『ゼロ・グラビティ』の3つの魅力

 1968年公開のSF映画と云われたら、多くの人が『2001年宇宙の旅』を挙げるに違いない。
 しかし、同年公開の『バーバレラ』だって捨てがたい。
 無重力状態でフワフワ浮いてる人物が、ごつい宇宙服のパーツを外すと、スラリとした脚がニョッキリ飛び出す。パーツを外していくにつれ、手や脚が露わになり、やがて美しいジェーン・フォンダが姿を現す。この意表を突いたオープニングに、どれだけの人がノックアウトされたことだろう。

 『ゼロ・グラビティ』のワンシーン、もっさりした宇宙服を脱いでサンドラ・ブロックの体が出てくる様は、懐かしい『バーバレラ』を連想させた。

 『バーバレラ』のオープニングは魅力的だが、今どきの映画に慣れた目には、無重力状態のジェーン・フォンダが実は床の上を転がりながら演技して、それをカメラが上から見下ろしていることが判る。
 それから45年、『ゼロ・グラビティ』は驚くほど自然に無重力状態を表現していた。ついに映画はここまで来たかと、その現実感に舌を巻いた。

 『ゼロ・グラビティ』の第一の魅力はリアリティ溢れる映像だろう。
 地上から600km上空の世界がスクリーンいっぱいに広がり、観客は、地球を背に作業する科学者と一緒に本当に宇宙にいるように感じられる。
 そして猛スピードで飛来するスペースデブリ(宇宙ゴミ)の恐怖。秒速10kmで飛んでくる人工衛星のカケラの破壊力は凄まじい。現実にいくつもの人工衛星がデブリに破壊されていることを思えば、決して絵空事ではない。
 3Dで映画を観れば、その迫力は倍増だ。スクリーンから飛び出すデブリに私は思わず目をつぶってしまった。上映中に何かがスクリーンを遮るので邪魔だなぁと思ったら、スペースシャトルの中を浮遊する入れ歯の映像だった。

 そして第二の魅力は作品のテーマだ。
 無重力の宇宙と重力のある地球。空気のない宇宙とカエルや植物が住む地球。その対比から、地球のかけがえのなさを読み取る人もいるだろう。
 「自分の人生を歩け」というセリフと、重力に抗って立つ人の姿から、前向きに生きることへのエールを感じる人もいるに違いない。
 アルフォンソ・キュアロン監督は、宇宙ステーションで胎児のように丸くなっていた主人公が羊水や原始の海のごとき水中を出て、四つん這いになり、やがて直立歩行をはじめる本作を、「生物の進化を早回しで見せている」とも「地球は母の象徴だ」とも語っている。
 このように物語に様々なメタファーを込めながら、原題のGRAVITY(重力)もまた、私たちを縛り付ける枷なのか、乗り越えるべき試練なのか、地球に留めてくれる錨なのか、深い意味を持って秀逸だ。

 だが、本作の最大の魅力は二人芝居であることだろう。
 全編を通じて登場するのは、サンドラ・ブロック演じるライアン・ストーン博士とジョージ・クルーニー演じる宇宙飛行士マット・コワルスキーだけだ。舞台劇や短編映画ならともかく、制作費1億ドルのハリウッド映画に俳優が二人しか出演しないのは珍しい。
 それどころか、映画のほとんどはサンドラ・ブロックの一人芝居である。わずかにエド・ハリス演じるヒューストンの管制官やイヌイットの漁師らが声を聞かせるにすぎない。
 にもかかわらず、物語はだれることなく、山場に次ぐ山場の連続だ。牧歌的な冒頭部分のユーモアから、緊迫した脱出行のスリルまで、観客を決して飽きさせない。キュアロン親子の脚本の巧さと、二人の俳優の存在感が91分の長編映画を支えている。

 宇宙からの脱出劇を描くなら、本来はヒューストン側の描写があってもいいはずだ。1969年公開の映画、その名も『宇宙からの脱出』では、ヒューストン側の責任者にグレゴリー・ペックを配し、宇宙と地上双方のドラマが展開された。
 ひるがえって本作は、サンドラ・ブロックの主観を通してのみ進行する。ここには群衆シーンやカットバックでのごまかしが一切ない。露わになってしまうのは、サンドラ・ブロックの脚ばかりでなく、脚本の良し悪しと俳優の演技力だ。
 先に映像が魅力だと書いたけれど、魅力が映像だけであればものの5分で退屈するに違いない。リアルな映像を背景に、リアルな人物描写があり、リアルな役者が演じるからこそ面白さが持続する。

 二人芝居の面白さは、まさしくシンプルな構造にある。
 たとえば、演劇ファンにはお馴染みの『LOVE LETTERS』。世界各国で上演され、日本でも20年以上にわたり公演を重ねているこの芝居は、男優と女優が交互に手紙を読むだけだ。
 そこから紡がれる主人公たちの人生に、観客は感動し、共感し、ときに深く考えさせられる。
 これまで『LOVE LETTERS』を演じた俳優は数百組。同じ脚本に基づいても、演者が変われば主人公の人物像も変わり、観客が受ける印象も変わってくる。それが、脚本の良し悪しと俳優の演技力が露わになることの魅力であり怖ろしさだ。

 サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーは、その怖ろしさに見事に耐えうるキャストである。
 とりわけライアン・ストーン博士のキャスティングが功を奏している。
 ストーン博士には、当初アンジェリーナ・ジョリーが予定されていたという。彼女がプロジェクトを去った後、ナタリー・ポートマンやスカーレット・ヨハンソン、ブレイク・ライヴリーらが検討された。
 最終的にサンドラ・ブロックに決まったわけだが、このキャスティングは大正解だ。エロティシズムを狙った『バーバレラ』なら宇宙服から魅惑的な脚が露わになるのも良いだろうが、本作のヒロインは生命力や健康美を感じさせつつ、エロティシズムはほどほどに抑えなければならない。官能的に見えると、観客の興味が映画のテーマとは別の方に向かってしまうからだ。
 その点、サンドラ・ブロックはちっとも色気を感じさせない。『あなたは私の婿になる』でも、オールヌードを披露しながらお色気路線にはならなかった。彼女の個性が、『ゼロ・グラビティ』を一層特別な映画にしている。

 だから、本作は臨場感たっぷりな映像にもかかわらず、舞台劇やラジオドラマに翻案しても通用すると思う。
 映像の魅力をはぎ取っても、二人芝居の面白さと、骨太なテーマの普遍性は変わらないから。
 キャストを変えれば、また違った『ゼロ・グラビティ』が楽しめるかもしれない。

 『ゼロ・グラビティ』の映像の迫力は抜群だ。これほどの映像体験はなかなか味わえない。
 だが技術が進歩すれば、いずれこの映像も陳腐化し、より高品質な映像に圧倒されるだろう。
 しかし、本作の二人芝居の魅力は何年たっても色褪ることはない。この緊迫したドラマは、いつ見ても大きな感慨をもたらすだろう。


ゼロ・グラビティ 3D & 2D ブルーレイセット(初回限定生産)2枚組 [Blu-ray]ゼロ・グラビティ』  [さ行]
監督・制作・脚本・編集/アルフォンソ・キュアロン
脚本/ホナス・キュアロン
出演/サンドラ・ブロック ジョージ・クルーニー
声の出演/エド・ハリス
日本公開/2013年12月13日
ジャンル/[ドラマ] [サスペンス] [SF]
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【theme : サスペンス映画
【genre : 映画

tag : アルフォンソ・キュアロン ホナス・キュアロン サンドラ・ブロック ジョージ・クルーニー エド・ハリス

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