『旅立ちの島唄~十五の春~』 泣いてはいけない

 地味な題名だ。
 映画『旅立ちの島唄~十五の春~』は、15歳の春に旅立つ少女が島唄を歌う話である。これが物語の骨子だから、題名がほとんど説明してしまっている。というより、内容説明が題名になっている。
 そのため題名を聞いてもグッと来ないし、劇場に足を運ぶ気にもならないかもしれない。
 だが、本作を観た人ならば判るはずだ。飾り気のない、朴訥なまでの語り口と、だからこそ鮮明になる瑞々しさが本作の魅力であることを。

 舞台は沖縄本島から360km離れた南大東島(みなみだいとうじま)。
 ここには高校がないため、進学する子供は島を出なければならない。
 映画は中学三年生の少女の一年間を綴り、家族がバラバラになるのが当然の島を描く。

 本作に限らず地方を舞台にした映画は多いし、それぞれに味わいがある。
 祭りや踊り等、その土地のイベントを絡めた映画もあれば、郷土史を掘り起こしてどっさりと情報を詰め込む映画もある。はたまた、都会よりも産業構造の変化を受けやすい地方ならではの問題に焦点を合わせた映画もある。
 だが、祭りや踊りを取り上げた映画は、祭りや踊りを置き換えればどこの土地でも通用するドラマだったりする。映画によっては、取材を重ねて発掘した郷土史に呑まれてしまい、その情報を咀嚼した世界観の構築に至らないこともある。はたまた、産業構造の変化にさらされた人々を描くことに注力するあまり、変化を起こすのもまた人であることを置き忘れた映画もある。

 本作はそのいずれとも違う。
 『旅立ちの島唄~十五の春~』は普遍的な家族の話でありながら、島ならではの特徴に彩られている。
 吉田康弘監督は本作のテーマを「島の宿命」と述べている。
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最初は小さな家族の普遍的な話にしようと思っていたんですが、少しずつ“島の宿命”みたいなものがテーマになり、この島に課せられた宿命の中で成長していく14歳の女の子が15歳の春を迎える話、にスライドしていきました。
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 子供たちが15歳の春に旅立たねばならないことを、教育問題として取り上げるでもない。
 子供だけで島を出るにしろ、片親が同行するにしろ、家族が離れ離れになってしまうけれど、それを社会問題として突き上げるでもない。
 宿命。
 子供が15歳になるということはそういうものだと島民みんなが知っている南大東島のありさまを「宿命」として描き出すことで、本作は誰もが共感する物語になるとともに、南大東島自体が主人公として浮かび上がってくる。
 この映画がもたらす感慨は、地方にスポットを当てることを目的にしたご当地映画ではなかなか達し得ないものだ。

 本作の魅力をズバリと云い当てているのが、寡黙な父を演じた小林薫さんである。
 「個人的には、父と娘、現代版小津安二郎を観ている気持ちになりました。」
 なるほど、父親が嫁いでいく娘を見送る『晩春』『彼岸花』『秋刀魚の味』……。島を出ていく娘を見送る本作の父の姿は、小津安二郎監督の名作の数々に通じよう。
 政岡保宏プロデューサーが「古典ともいえる映画作りを目指した」と云うとおり、『旅立ちの島唄~十五の春~』は世代や地域を越えて観客の胸に響くに違いない。

 登場人物が饒舌ではないだけに、一つひとつのセリフが印象的だ。
 特に心に残るのは、題名にもある旅立ちの際に歌う島唄「アバヨーイ」を練習する主人公に、民謡教室の新垣先生が告げる言葉だ。
 「アバヨーイ」は、娘が父母への感謝の気持ちを贈る唄。この唄を歌うということは、故郷を離れて旅立たつときを意味する。15歳の少女にとって、それは辛くもあり、悲しくもあろう。
 しかし新垣先生は、これは感謝の唄だから、と教える。「この歌は泣いて歌ったら価値ないからさ、堪えて歌うんだよ」。
 三線の物悲しい旋律を奏でながら、泣かずに別れの唄を歌う少女。
 それは『晩春』で娘を見送った父親役の笠智衆さんが、人生でたった一度だけ、号泣せよという小津監督の演技指導を断って、ただ黙するままだったことを思い起こさせる。[*]

 政岡プロデューサーが本作を企画したきっかけは、島を離れる少女が唄を歌うドキュメンタリー番組を見たことだという。
 島の少女はこれからも、泣かずに「アバヨーイ」を歌い続けるのだ。


[*] 與那覇潤 (2011) 『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』 NTT出版

旅立ちの島唄~十五の春~ [DVD]旅立ちの島唄~十五の春~』  [た行]
監督・脚本/吉田康弘
出演/三吉彩花 小林薫 大竹しのぶ 早織 立石涼子 ひーぷー 普久原明 山本舞子 照喜名星那 上原宗司 手島隆寛 小久保寿人 日向丈 松浦祐也 若葉竜也 野吾沙織
日本公開/2013年5月18日
ジャンル/[ドラマ] [青春]
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