『トリック劇場版 ラストステージ』 霊能力者の正体とは?

 【ネタバレ注意】

 「われわれも、そしてきっと皆さんもモヤモヤしていたドラマのテーマ性の部分に、そろそろ決着をつけてもいいのではないかと思ったのです。」
 山内章弘プロデューサーはこう語った。
 「霊能力なんか信じないという人も、お正月には初詣でに行ったりはしますよね」
 「われわれも『トリック』みたいな作品をやっていて何ですが(笑)、おはらいをやったりする。でも、それが人間だよね」

 完結編となる『トリック劇場版 ラストステージ』は、「この世に霊能力というものはあるのか」「人はいったい霊能力をどうとらえているのか」というこのシリーズのテーマに、真正面から真摯に取り組んだ作品だ。

 もちろんシリーズの常として、小ネタのオンパレードで楽しませてもくれる。
 登場人物の背景には、ギャグをまぶした貼紙が所狭しと貼り出され、「貼紙禁止」の貼紙まである。
 会話は相変わらず、
 「死者!?」
 「――五入。なんちゃって。」
というノリだ。
 小ネタの数々で笑わせて、「このノリが『トリック』なんだな」と懐かさを覚えさせる本作は、主人公山田奈緒子と上田次郎の掛け合いが続くだけでも何だか満足できてしまう。

 しかしながら驚くのは、そんな小ネタで相殺しなければならないほど、本作の霊能力への切り込みが至って真面目なことだ。
 これまでも本シリーズはインチキ霊能力者の正体を暴き、霊能力なるものがトリックでしかないことを明らかにしてきた。一方で、霊能力の存在を完全には否定し切らず、もしかしたらどこかに霊能力者がいるのでは……という含みを持たせてきた。
 観客誰しも、新作を観るたびにモヤモヤが残ったはずだ。
 山内プロデューサーの云うとおり、本作はそこにきちんと決着をつけている。奇をてらわず、これまでの積み重ねを踏まえたその結論は、大いに説得力のあるものだ。

 本作で山田奈緒子が対決するのは、ジャングルの奥地、秘境の部族から崇められる呪術師ボノイズンミだ。
 未来を予知し、病気を治すことも、人を呪い殺すこともできるボノイズンミは、資源開発のために彼女の村を蹂躙する日本人を次々に抹殺していく。
 この強敵に奈緒子と上田が挑むのだが、もちろんボノイズンミの呪術は霊能力ではない。

 「なんだ、インチキじゃないか。」
 ボノイズンミの見せた超常現象のカラクリを知った奈緒子は思わず口走る。
 一見、霊能力のようであろうとも、そこには緻密な演出と計算があり、人間心理を突いたトリックが仕掛けられているのは毎度のことだ。
 しかし、それだけでは説明できないもの、これまでモヤモヤさせられたものに切り込んでいるのが本作の特徴である。
 呪術師ボノイズンミはたしかにトリックを弄し、演出を施していた。同時にそこには、本当に病気を治す力、人を殺す力も存在した。
 それは西洋医学や西洋科学ではまだ知られていない薬剤だ。ジャングルの豊富な生物資源を源泉とし、代々の呪術師に伝えられてきた薬剤の中には、現代の西洋医学では及ばない効果が存在するという設定だ。

 本作の背景には工業文明による環境破壊があり、西洋医学や西洋科学で説明できないものをバカにして切り捨てようとする危うさが描かれている。私たちの知る医学や科学が土着の伝承よりも優れているなんて決めつけるのは、とんでもない思い上がりなのだ。
 もちろん、薬剤の効能を霊能力のように見せかける卑劣さを奈緒子が許すはずもなく、世にはびこるインチキ霊能力を糾弾する姿勢は本作にも貫かれている。

 また、奈緒子やボノイズンミが予知夢を見ることについても合理的な説明がなされる。
 彼らはこれから大爆発が起きて地域全体が滅亡することを夢で知る。
 劇中では、地下に充満した可燃性ガスが起こす振動を、とりわけ敏感な知覚を持つ奈緒子やボノイズンミが無意識に察知していたのだろうと説明する。
 これもまた理にかなった結論だろう。
 人一倍鋭敏な感覚の持ち主がいたとして、彼らを適切に扱えなければ「霊能力者」として祭り上げることになりかねない。適切な呼び方がないから「霊能力」なんて言葉に飛びついてしまうけれど、そこには少し鋭敏な感覚を持て余している個人がいるだけなのかもしれない。

 このように「ちょっと変わった人」を普通に遇することができないとしたら、それは本人の問題ではなく、社会の側が問われることではないだろうか。
 本作からはそんな問題提起すらうかがわれる。


 でも、現実にはそんな人はいないでしょ。と思われるかもしれない。
 だが、科学の進歩は、人間の知られざる面を解明しつつある。
 唐辛子の辛さを手で触れただけで感じとったり、目を閉じているのに色の違いを感じたりしたら、それは霊能力だろうか。本当にそんな人がいたら霊能力者扱いされるかもしれないが、近年、人間にはこれまで知られていた以上の知覚があるらしいことが判ってきた。表皮細胞は唐辛子の辛み成分であるカプサイシンに反応するし、皮膚の遺伝子配列の一部は眼の網膜と一緒であり、光の明暗を感じるタンパク質「ロドプシン」は表皮にも存在する
 ものを見るのは目の役割、味を感じるのは舌の役割、私たちはそう思い込んでいるが、どうやら体の器官は私たちが考えるほどきっちり役割分担しているわけではないらしい。

 たしかに生物の発生を考えるとき、受精卵が分裂し、胚が分裂を繰り返していく過程で、外側の皮膚が窪んで神経になり、そこから脳や眼が作られていく。
 傳田光洋氏は脳を持たないクラゲを例に出し、もともと表皮に判断システムを含むすべての働きが存在していたのではないかという。
 であればこそ、傷ついた皮膚に赤い光を照射するとダメージからの回復が早くなり、青い光を当てると回復が遅くなるなんて「怪現象」も起こる。

 音についても同様で、人間の可聴域はせいぜい2万ヘルツ程度までと云われるが、2万ヘルツ以上の音を人体に照射したら、耳を塞いでも被験者の生理状態に影響を及ぼした報告があるという。
 山田奈緒子やボノイズンミも、意識の上では聞こえない音を、全身で感じ取っていたのかもしれない。

 私たちはまだまだ人体のことすらよく判ってはいない。
 そこに、正月には初詣でに行ったり、安全祈願や学業成就のお守りを買うような迷信深さが加わると、「霊能力者」を出現させてしまうのではないか。


 完結編となる『トリック劇場版 ラストステージ』は、意外や感動作でもある。
 例によって冒頭では、伝説の奇術師ハリー・フーディーニの逸話が紹介される。
 彼は死の直前に「もしも死後の世界があるならば、一年後必ず連絡をする」と妻に云い残して死ぬ。一年後、妻は多くの霊能力者を集めてフーディーニからの連絡を待つが、結局なんの連絡もなかった。
 映画の結末で、これがフーディーニの妻への思いやりであることが明らかになる。

 フーディーニだって死後の世界があると思ったわけでも、ましてやそこから連絡が取れると思ったわけでもなかろう。
 だが、フーディーニの言葉のおかげで、妻は一年間生きていくことができた。一年後に連絡がなかったとしても、そのときには妻もある程度気持ちの整理がついているはずだ。
 それを見越したフーディーニの愛情が、この言葉には込められている。

 映画のクライマックスで、咄嗟にフーディーニと同じ言葉を口にした奈緒子の気持ちを思うとき、そしてそれをバカ正直に信じた上田の気持ちを思うとき、観客は大きな感動に包まれることだろう。


トリック劇場版 ラストステージ 超完全版(本編Blu-ray&特典Blu-ray2枚組)トリック劇場版 ラストステージ』  [た行]
監督/堤幸彦  脚本/蒔田光治
出演/仲間由紀恵 阿部寛 生瀬勝久 野際陽子 東山紀之 北村一輝 水原希子 中村育二 石丸謙二郎 池田鉄洋 吉田鋼太郎
日本公開/2014年1月11日
ジャンル/[コメディ] [ミステリー]
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