『キャプテン・フィリップス』 これぞヒーローアクションだ!

 映画『キャプテン・フィリップス』の原作は、貨物船マースク・アラバマ号の船長リチャード・フィリップスの回顧録だ。
 だがポール・グリーングラス監督は、回顧録に綴られたフィリップスの妻のパートをばっさりカットしたという。「最初の脚本はフィリップス自身と(アメリカに残された)妻の苦悩の体験で構成されていたが、私が描きたかったのはあくまで“海上で何が起こったのか”ということ。」
 夫の身を案じる妻のパートを組み入れれば、メロドラマとしては盛り上がったに違いない。涙々の感動作になったかもしれない。だが、グリーングラス監督が作ろうとしたのはそういう作品ではない。これは徹底的なリアリティと臨場感で事件現場を再現した、まるで観客が事件を追体験しているようなアクション映画なのだ。

 観客にフィリップス船長と同じ緊張感を味わわせること。それがグリーングラス監督の目指したことだ。
 安全な場所にいる妻のパートを挿入すれば、船長と一体になった観客の緊張感は途切れてしまう。だから妻のパートを削る必要があったし、現場以外の出来事は必要最低限に絞らねばならなかった。
 『キャプテン・フィリップス』を観れば、グリーングラス監督の狙いが見事に功を奏したことが判る。何の武器も持たない貨物船の乗組員たちが武装した海賊たちと戦う前半も、海賊の人質になってしまったフィリップス船長の苦しみと米国海軍の救出作戦を描いた後半も、極度の緊張感が持続して、スリルとサスペンスに満ちている。

 私はしばしばアクション映画を観ると寝てしまう。殴り合いや銃撃戦のあいだはストーリーが進まないので、退屈するからだ(どうせ主人公が死ぬはずはないのだから、早く次のシチュエーションに進めて欲しいのだ)。
 その点、本作は丸腰の民間人と、銃を持った海賊と、駆逐艦やミサイルフリゲート艦や強襲揚陸艦を揃えた米軍という、力の差が大きすぎる勢力が絡み合うため、殴り合いや銃撃戦のような対等の戦いにはならない。単に力で押すのではなく、いかに相手の隙を突くか、鼻を明かすかを競うことになり、そこにフィリップス船長の絶望的な状況も相まって、かたときも目を離せない。

 さらに本作は、海賊行為に駆り立てられる若者たちの背景に目を向けて、世の中が単純な勧善懲悪では済まないことを示すとともに、米海軍を過度に英雄扱いするのを避け、アクション映画にありがちな嘘臭さ、胡散臭さを排している。
 そのため、海賊と戦う単純な物語でありながら人間ドラマとして格調高く、大人の鑑賞に耐えうる作品になっている。


 もちろん、アクション映画らしい要素もおろそかにはしていない。
 フィリップス船長は凛々しいヒーローだし、ネイビーシールズの指揮官は痺れるようなカッコ良さだ。『パシフィック・リム』でもイェーガー「ストライカー・エウレカ」のパイロット役がカッコ良かったマックス・マーティーニが、本作では海軍特殊部隊シールズの指揮官としてカッコイイところを総取りしている。

 事実に基づいているとはいえ、シールズ投入は映画の構成上うまいタイミングで行われる。
 前半ではフィリップス船長の行動を追えばヒーロー物になったけれど、船長が囚われの身になってしまう後半では、船長に代わるヒーローを必要とする。そこでシールズの指揮官が颯爽と登場してヒーローの座に収まるのだ。
 フィリップス船長を中心に据えて現場の出来事を追い続ける映画でありながら、シールズ指揮官だけは現場に到着する前から紹介するのは、本作があくまでアクション映画であり、ヒーロー不在を避けなければならないからだ。

 いささか主人公のヒーローっぽさを強調しすぎのきらいはある。
 映画ではフィリップス船長の活躍で命拾いした乗組員たちだが、事件後、彼らは海運会社を相手取り、5,000万ドルの支払いを求めて訴訟を起こした。彼らは、理不尽にも故意に安全が無視されたのだと主張した。フィリップス船長は会社側の証人だ。
 劇中、海賊がブリッジを制圧したときに機関長が機転を利かせて動力を停止させるシーンがある。また、機関長は海賊の目を盗んで灯りを消し、船内を探索する海賊から乗組員を救う。しかし、そもそもフィリップス船長は、海賊が接近したら船の動力と灯りを切るように指示されていたはずだという。
 フィリップス船長は、海賊を警戒して600マイル以上沖合いを航行するようにとの通知も受けていた。しかしフィリップス船長は240マイルの沖合いを航行させた。フィリップス船長は数々の警告を無視したことを認めている。

 海賊を相手に大活躍した機関長マイク・ペリーは、フィリップス船長には人質になりたい願望があったと思うと語っている。
 たしかに映画でも人質交換のシーンは不自然だ。
 フィリップス船長がマースク・アラバマ号内を海賊に連れ回されているあいだに、ペリーら乗組員は海賊のボスを捕まえることに成功する。乗組員は海賊たちと交渉し、船長と海賊のボスを交換することに同意させる。この交換が上手くいけば、船長は解放され、海賊は船を立ち去り、事件は解決するはずだった。
 人質の交換はタイミングが大事だ。敵に抜け駆けされないように注意しながら、双方の人質を同時に入れ替えなければならない。
 ところがフィリップス船長は、乗組員が海賊のボスを解放してもなお海賊たちの手中に留まり、救命艇の操作方法を説明していた。そのため乗組員たちには人質がいないにもかかわらず、海賊は全員揃った上に船長を人質に留めたままの状況になった。そこで海賊は、船長を連れて逃げてしまう。

 マイク・ペリー機関長が奇妙に思うのも無理はない。せっかく海賊のボスを捕らえて、対等の立場で交渉できるところまで漕ぎ着けたのに、フィリップス船長がみすみすチャンスをふいにしてしまったのだ。
 もちろん原作の回顧録はフィリップス船長の立場で書かれているから、乗組員たちの印象とは違うだろう。映画もあくまでフィリップス船長の視点である。

 ポール・グリーングラス監督は、「映画は100パーセント正確だ」と主張している。
 2時間の映画にすべての詳細を収められるわけではない。それでも本作は、ルートを変えずに航行しようとする船長と、海賊を避けるべきだと抗議する乗組員が対立したことも描いている。「事実は明白だ。フィリップス船長の船は襲われたが、船も乗組員も貨物も傷つかずに港に着いた。それが我々の物語であり、本当のことだ。」
 
 ともあれ、娯楽映画の『キャプテン・フィリップス』に関して、正確さを議論しても詮ないだろう。
 映画ではマースク・アラバマ号を襲う四人の海賊のうち、一人は少年といえるほど若かったことが描かれている。フィリップス船長が歳若い海賊に優しく語りかける場面は、一人だけが若いから成立するシチュエーションだ。
 けれども実際には四人全員が17歳から19歳の少年だったという。
 映画では海賊のボスのムセを撮影当時27歳のバーカッド・アブディが演じ、海賊の一人ナジェをやはり撮影当時27歳のファイサル・アメッドが演じた。もしも事実に即して全員十代の少年をキャスティングしたなら――乗組員が切りつける相手や、シールズが狙撃する相手が全員少年だったなら、映画の印象は異なったに違いない。

 だが、それではヒーローアクションにならないだろう。
 たった四人の少年たちを、米国海軍がミサイルフリゲート艦まで出撃させて殺してしまっては後味が悪い。社会派映画にするならともかく。
 ポール・グリーングラス監督は、社会性とエンターテインメント性のバランスを問われて次のように答えている。
---
バランスはもちろん大切なのですが、自分にとって大切なのは観客が報われる体験を提供することです。その後についてくるものというのは、二の次なんです。例えば日本の皆さんが、土曜の夜に映画を観る時、鑑賞体験が報われるものであること。それがまず第一です。ですから、この素材で価値のある作品が提供できるかどうかをいつも考えています。劇場を出て素晴らしい映画だったという体験を与えたいと思っています。
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 土曜の夜に何を観ようかと迷ったら、『キャプテン・フィリップス』に足を運ぶといい。スリルとサスペンスを存分に堪能できることだろう。


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監督/ポール・グリーングラス
出演/トム・ハンクス バーカッド・アブディ バーカッド・アブディラマン ファイサル・アメッド マハト・M・アリ マイケル・チャーナス コーリイ・ジョンソン マックス・マーティーニ クリス・マルケイ ユル・ヴァスケス デヴィッド・ウォーショフスキー キャサリン・キーナー
日本公開/2013年11月29日
ジャンル/[サスペンス] [アクション]
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【theme : アクション映画
【genre : 映画

tag : ポール・グリーングラス トム・ハンクス バーカッド・アブディ バーカッド・アブディラマン ファイサル・アメッド マハト・M・アリ マイケル・チャーナス コーリイ・ジョンソン マックス・マーティーニ クリス・マルケイ

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