『カノジョは嘘を愛しすぎてる』 大原櫻子さんを知ったきっかけ

 映画を知ったのは洋菓子店でのことだった。
 店頭でケーキを選んでいたとき、三人の男女の写真が気になった。
 「当店がテレビで紹介されました」と書き添えて、テレビの画像を貼り出す店はしばしばみかける。
 だが、これはそういうことではないらしい。芸能人らしい三人の写真がただ飾られているだけで、宣伝らしき文句はない。
 写真について店員さんに尋ねると、「ウチで撮影があったんです。」との答えが返ってきた。「今度の秋か冬に公開される映画があって、そのスピンオフのドラマがここで撮影されたんですよ。」
 ドラマの収録後、店が出演者にケーキをプレゼントしたときにこの写真を撮ったのだという。

 今にして思えば、仮面ライダーメテオを演じた吉沢亮さんと『プリンセス トヨトミ』に出演した森永悠希さんには気付いても良かったはずだ。
 けれどもそのときは、にこやかに写る二人が誰か判らなかったし、もう一人の可愛らしい女の子にも見覚えがなかった。それがプロアマ問わずのオーディションで5,000人の中から選ばれた大原櫻子さんとは知らなかったのだ。
 店員さんから、その映画が佐藤健さんの主演作であることを教えられた私は、映画とドラマを楽しみに待った。
 季節が移って、映画館に予告編が流れるようになり、私ははじめて映画の題名を知った。

 『カノジョは嘘を愛しすぎてる

 いささかハードルは高かった。
 原作は少女マンガだし、予告編も女の子向けの恋愛物っぽさがいっぱいで、明らかに若い女性がターゲットだと思われた。事実、観客の男女比は7対93で、10~20代が78.4%を占めるというから、観客は若い女性ばかりなのだ。
 そんな映画を観て楽しめるのだろうかとためらったが、それは完全に杞憂だった。
 劇中の「嘘」の行方にハラハラしたり、音楽の素晴らしさに圧倒されたり、主人公・小笠原秋(あき)と小枝理子(りこ)の愛に感動したりで、劇場を出たときはとても充実した気持ちだった。

 なにしろストーリーが面白い。
 秋の吐いた嘘と、理子が云い出せなかった隠し事。互いに秘密を抱える二人が、思わぬところでニアミスするわ、嘘の上塗りをしてしまうわで、先の展開が気になって仕方がない。
 ストーリーが見事なのは、人気マンガが原作なだけに当然かもしれないが、原作の面白さを損なわずに映画化するのは難しい。117分の映画にまとめるのはたいへんだったに違いない。

 ロックのインパクトも大きい。
 売れっ子のイケメンバンドCRUDE PLAY(クリュードプレイ)、女性ボーカル中心の三人組MUSH&Co.、そして女性ソロの茉莉たちの音楽が交錯する本作は、多くのミュージシャンの楽曲で構成されているのかと思った。
 だから、映画の鑑賞後に音楽プロデューサー亀田誠治氏がこれらの曲を作詞・作曲したことを知って驚いた。なるほど、それぞれ曲は登場人物とシチュエーションに合わせて個性的でありながら、映画全体では不思議な統一感がある。

 音楽業界を舞台にした本作の中心となるのは、もちろん音楽だ。
 公式サイトに掲載されたインタビューによれば、亀田氏は本作にかかわる前から原作を読んでおり、「音楽業界を、良きにつけ、悪しきにつけ、とてもリアルに描写していた点に感心して」いたという。
 そんな原作を映画化する意義について、小泉徳宏監督は次のように語っている。
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最近、マンガ原作の映画が多いのは、絵もセリフも原作に書かれているので、比較的映画に置き換えやすいからだと思うんです。だからこそ、僕がマンガを映画化するなら、それ以上の"意義"が欲しいなと思ってました。そんな中で「カノ嘘」を映画にする意義があると思った一番のポイントは、やはり音楽です。マンガからは彼らの音楽を想像することしか出来ませんが、映画では何か具体的な音が聞こえないといけない。同時にこれは、原作ファンの想像力に挑むという意味で、大きなチャレンジでもありました。
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 原作にタイトルがあったCRUDE PLAYの『サヨナラの準備は、もうできていた』、MUSH&Co.のデビュー曲となる『明日も』をはじめ、いずれも劇中でヒット曲として語られるに相応しい。
 理子が秋の作る曲の大ファンで、特に詞に惚れ込んでいるという設定のとおり、いずれの曲も詞がストーリーにマッチして印象的だ。映画のラストを締めくくる『ちっぽけな愛のうた』には、涙を禁じ得ない。

 登場人物が会話を共にするように、音楽を共有するのも面白い。
 秋と理子が一緒に歌うシーンや、心也(しんや)と一緒に歌う理子を目にして秋が苦悩するシーン等、その心情が音楽を通して伝わってくる。

 そんな秋を演じる佐藤健さんが、終始不機嫌そうな役にピタリとはまるのはさすがだが、その彼を向こうに回して理子を演じる大原櫻子さんがまた素晴らしい。いかにも「演技してます」という演技ではなく、自然な表情、自然な感情が溢れ出るようで、17歳の彼女は本当に学校でもこんな風に過ごしてるんじゃないかと思わせる存在感だ。
 彼女からこの表情を引き出した小泉監督の手腕には舌を巻く。


 さて本作は、一見するとヒット曲を連発する天才クリエーター秋とおっちょこちょいの八百屋の娘理子の恋物語だ。金持ちでハンサムで社会的に成功している年上の男性と、世間知らずで不器用な若い女性の組み合わせは、古今東西変わらない恋愛物の定番中の定番である。
 しかし、小泉徳宏監督はそれだけじゃ済まさない。インタビューに答えて、こう述べている。
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少女マンガの映画化というだけで、どうしても色眼鏡で見られてしまうところもあると思うのですが、僕としては10代や20代が楽しめる事はもちろん、大人の鑑賞にも十分堪えうる"作品"にしたいと最初から考えていました。そのために、この映画には恋愛以外にも様々な裏テーマを盛り込んでいます。若者向け、大人向けという区切り方ではなく、どの世代が観ても胸に残るモノがある、そういうゾーンがあるんじゃないかと。それが本当のメジャー映画だと思っています。
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 たしかに本作には「裏テーマ」が盛りだくさんだ。映画に登場する人物たちは、それぞれに悩みを抱えている。
 ビジネスライクなことはしたくない、でも売れなきゃ(聴いてもらえなきゃ)はじまらないという葛藤。
 やるべき仕事を貫徹したい思いと、それが周りの人に負担をかけてしまうこととの葛藤。
 愛する者のために、ときには身を引くことができるのかという葛藤。
 そんなテーマの数々は、年齢に関係なく多くの人の胸に突き刺さるのではないだろうか。

 とりわけ私が注目したのは、秋が書こうとしていた『世界平和』という曲だ。
 「世界がひとつになれば――」、そんな歌詞ではじまる曲を、秋はどうしても完成させられない。理子と出会い、多くの体験を通して続々と新曲を生み出した秋だが、映画冒頭で書きかけていた『世界平和』だけは完成させずに終わってしまう。
 感心した。
 秋の書きかけの詞を見たとき、てっきり「世界がひとつになれば――」なんて歌が劇中でうたわれるのかと危惧したからだ。でも秋は、そんなものは放り出した。
 
 世界がひとつになれば、世界は平和になるだろうか。
 なるかもしれない。世界をひとつにしたい人には気持ちのいい世の中になるかもしれない。
 でも、ひとつにするということは、自分の思想や文化や価値観で他者を染めることだ。
 相手にとっては堪らないだろう。ひとつにさせられる方からすれば、せっかく育んできた思想や文化や価値観を捨てろと云われるようなものだから。

 過去にも、世界をひとつにしようとする試みはいくつもあった。
 大航海時代、ヨーロッパ諸国は宣教師を乗せた船を送り出し、自分たちの宗教を世界に広めようとした。それは悲惨な植民地時代の幕開けでもあった。
 その欧米列強の植民地支配から東アジアを解放し、アジア人が共存共栄する世界を築くと称して、大日本帝国はアジア各国に攻め込んだ。各国にしてみれば、解放してやるからと攻められたのでは堪るまい。
 ジャイアンが「俺の歌を聞かせてやろう」と云ってのび太たちを呼びつけるようなものだ。

 東日本大震災の後、マスコミは「ひとつになろう日本」というキャンペーンを張った。あれもこれも自粛すべきという空気が醸し出され、その年は花火を見ることもできなかった。
 花火を見ないことが復興のどんな役に立ったのか、私は知らない。みんなで花火を見ない社会は「平和」なのかもしれないが、その「平和」でどれだけの人が笑顔になったのか、私には判らない。

 アジア太平洋こども会議・イン福岡の25周年を記念して作られた映画『空飛ぶ金魚と世界のひみつ』のメッセージはシンプルだった。
 「違くていいな」
 世界にはいろいろな人がいて、いろいろな国があり、いろいろな民族がいる。みんな多かれ少なかれ違っている。その違いを受け入れることが、ともに生きるための第一歩。ひとつになることじゃない。
 そんな単純ながら実践が難しいことをテーマにした映画だった。

 秋が音楽に向かう姿勢も同じだ。
 「世界がひとつになれば」ではじまる『世界平和』を完成させなかった。
 ライバルとも云える心也が書いた曲を、秋は「いい曲だ」と認めた。何が何でも自分の曲を歌わせようとはしなかった。

 秋の行動を目にして、私はこの映画の懐の深さに感じ入った。

               

 映画の公開に合わせて、洋菓子店で撮影したというドラマも放映されている。
 『カノジョは嘘を愛しすぎてる サイドストーリー ~ボクとカノジョが出会う前の物語~』がそれだ。
 ここでは登場人物一人ひとりにスポットを当て、15分のドラマを全10話分放映する。

 この店のケーキは、他のドラマの撮影にも使われたという。
 とても美味しいケーキである。


カノジョは嘘を愛しすぎてる Blu-rayプレミアム・エディション[本編BD1枚+特典BD1枚+特典DVD2枚]カノジョは嘘を愛しすぎてる』  [か行]
監督・脚本/小泉徳宏  脚本/吉田智子
音楽プロデューサー/亀田誠治  音楽/岩崎太整
出演/佐藤健 大原櫻子 反町隆史 相武紗季 三浦翔平 窪田正孝 水田航生 浅香航大 谷村美月 吉沢亮 森永悠希 勝村政信
日本公開/2013年12月14日
ジャンル/[ロマンス] [音楽] [ドラマ]
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