『ローン・レンジャー』 歴史を踏まえた工夫

 かつてダグラス・フェアバンクスやエロール・フリンが主演して人気を博した海賊映画。
 だが、それが作られたのは、せいぜい1950年代までだろうか。20世紀後半になると海賊映画はめっきり減ってしまい、たまに作られてもコケてしまった
 久しく絶えていた海賊映画を現代に復活させ、驚くほどの大成功を収めたのが『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズであることは、多くの人の知るところだ。

 その実績を引っさげて、同じくジェリー・ブラッカイマーが制作し、ゴア・ヴァービンスキーが監督し、ジョニー・デップが主演したディズニー映画が、これまた現代ではヒットさせるのが難しい西部劇ときたもんだ。
 彼らのチャレンジ精神にはつくづく感心する。誰もが避けたがる難易度の高い題材に、あえて挑戦した姿勢には拍手を贈りたい。

 ラジオドラマからはじまった『ローン・レンジャー』は、これまでマンガやテレビドラマや映画にもなっており、とりわけ知名度の高い西部劇と云えるだろう。テレビドラマは10年遅れて日本でも放映されたから、愛馬シルバーに跨った主人公ローン・レンジャーの「ハイヨー、シルバー!」という掛け声を懐かしく思う人も多いはずだ。
 2013年公開のディズニー版『ローン・レンジャー』も、典型的な西部劇のスタイルを踏襲している。

 ここが本作で最大の驚きだ。
 近年の西部劇は、『3時10分、決断のとき』や『トゥルー・グリット』のように人物描写を丁寧に掘り下げたり、『カウボーイ&エイリアン』のように意表を突いた設定にしたりと、いずれも現代の観客向けに工夫を凝らしている。
 そんな中で驚くのは、『ローン・レンジャー』の直球ぶりだ。バットマンのようにダークなヒーローにするでもなく、SFやファンタジー風の味付けをするでもなく、昔ながらの明るく痛快な西部劇をストレートに甦らせるとは大胆不敵この上ない。
 しかも『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの大海戦に代わる見どころとして、列車を使った大アクションが炸裂する。列車が登場するアクション映画は数々あれど、この楽しさは群を抜いていよう。

 ヴァービンスキー監督は、前作『ランゴ』でも西部劇へのオマージュをたっぷりと込めていた。
 本作では、懐かしの西部劇ヒーロー「ローン・レンジャー」を甦らせただけではなく、列車強盗という西部劇ならではのモチーフを取り上げて、鉄道の敷衍に象徴される西部開拓史を絡めたり、エンニオ・モリコーネを髣髴とさせる音楽でマカロニ・ウェスタンっぽくしたりと、西部劇らしさを醸し出すのに余念がない。

 しかもヴァービンスキー監督は、本作の演出プランをたいへん慎重に立てている。
 『パイレーツ・オブ・カリビアン』三部作の後半や『ランゴ』に見られるように、ヴァービンスキー監督の演出は不条理劇やコメディの方向へ大きく傾くことがある。
 それはそれで一つの持ち味なのだろうが、まがりなりにもヒーロー物の本作でいきなり不条理だったりコメディだったりでは、観客は面食らうだろう。
 今回、ヴァービンスキー監督は西部劇らしくすることを最優先にして、不条理劇やコメディの要素はほどほどに控えている。おかげで観客は、本作をあくまで明るく痛快な西部劇として楽しめる。

 同時に本作は、ジョニー・デップ演じるトントの回想形式を取ることで、すべての出来事が本当にあったことなのか、トントのホラ話なのか判然としないように仕組まれている。なにしろ、回想しているトントは人間ではなく、見世物小屋の人形なのだ。
 こうして不可思議なラッピングをすることで、不条理劇として、あるいは寓話として読み込みたい人も楽しめるようになっている。


 もちろん昔のヒーローを現代に甦らせるため、本作なりの工夫は施されている。
 『ローン・レンジャー』のラジオドラマから80年、テレビドラマから60年が経っているのだ。その間、世の中は変わってきた。いや、人々は世の中を変えてきた。人権に対する意識も歴史に対する認識も、苦心惨憺して変えてきた。
 だから現代の作品は、その変化を踏まえる必要がある。

 THE BLUE HEARTS が名曲『青空』で「ブラウン管の向こう側 カッコつけた騎兵隊が インディアンを撃ち倒した」と歌ったように、私が子供のころはまだ、テレビを点ければ「凶暴なインディアン」が騎兵隊に退治されていた。
 アパッチ族の戦士ジェロニモをもじった怪獣酋長ジェロニモンは、ウルトラマンに退治された。
 白人のローン・レンジャーをインディアンのトントが補佐する設定も、いまや前世紀の遺物と云えよう。人種差別を克服すべく歩んできた米国において、いまさらカッコいいところを白人が持っていく話なんて許されるはずもない。

 だから本作は、相棒トントに大スターのジョニー・デップを配し、クレジットの先頭もジョニー・デップだ。
 対するローン・レンジャーには、まだほとんど主演作がないアーミー・ハマーを起用し、いささか間抜けなキャラクターとして演じさせることで、前世紀までの白人優位の臭いを払拭しようと努めている。

 公民権運動やレッド・パワー運動が起こる前の作品を復活させるに当たって、本来主人公であるはずのタイトルロールの白人をちょっと間抜けにし、相棒の有色人種に花を持たせることで人種や民族のバランスに配慮するのは、ローン・レンジャーの親戚グリーン・ホーネット現代に甦らせたときにも取られた手段だ。
 こうした映画を撮ることが、人種・民族にまつわる問題を直接解決するわけではないが、問題を認識すらしていなかった時代からの変化を考えればとうぜんの処置だろう。

 さらに本作は、白人のキリスト教徒が必ずしも善人ではないことも描いた上で、宗教と迷信が紙一重であることも暴き、米国の鉄道建設が中国人労働者の過酷な作業に支えられてきたことも忘れない。
 本作はたしかに数十年前の作品のリメイクだが、決して昔を懐かしむのではなく、単にネームバリューを利用するのでもなく、先人が苦労して世の中を変えてきた歴史を尊重し、そこで得られた認識に基づいて作品を構築している。
 そのバランス感覚こそが、本作を現代的な作品たらしめているのだ。


 日本もまた、他国と同じく多民族・多文化国家である。アイヌ、コリアン、華人華僑等々、様々な出自・ルーツを持つ人々がひしめき合って暮らしている。
 ところが奇妙なことに、邦画では多民族・多文化であることを打ち出した明るく痛快な娯楽作には、なかなかお目にかかれない。バランス良く花を持たせる様子もない。
 そこここに様々な民族がいるというのに、見えない振りをしているのだろうか。
 本当に見えないのだろうか。


ローン・レンジャー MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]ローン・レンジャー』  [ら行]
監督/ゴア・ヴァービンスキー
出演/ジョニー・デップ アーミー・ハマー トム・ウィルキンソン ウィリアム・フィクトナー バリー・ペッパー ヘレナ・ボナム=カーター ジェームズ・バッジ・デール ルース・ウィルソン
日本公開/2013年8月2日
ジャンル/[アクション] [西部劇]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

tag : ゴア・ヴァービンスキー ジョニー・デップ アーミー・ハマー トム・ウィルキンソン ウィリアム・フィクトナー バリー・ペッパー ヘレナ・ボナム=カーター ジェームズ・バッジ・デール ルース・ウィルソン

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