『パシフィック・リム』が守った映画のルール

 【ネタバレ注意】

 ジャンボーグA対大悪獣ギロン!
 『パシフィック・リム』には冒頭から度肝を抜かれた。全編がこんな夢の対決で溢れているのだ。

 映画『風立ちぬ』はそれだけでも充分素晴らしい作品だが、堀辰雄の小説も読んでいると、映画では少し触れるだけの主人公とヒロインの情愛がより深く理解できる。
 『パシフィック・リム』も同様で、本作だけでも充分楽しめるけれど、『ゴジラ』をはじめとする怪獣映画や『ウルトラマン』等の特撮番組を観ていれば、より深く深く堪能できる。
 観客の多くが、これまでの鑑賞歴から本作に符合する過去の作品を思い出して、子供の頃のワクワクした気持ちを甦らせたに違いない。

 私は『パシフィック・リム』がはじまって早々、怪獣ナイフヘッドの鋭い頭部とその暴れっぷりに感激した。
 ナイフヘッドはどこから見ても『ガメラ対大悪獣ギロン』(1969年)でガメラを苦しめたギロンそのものである。ギロンに勝るとも劣らないナイフヘッドの強さには惚れ惚れした。

 対するは劇中でイェーガーと呼ばれる巨大ロボット。「イェーガー」はドイツ語で狩人を意味する。
 本来ロボットとは自動機械のことであり、産業用ロボットのように人間の手を離れて動き続けるものを指す。人間が搭乗して操作する機械は、いくら外見が人型であってもブルドーザーや乗用車の延長に位置付けられるべきものだ。
 しかし『マジンガーZ』の大ヒットは、人間の搭乗する機械をロボットと呼ぶ誤用を定着させてしまった。
 それゆえ、本稿でも便宜上ロボットという用語を使わせていただく。

 このイェーガーが秀逸で、主人公が乗り込むジプシー・デンジャーは、人間のいる頭部が胴体と合体することで起動するという痺れるメカニズムだ。マジンガーZのホバーパイルダーにしろ、コン・バトラーVのバトルジェットにしろ、やっぱりスーパーロボットには頭部の合体が欠かせない。
 しかもそのデザインは、ギレルモ・デル・トロ監督が多大な影響を受けたという鉄人28号の流れを汲み、『戦闘メカ ザブングル』のウォーカー・ギャリアのようながっしりした体形だ。といっても、ジプシー・デンジャーは全高79m(260フィート)もあるので、18.6mのウォーカー・ギャリアよりもはるかに大きく、15人乗りのダイラガーの60mをも凌ぐ。

 他のイェーガーのデザインも個性的で、三本腕のクリムゾン・タイフーンや、原子力発電所の冷却塔を頭に乗っけたチェルノ・アルファ等、『マジンガーZ』の機械獣をデザインした故石川賢氏を思わせるほどのぶっ飛んだロボットたちが登場する。

 けれども、もっとも嬉しくなるのはイェーガーの操縦方法だ。
 イェーガーの操縦は人体への負担が大きいため、二人で協力して操縦する。その方法は、搭乗者の手足の動きを感知して、そのままイェーガーの動作に反映させるジャンボーグA方式だ(アニメで類似の方式が取り入れられたのは『勇者ライディーン』から)。
 搭乗者が座ったまま操縦桿を握るだけのマジンガーZ方式と違い、この方法なら搭乗者自身もロボットと一緒にアクションするので、躍動感とともにロボットとの一体感も演出できる。

 しかも二人の搭乗者は、ドリフトと呼ばれる精神接続により心を一つにしないと、イェーガーを操縦できない。
 この設定にもニヤリとさせられる。
 複数名で操縦するゲッターロボが登場してからというもの、搭乗者たちが心を一つにするのはロボット物の定番になった。一人に心の乱れがあると合体できないとか、心を一つにするためにみんなで特訓するとかが、ロボット物のお約束だった。
 『ゲッターロボG』に至っては、三人の搭乗者が10分の1秒のズレもなく同時にペダルを踏まないと技を発動できないという(理不尽な)制約まであった。

 イェーガーにはこんな懐かしい設定が満載だが、本作の魅力はむしろ怪獣にこそある。
 冒頭に挙げたギロンそっくりの怪獣ナイフヘッドはもとより、翼を持つ怪獣オオタチは『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』のギャオスのようだし、電磁パルスを発生させる怪獣レザーバックが全身に青白い筋を浮き上がらせたところは『ウルトラマン』の彗星怪獣ドラコを連想させる。頭部が裂けて本当の顔が出てくる怪獣ライジュウは、やはり『ウルトラマン』のウラン怪獣ガボラのようだ。

 このような怪獣個々のデザインだけでなく、怪獣の描き方もまた往年の怪獣映画を思わせる。
 本作は、物語の進行につれて怪獣の生物的な特徴が解き明かされる過程が見どころになっている。
 なぜ、これほど巨大で、多様な怪獣が出現するのか。その共通点と相違点は何なのか。本作では怪獣の存在そのものが謎であり、そこに切り込む科学者たちのアプローチが、イェーガーの戦闘以上にスリリングだ。
 そのワクワクする作りは、「伝説の怪獣が降臨しました」というゴジラシリーズよりも、怪獣の動物らしさにこだわったガメラシリーズの精神に近い。
 怪獣の体内を探索し、子供怪獣を発見してしまうくだりなどは、『ガメラ対大魔獣ジャイガー』の最大の見せ場と共通する。

 さらに、怪獣たちが別世界からの尖兵であることが明らかになり、戦いが壮大な次元戦争の様相を呈してくると、敵は『ウルトラマンA』のヤプール人であったかと膝を打つ観客もいるはずだ。


 以上、過去の怪獣映画やロボットアニメと『パシフィック・リム』との類似箇所の一部を紹介したが、ギレルモ・デル・トロ監督は、本作が過去作の模倣でもオマージュでもないと強調している。
 ギレルモ・デル・トロ監督は、デザイナーたちに「ゴジラもガメラも『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』も見返したりするな」と指示したそうだ。
 ギレルモ・デル・トロ監督が意図したのは模倣やオマージュではなく、過去の伝統を受け継ぎつつも新しい作品を創造することだったからだ。

 実際、ナイフヘッドをデザインしたウェイン・バーロウは、ギロンを知らなかったという。ナイフヘッドはゴブリンシャーク(ミツクリザメ)を参考にデザインされたものなのだ。
 本作が過去の特撮作品やアニメに類似しているのは、特定の作品をパクったのではなく、面白さをとことん追求した結果、過去の作品と同じ境地に収斂したからだろう。

 もちろん、いまさら過去の作品を見なくたって、滲み出てしまうものもある。
 ジプシー・デンジャーのロケット(アシスト)パンチにマジンガーZの影響がないはずはないし、怪獣が地下シェルターの屋根を破壊して、中の人間を物色する場面は『サンダ対ガイラ』に通じよう。
 でもそれは、マジンガーZを見て取り入れたとか、『サンダ対ガイラ』をなぞったということではない。ギレルモ・デル・トロ監督にしろデザイナー諸氏にしろ、過去の作品が体の奥深くに染み込んで、自分でも分化できないほど馴染んでいるのだろう。

 また、おそらく確信犯的にやっていることもあろう。
 怪獣に負け続けたスタッカー・ペントコスト司令官が各国代表に責め立てられる場面では、非難の急先鋒に立つ米国代表とは裏腹に、日本代表は情けない顔でそこにいるだけだ。
 これなど、前作『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』で『太陽の王子 ホルスの大冒険』の岩男を再現したデル・トロ監督らしく、『ルパン三世 カリオストロの城』で銭形警部が各国代表に責められる場面が念頭にあったはずだ。


 これまで私は、日本の怪獣映画をもっとも上手く再現したハリウッド映画は、スティーブン・スピルバーグ監督の『宇宙戦争』だと思っていた。
 丘の向こうから宇宙人のトライポッドが迫ってくる恐ろしさは、大戸島でゴジラがにょっきり顔を出す場面そのものだった。
 けれども『パシフィック・リム』は、『宇宙戦争』と同じく伊福部昭調の重厚な音楽をバックにしながらも、『ゴジラ』一つに限らず、過去の怪獣映画やロボットアニメを総ざらいする。そして、観客が子供の頃に経験した怪獣の怖さや迫力や、ロボットへの憧れを思い起こさせてくれる。
 『パシフィック・リム』を通して見えてくるのは、過去のおびただしい特撮映画やテレビ番組であり、1本の映画だけでは味わえないほどの興奮をもたらしてくれるのだ。
 
 同時に、怪獣映画やロボットアニメをまだあまり観ていない子供たちは、本作をきっかけにしてそれらの素晴らしさに目覚めるだろう。

 優れた監督であるギレルモ・デル・トロは、子供を楽しませるための怪獣映画のルールも判っている。
 ガメラシリーズ二作目『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』は人間ドラマを重視した力作だが、いざ封切ってみると子供は男女の愛の話なんて全然見ておらず、怪獣が出てくるまで館内を走り回っていたという。
 湯浅憲明監督は、これではいかんと三作目から子供向けを強く意識し、ガメラと敵怪獣の戦いを必ず4ラウンド用意したそうだ。[*]
 『パシフィック・リム』も、この4ラウンドルールを踏襲している。
 1ラウンド目は米国沿岸での怪獣ナイフヘッドとジプシー・デンジャーの激突。
 2ラウンド目は廃墟と化した東京での怪獣オニババコヨーテ・タンゴの戦い。
 3ラウンド目はイェーガーが結集しての香港防衛戦。
 そして4ラウンド目が太平洋での最終決戦だ。

 その他にも、主人公の回想場面や、シドニーのニュース映像等で怪獣はひっきりなしに登場しているし、怪獣のいない場面でも巨大ロボットのイェーガーが登場している。
 ここまでやれば子供が館内を走り回るようなことはあるまい。

 ひとつ残念な点を挙げるとすれば、放射線を浴びて何年も経つのに鼻血が出るといった誤った描写が存在することだ。子供も観る映画なのだから、描写の正確さには気をつけたい。

 ともあれ、エンドクレジットに添えられたレイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎への献辞は、ギレルモ・デル・トロ監督が子供の頃に影響を受けた偉人たちへの感謝を表すとともに、本作に対する自信の顕れでもあろう。
 「この映画で子供たちの世代を怪獣やロボット好きにしたい」というデル・トロ監督の「本当の願い」は、きっと叶っているはずだ。


 パシフィック・リムとは、環太平洋地域のことである。
 本作の舞台となる国、あるいは登場人物の出身国――すなわち日本、中国、米国、ロシア、オーストラリアは、みなパシフィック・リムを構成する国であり、ギレルモ・デル・トロ監督の母国メキシコもその一つだ。
 本作はこれらパシフィック・リムの人々が、個人としても国としても協力し合い、手を携えて、海の脅威に対抗する物語だ。

 海から来るものをえびすと呼んで信仰し、かつてはクジラもえびすと呼んだように、パシフィック・リムに住む私たちは、古来より海に人知を超えたもの、巨大なものがいると考えてきた。
 そんな私たちだからこそ、海から出現する大怪獣が琴線に触れるのだろう。


[*] 『日本特撮・幻想映画全集』 (1997) 勁文社

パシフィック・リム 3D & 2D ブルーレイセット (3枚組)(初回数量限定生産) [Blu-ray]パシフィック・リム』  [は行]
監督・制作・脚本/ギレルモ・デル・トロ  脚本/トラヴィス・ビーチャム
出演/チャーリー・ハナム イドリス・エルバ 菊地凛子 チャーリー・デイ ロブ・カジンスキー マックス・マーティーニ 芦田愛菜 ロン・パールマン バーン・ゴーマン クリフトン・コリンズ・Jr ディエゴ・クラテンホフ
日本公開/2013年8月9日
ジャンル/[アクション] [SF] [ロボット]
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【genre : 映画

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