『LIFE!』 赤か青なら、赤を選ぼう!

 【ネタバレ注意】 

 いったい、どうしろと云うのだ!?
 映画が進行するにつれ、私は居心地の悪さを覚えはじめた。

 『LIFE!』は1947年のダニー・ケイ主演作『虹を掴む男』のリメイクだが、2007年に70年の歴史に幕を下ろしたグラフ誌『LIFE』を絡めることで、現代的になっている。
 雑誌そのものを手に取ったことはなくても、『LIFE』の名を知る人は多いだろう。マンガ家石ノ森章太郎が『LIFE』に掲載されたサイボーグの記事に触発されて『サイボーグ009』を構想したことはあまりにも有名だ。『LIFE』がなければ、石ノ森章太郎のライフワークと云われる『サイボーグ009』は誕生しなかっただろうし、そうなればサイボーグという言葉が日本でこれほど普及することもなかったかもしれない。

 紙媒体としての『LIFE』は2007年をもって姿を消したが、『LIFE』は今もWeb上のサービスとして存在する。
 しかし、紙の『LIFE』の休刊とともに職を失った人は多いはずだ。紙からデジタルへの移行は、今まさに多くの人を直撃している課題である。

 本作の主人公ウォルター・ミティは、『LIFE』に掲載される厖大な写真のネガを管理している。主な作業場所は倉庫の中で、この上なく地味な仕事だ。リストラ担当の新しい上司にはバカにされ、職場の女性には片思いを募らせるばかりで誘いの言葉もかけられない。
 ウォルターらは『LIFE』の最終号発行に向けて準備を進めることになるが、最終号の表紙にするべき写真――フォトジャーナリストのショーンをして、自身の最高傑作であり、『LIFE』の真髄と云わしめた写真の行方が判らなくなってしまう。窮地に立たされたのは、ネガを管理するウォルターだ。
 いくら探しても写真を見つけられないウォルターは、本当にネガを送ったのか確かめるため、ショーン本人に連絡を取ろうとするのだが……。

 うだつの上がらないウォルターの唯一の逃げ場は、空想の中だ。
 駅で、職場で、公園で、ウォルターはすぐ白昼夢にふけってしまう。空想の中のウォルターは冒険心に溢れており、大災害の現場で雄々しく活躍し、女性にも堂々と話しかけることができる。
 けれども、すぐに空想に逃げ込むウォルターは、現実の世界ではボンヤリした男と呆れられている。

 そんな映画を目にしながら、私は居心地が悪かった。
 空想の中のウォルターは、超人的な力を発揮したり、ユーモア溢れる会話で女性を魅了したりする。これらのシーンは多分にコミカルだから、観客は笑えば良いのだろう。
 しかし、私には笑えなかった。
 これはしょせん空想の中の出来事だ。我に返れば雲散霧消する。空想のシーンがユニークであればあるほど、そして迫力があればあるほど、私は白けてしまった。これらはどうせ、ウォルターが逃避した心の中でしかないのだ。
 あなたもこんな風に現実から逃げ出したいことがあるでしょう――そう見透かされているようで、居心地が悪かった。

 それから映画は、フォトジャーナリストのショーンを探して世界を旅するウォルターを映し出した。
 『マトリックス』の主人公ネオが、これまでどおりの安穏とした生活に戻れる青い薬ではなく、真実を探求する赤い薬を選んだように、ウォルターは赤いレンタカーを選んで旅に出る。
 北の果てグリーンランドへ向かうウォルター、海に飛び込みサメと戦うウォルター、アイスランドの火山を訪れるウォルター。さらにはアフガニスタンやヒマラヤへとウォルターの旅は続く。
 作品の舞台を『LIFE』の出版社にしたことが、ここで効いてくる。『LIFE』のフォトジャーナリストを追うのであれば、世界中を旅する理由になる。大がかりなロケを生かしたストーリーも展開できる。

 アイスランドで撮影したそれらの映像は、CGIで作った空想の世界とは違い、雄大で美しかった。
 火山のふもとの長い坂をスケートボードで滑走するのは爽快だったし、アフガニスタンの軍閥の長たちが手作りのケーキに喜ぶ姿は愉快だった。
 見知らぬ土地、見知らぬ人々との出会いを通して、ウォルターは逞しくなっていった。白昼夢にふけることもなくなった。
 客席の私もウォルターとともに世界を旅しながら、驚きと興奮を感じていた。

 だが、相変わらず居心地は悪かった。
 素晴らしい映像に打たれながらも、居心地の悪さは増すばかりだった。 
 いったい、どうしろと云うのだ!?
 映画を観ながら私は思った。
 都会の片隅に埋もれて空想の中に逃げ込んでいるよりも、広い世界に飛び出そう――というメッセージは判る。違う国、違う大陸の人々との出会いは刺激に満ちていて、大自然はこれまで抱えていた悩みなんか吹き飛ばすほど素晴らしい。それは映画から感じられる。
 でも私には、無くし物を探して今すぐグリーンランドへ飛ぶことはできないし、人を訪ねて一人でヒマラヤを探索することもできない。

 「生きてる間に、生まれ変わろう。」
 『LIFE!』のポスターにはそんな文字が躍るけど、これほどの旅をすれば生まれ変われるというのなら、これほどの旅をしなければ生まれ変われないというのなら、私には共感できない。
 この映画を通して、見たこともない映像を目にすることができた。それだけのことでしかない。
 私はそう思った。

 ところが、映画が最後に提示したのは、ウォルターの地味な仕事の肯定だった。都会の片隅で人知れずこつこつ生きてきたウォルターの、すべてを肯定することだった。
 世界に飛び出さなくても、これまでウォルターのやってきたことが大切だったのだ。
 ウォルターは気が付いていないだけだった。
 彼が歩み出すべき土地も、話しかけるべき人々も、彼の目の前に存在したのだ。
 映画を最後まで観た私は、涙が溢れた。


 「この映画のメッセージは、現実を受け止め、毎日の生活を大事にすれば、本や夢で見るよりも充実した人生を手にできるということ。」
 本作の監督・制作・主演を務めたベン・スティラーは公式サイトのインタビューに応えて述べている。
 「夢は大切だけど、自分の責任は果たさなければならない。想像力は物事が何も上手く行かなかったときに、諦めの気持ちを軽減してくれるものなんだ。」

 100冊の本を読むよりも、100本の映画を観るよりも、大切なのはいま目の前の仕事をきっちり行うことだ。家族や、自分が責任を持つ人々との関係を大切にすることだ。
 誰かが見ているかもしれないし、誰も見ていないかもしれない。だが、そんなことは関係ない。自分のするべきことをきちんと行うのが、自分にとって価値があるのだ。
 
 ベン・スティラーはこうも語る。
 「若い時はとにかく仕事で認められたい、人に評価されたいと、一生懸命に頑張る。でも、ある年齢に達すると、そうじゃなくなり、同じ仕事でも自分のためにやるようになるんだ。自分のためにこつこつ仕事をするのが大事なんだと、目的意識が変わっていく。それが大人になるということなんだ。」

 私は最高の後味を噛みしめながら、映画館を後にした。


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監督・制作/ベン・スティラー
出演/ベン・スティラー クリステン・ウィグ アダム・スコット シャーリー・マクレーン ショーン・ペン キャスリン・ハーン
日本公開/2014年3月19日
ジャンル/[ファンタジー] [ドラマ] [アドベンチャー]
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【theme : ヒューマン・人間ドラマ
【genre : 映画

tag : ベン・スティラー クリステン・ウィグ アダム・スコット シャーリー・マクレーン ショーン・ペン キャスリン・ハーン

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