『蛮幽鬼』のあいまいな笑顔

 芝居において、初演の役者はインパクトが大きい。
 私にとって、『野獣郎見参』といえば橋本さとしさん、『花の紅天狗』といえば高田聖子さんだ。

 もちろん再演時の役者だってとても魅力的だし、再演から観た人にとっては『野獣郎見参』は堤真一さん、『花の紅天狗』は高橋由美子さんだろう。

 しかし、役と役者が強固に結びついて再演できない芝居もある。
 『宇宙防衛軍ヒデマロ』シリーズのいのうえひでのりさん、『直撃!ドラゴンロック』シリーズの橋本じゅんさんなど、そのときのその役者だから上演できた作品だろう。
 おそらく再び目にすることはあるまい。

 劇団☆新感線がはじめて堺雅人さんを客演に迎えた『蛮幽鬼』も、そんな特異な位置づけになりそうである。

 堺雅人さんが演じるのは、いつもあいまいな笑いを浮かべている殺し屋サジ。
 こんな要領を得ない役は堺雅人さんなればこそ、余人をもっては代えがたい。
 堺雅人さんにはもっと変わったキャラクターを演じさせるかと思っていたが、逆に堺雅人さんが元来もっているキャラクターを活かすことで、劇団☆新感線の他の芝居から『蛮幽鬼』を際立たせている。

 中島かずき氏はコラムで本作の舞台裏について語っている。
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『蛮幽鬼』という題名に決めたのはいのうえです。
 プロットを読み、いろいろ試行錯誤の上たどりついた題でした。字面が気に入ったらしいです。
「また鬼か」と思う気持ちはあったのですが、今回は本当に復讐鬼の話だから仕方ないと言えば仕方ない。
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 しかし本作は復讐鬼の話のみならず、堺雅人さんの笑いにより殺人鬼の話にもなったのだ。



 『蛮幽鬼』で特筆すべきものはもう一つ。芝居を彩る衣装である。

 本作は、架空の時代、架空の場所を舞台にしている。
 これまでの劇団☆新感線の作品は、ファンタジー色・伝奇色が強くても時代と場所をおおよそ特定できたのに対して、本作は日本のようでいて日本でなし、飛鳥時代のようでいて飛鳥時代ではなし、不思議な設定になっている。
 そのおかげで、大王(おおきみ)の暗殺や宗教間の対立など、現実世界では取り上げにくい要素を交えて、自由なストーリーを展開している。たしかに、乙巳の変(645年)や白村江の戦い(663年)をそのまま題材にしたのでは、窮屈な思いをしたかもしれない。

 ここで重要な役割を果たしているのが衣装の数々だ。
 時代物で目にする衣装のようでいて、これまで見たことのないデザインであり、作品の世界観を構築するのに貢献している。
 日本風であったり中国風であったり、ときには西洋風であったりと、考証に配慮しつつ、考証をわざと突き崩して楽しんでいるのが感じられる。
 小峰リリー氏による衣装は優美にして繊細であり、竹田団吾氏の勇ましくカッコイイ衣装とはまた違った魅力がある。

 その衣装により、我々は摩訶不思議な世界へいざなわれるのだ。


『蛮幽鬼』  [演劇]
演出/いのうえひでのり  作/中島かずき  衣装/小峰リリー
出演/上川隆也 稲盛いずみ 早乙女太一 橋本じゅん 高田聖子 粟根まこと 堺雅人
公演初日/2009年9月30日
劇場/新橋演舞場
ジャンル/[ドラマ] [ファンタジー]

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