『少年H』『麦子さんと』『グッモーエビアン!』『ザ・コール [緊急通報指令室]』 ムービープラス・アワード2013

 ムービープラスが実施しているムービープラス・アワード 2013
 その4部門に投票したので、内容を紹介する。
 今年は男優賞、女優賞が一部門の俳優賞にまとめられ、その代わり作品賞が洋画、邦画に分けられた。

 投票に当たっては、例によって当ブログで未紹介の作品であることを心掛けた。
 すなわち、取り上げたい作品であったにもかかわらず、ブログ記事をまとめるには至らなかったことを、ここに懺悔する次第である。


俳優賞

少年H Blu-ray(特典DVD付2枚組) 吉岡竜輝 (『少年H』)

 日本でマイノリティを取り上げた映画を作るのは難しいだろう。なぜなら、マイノリティはあくまでマイノリティだから。
 いくらマイノリティが共感できる作品に仕上げても、マイノリティの観客動員数は限られている。それなりの予算をかけた映画を全国で公開したくても、とてもペイできないだろう。
 それでもマイノリティを取り巻く状況を巧くすくい取れば、描かれたマイノリティのみならず、誰もが感銘を受ける傑作になることがある。
 在日コリアンの登場する『パッチギ!』、アイヌの登場する『許されざる者』等が素晴らしいのは、マイノリティもマジョリティも実はなんら変わらないことや、見方を変えれば誰もがマイノリティかもしれないことを示して、多くの人の共感を集めるからだ。

 『少年H』の特徴は、キリスト教徒というマイノリティの家族を主人公にしたことだ。
 20億人以上の信徒を擁する世界最大の宗教キリスト教も、日本では人口の1%程度しか信徒がいないと云われる。
 戦時中を舞台にする本作には、主人公一家が「アーメン」と呼ばれて異端視される描写がある。
 マイノリティだからこそ、戦争へと急激に傾いていく世情の不気味さを距離を置いて見つめられる。この視点が本作の肝だ。

 劇中、Hこと肇少年は、「みんなでひとつになって敵と戦おう!」と気勢を上げる級友に食ってかかる。日頃から異端視されてきた彼は、この国がひとつなんかじゃないこと、「ひとつになろう」というかっこいい言葉が自分のような「異端者」への圧迫でしかないことを知っているからだ。
 本作は、官憲に追われるうどん屋の兄ちゃんや、戦争を拒否して首を吊らざるを得ないオトコ姉ちゃんらを配し、国が滅亡に向かうとき、社会から多様性が失われていくことを描き出す。

 消火訓練に励んだ人たちは、いざ焼夷弾が落ちると我先に逃げ出した。戦争が終わると、大人たちは手のひらを返すように態度を変えた。暴力的だった軍事教官すら、新しい「民主主義」の世の中に合わせようと懸命だ。
 結局のところ、人々を動かしていたのは同調を強いる空気だったのだ。
 中身のない空気だから、雲散霧消したら何も残らない。戦争の犠牲者は、空気のために死んだのだ。
 
 マイノリティの少年の目から歴史を描く本作は、妹尾肇を演じた吉岡竜輝(よしおか たつき)さんの演技に負うところが大きい。
 ときに無邪気に笑い、ときに大人をも睨みつける。子供っぽさと反骨を兼ね備えた彼が、一貫して映画の中心にいるから、大人たちの滑稽さや惨めさがあぶり出される。
 とりわけ、遠くで炸裂する焼夷弾を目にして「花火みたい」と他人事のように見とれる描写は、主人公が少年だからできることだ。大人がこんなことを口にしたら、頭がおかしいと思われるだろう。美術好きな少年が焼夷弾に見とれる様は、この戦争の圧倒的なむなしさと裏表だ。

 H役のオーディションの条件は、小学生から中学生までを一人で演じられることだったという。H役選びが難航する中、最後のオーディションで吉岡竜輝さんに巡り会えたことが、本作を形にする上で最大の成果だろう。
 豪華なキャストと日韓スタッフの仕事ぶりも充実しており、みんなの代表として本作からは吉岡竜輝さんを俳優賞に選びたい。


少年H』  [さ行]
監督/降旗康男  脚本/古沢良太
出演/水谷豊 伊藤蘭 吉岡竜輝 花田優里音 小栗旬 早乙女太一 原田泰造 佐々木蔵之介 國村隼 岸部一徳 濱田岳 山谷初男 でんでん
日本公開/2013年8月10日
ジャンル/[ドラマ] [戦争]


監督賞

グッモーエビアン! 【初回限定仕様】 [Blu-ray] 山本透 (『グッモーエビアン!』)

 2012年公開の作品だが、ムービープラス・アワード 2013 の対象は2012年12月1日~2013年12月31日に日本国内で公開初日を迎えた新作長編映画なので、2012年12月15日に封切られた本作も対象だ。

 本作の魅力は何といってもアキとヤグのロックな生き方である。
 将来のことをちゃんと考えて碁石を打つように生きるのも、これといって何もせずモラトリアムに過ごすのも人それぞれだ。
 アキとヤグはどちらでもなく、今を全力で楽しく生きる。そのため彼らの生き方は、はたから見ると奇行のようにも感じられる。だが、今日が楽しくなかったら、はたしてその延長上の明日が楽しくなるだろうか。

 同様のテーマに迫ったのが、タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』だ。
 今日が楽しくないのだから、もちろん明日も楽しくない。その過酷さに人間は耐えられるのか。
 154分の大長編は、そんな問いを突き付ける。

 しかし、ニーチェの思想を表現しているのは『グッモーエビアン!』の方だろう。ニーチェが述べたのは、同じような毎日の繰り返しを生き抜ける超人たれということだ。
 凡人には変わり者にしか見えないけれど、ロックのノリで生きていく超・自由人アキとヤグ。彼らこそ、実はニーチェの思想の体現者ではないだろうか。

 ……なんてことを考える間もなく、『グッモーエビアン!』は強烈なロックに乗せて疾走する。
 「自分にはロックスピリットがないんです」と白状した麻生久美子さんと大泉洋さんを、無敵のパンクロッカーに仕上げた山本透監督に敬意を表する。


グッモーエビアン!』  [か行]
監督・脚本/山本透  脚本/鈴木謙一
出演/麻生久美子 大泉洋 三吉彩花 能年玲奈 小池栄子 塚地武雅 土屋アンナ 竹村哲 MAH
日本公開/2012年12月15日
ジャンル/[ドラマ] [青春] [音楽]


作品賞 洋画

ザ・コール 緊急通報指令室 [Blu-ray] ザ・コール [緊急通報指令室]

 面白い!
 これは911緊急通報センターのオペレーターが、助けを求める電話を受け、通話だけで少女を救おうとするシンプルな物語だ。
 シンプルなだけに、少女を襲う恐怖の大きさとオペレーターの無力さが観客にも実感できる。緻密な頭脳ゲームとホラーがかった演出が融合し、飛び切りのサスペンスを生み出している。

 にもかかわらず当ブログで取り上げなかったのは、結末に共感できないからだ。
 復讐を煽るような展開には首を捻る。星条旗の下の自警行為の正当化に共感できないのは、私が米国民ではないからだろうか。
 それはさておき、面白さが秀逸なのは間違いない。本作を記憶にとどめておきたいと思う。


ザ・コール [緊急通報指令室]』  [さ行]
監督/ブラッド・アンダーソン
出演/ハル・ベリー アビゲイル・ブレスリン モリス・チェスナット マイケル・エクランド マイケル・インペリオリ
日本公開/2013年11月30日
ジャンル/[サスペンス]


作品賞 邦画

【映画パンフレット】 『麦子さんと』 出演:堀北真希.松田龍平.余貴美子 麦子さんと

 降参だ。
 私には吉田恵輔監督の作品を文章にまとめることができない。

 『さんかく』のときも鑑賞してから一年あまり悩んだ挙句、こんな記事でお茶を濁したが、どうせ『麦子さんと』も一年悩んだって記事にできないのだ。観たばっかりだが、とっとと懺悔するに限る。
 『麦子さんと』を言語化できないのは、この映画にあまりにも感情的な部分が反応するからだろう。吉田監督は、受け手の痛いところに容赦なく手を突っ込んでくる。そのため、言語化するほど作品を客観視できない。
 言語なんてものはヒト属が誕生して発達させたものだから、まだ数十万年の使用歴しかないが、感情はヒト属の誕生以前から(ヒト属か否かに関わらず)備わっているものだ。本当に奥深い感情は、言語で表現できなくて当然だ。そんな深みに届くのが、吉田監督作品だろう。

 アイドル的美少女とアニオタを両立させる堀北真希さんの演技が素晴らしいとか、松田龍平さんのぶっきら棒な態度が相変わらず面白いとか、余貴美子さんのヘラヘラした笑いが本当に癇に障って凄いとか、温水洋一さんが大人っぽくてカッコイイとか、95分を駆け抜けるシンプルな作劇の妙とか、書きたいことはいっぱいあるけれど、本作を前にしたら蛇足にしか思えない。

 作品賞には『ペコロスの母に会いに行く』、『さよなら渓谷』も考えたが、いさぎよく『麦子さんと』に降参しよう。

 劇中、麦子さんはたくさん後悔する。ことわざに「後悔先に立たず」という。
 どうせ私たちは、麦子さんとおんなじなのだ。


麦子さんと』  [ま行]
監督・脚本/吉田恵輔  脚本/仁志原了
出演/堀北真希 松田龍平 麻生祐未 余貴美子 温水洋一 ガダルカナル・タカ ふせえり 岡山天音 田代さやか 喜多丘千陽 萱沼千穂
日本公開/2013年12月21日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ] [青春]
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