舗の旅館のようだ。豪華ではないし、食べ放題のような目玉企画もないけれど、快適で忘れられない旅館だ。
 良い旅館は押しつけがましいところがない。じんわりと感じる居心地の良さを提供する。
 本作には説明的なところがない。説明せずに、じんわりと感じさせる。
 たとえば、シーンが変わるとカレーライスの大盛りが映る。ルーがこぼれそうなほどのカレーライスは、観客の気分を引き立てる。そのあとに本作にしては明るい会話が続くのも、カレーの後では不自然じゃない。フライパンの少しばかりのチャーハンを分け合って、フライパンから直接食べていた境遇から、カレーライスの大盛りへ。そこに説明臭いセリフはないけれど、登場人物たちの「ちょっと良くなった感じ」が言外に伝わってくる。

 あるいは、緊迫したシーンでの効果音の使い方。
 緊迫したシーンには、どんな音楽や効果音が適するのだろうか。情報医療を研究する本田学氏は、無音こそ危険が迫っていることを示すだろうと推察する。
 「この部屋の環境音をなくしたら、急に圧迫感みたいなものを感じましたよね。昔、熱帯雨林にいた生物にとっては、何かの危険が迫ってたりすると、ぱっと音がやんで、警告反応みたいなものを起こしちゃうんじゃないかと。高周波音があるのがベースだとしたら、音がなくなることのほうがむしろシグナルとしては強く作用して、それが慢性的に続くと、ストレス反応みたいなものに近づいたりとかしていかないかと……」
 本作でもっとも緊迫したシーンでは、すべての音が消えてしまう。音楽も効果音もない。
 呉美保監督が脳の研究を踏まえたのかどうか知らないが、全編緊張を強いる『ゼロ・グラビティ』が音楽を多用し過ぎて逆効果だと感じていた私は、本作の音の使い方に舌を巻いた。

 その呉監督の演出に応えた出演陣がまた素晴らしい。
 特に惚れ惚れするのが池脇千鶴さんだ。どの映画でも彼女が登場すれば引き締るが、本作は出ずっぱりなので最後まで締りっぱなしだ。
 呉監督は「今回はラブストーリーということもあり、観客の男性には千夏という女に惚れてもらいたい、同時に一人の人間として、千夏を肯定したいと考えました」と語る。
 監督の狙いどおり、池脇千鶴さん演じる千夏という女には、魅了されずにいられない存在感がある。


 本作でたった一つ説明的なのはタイトルだ。本作の二時間は、『そこのみにて光輝く』という短い言葉を説明的に感じさせないための、観客の腑に落とすための時間でもある。
 本作は社会の底辺に生きる人々の救いのない人生を追いながら、やがて『そこのみにて光輝く』という言葉に集約していく。
 暗い闇に閉ざされた人生でも、そこでは、そのときだけは光輝く。一瞬かもしれないけれど、他の人は気付かないかもしれないけれど、確かに光輝いている。
 その瞬間を示す映像。それを見られたことが、何よりも幸せだ。


そこのみにて光輝く オリジナル・サウンドトラックそこのみにて光輝く』  [さ行]
監督/呉美保  脚本/高田亮
出演/綾野剛 池脇千鶴 菅田将暉 高橋和也 火野正平 伊佐山ひろ子 田村泰二郎
日本公開/2014年4月19日
ジャンル/[ドラマ] [ロマンス]
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