『藁の楯 わらのたて』 この挑戦を受けて立て!

 シンプルなのに捻りがある。
 作り手はこの設定にした段階で、『藁の楯 わらのたて』は面白いと確信したことだろう。
 もちろん、その第一の功績は原作小説にあるのだろうが、主演の大沢たかおさんが数年前に原作を読んで「すごく面白いけど、日本で映画化するのは無理」と思い[*]、三池崇史監督が「ある意味で日本映画への挑戦として書かれた原作だ」と語る小説を、撮影用に外国の鉄道を運行させたり、高速道路を封鎖してまで映画化したのは、スタッフ・キャストの力によるものだろう。

 護送物というジャンルはないかもしれないが、護送を描いた作品は幾つもある。
 『ガントレット』(1977年)は裁判所へ検察側の証人を護送する話だ。被告側の一味が、裁判で証言させまいと刑事と証人を襲撃する。はたして証人が裁判所へたどり着けるかどうかが眼目の作品だ。

 『決断の3時10分』(1957年)とそのリメイク『3時10分、決断のとき』(2007年)は、強盗団の首領を刑務所に入れるため、駅まで護送する話である。首領を奪還しに来る強盗団の襲撃をかわしつつ、いかに駅にたどり着くかが眼目だ。『3時10分、決断のとき』では、強盗団のみならず金に釣られた一般人も襲撃に加わるので、主人公は町全体を敵に回す破目になる。

 『藁の楯 わらのたて』の面白さは、これら先行する作品とはいささか異なる設定による。
 護送されるのは、誰もが「人間のクズ」と吐き捨てる犯罪者・清丸国秀。その目的は、清丸が出頭した福岡県警から東京の警視庁へ移送することだ。
 犯罪者を護送するのは『3時10分、決断のとき』と同じだが、本作で主人公たちを襲う連中は清丸を助けたいのではない。清丸に復讐したい大金持ちが用意した10億円の賞金に釣られて、一般人が清丸の命を狙って殺到するのだ。この点で、『3時10分、決断のとき』とは真逆のシチュエーションになっている。

 対象の命が狙われるのは『ガントレット』と同じだが、『ガントレット』の対象者は悪人ではないから、「人間のクズ」が狙われる本作とは真逆である。
 つまり『藁の楯 わらのたて』では、『ガントレット』のように善人を守るのでもなければ、『3時10分、決断のとき』のように悪人の脱出を阻止するのでもなく、悪人を守るために命を張るのだ。

 この捻りが物語を格段に面白くしている。
 「清丸に、守る価値はあるのか!?」
 劇中、誰もがこのセリフを口にする。賞金をかけた大金持ちも、清丸の犠牲になった少女の親も、清丸を護送する刑事までもが口にする。
 たとえ命がけの職務でも、善人を守るならやりがいを感じるかもしれない。悪人が二度と罪を犯さないように処罰することに命をかけるのも、やる価値はあるかもしれない。
 けれども「人間のクズ」の清丸を守るために体を張り、場合によっては命を落とす。そんなことを、本当にやり通すべきなのか。

 しかも清丸を狙う人間は、必ずしも金の亡者ばかりではない。彼らの中には清丸が死ぬべきだと考えている者もいれば、恨みを晴らしたい者もいる。清丸なんかを護送する警察官の方が間違っている、そう考える者もいる。
 襲撃側の事情や思いが判るにつれ、観客も清丸を守ることに疑問を感じてしまうだろう。
 この状況で、主人公たち警察官は清丸を守りきれるのか。守るべきなのか。清丸を守るために犠牲を出すことが正しいのか。

 本作はシンプルなストーリーにアクションやサスペンスが満載だ。
 だが、一番の見どころは、「極悪人でも命がけで守るべきか」という葛藤だ。
 その葛藤を、観客は息を詰めて凝視する。映画の上映時間125分はひたすら熱い。


 本作の肝となるのは、ひとえに清丸国秀の造形だ。いかにクズらしく、いかに憎々しく、いかに鬼畜として描くか。そこを徹底してこそ本作は成立する。
 『ガントレット』なら護送の対象である証人と情を交わしてもいいし、『3時10分、決断のとき』なら強盗団の首領と友情に似た感情が芽生えてもいい。しかし本作の葛藤は、対象が護送任務の警察官ですら殺したくなるほど最低の人間でなければ成立しない。

 この点で、藤原竜也さん演じる清丸国秀は見事な成功と云えるだろう。本作を鑑賞した観客は、清丸に怒りを覚え、嫌悪感を抱くだろう。主人公に、もう清丸を守るなと思い、いっそお前が清丸を襲えと思うだろう。
 そのとき主人公がどうするか、何を思うか、なぜそう思うのかが焦点だ。主人公にも迷いはある。主人公が一瞬でも職務をためらったら、警護の手が緩んだら、清丸は死ぬ。それが判った上で、全国民を敵に回す中で、何をするか選択しなければならない。

 日本のドラマや映画では、善意から行動すればハッピーエンドが待っている、なんて作品がしばしば見受けられる。
 しかし本作に天の配剤は働かない。
 その決断の機微こそ、映画の作り手が観客に味わわせたいことである。
 あなたならどうするか。
 この映画は観客への挑戦だ。


[*] 読売新聞 2013年4月26日 夕刊「一見不可能な撮影 次々実現」

藁の楯 わらのたて Blu-ray&DVD プレミアム・エディション(Amazon.co.jp限定映像特典ディスク付)(初回限定生産)藁の楯 わらのたて』  [わ行]
監督/三池崇史
出演/大沢たかお 藤原竜也 松嶋菜々子 岸谷五朗 伊武雅刀 永山絢斗 山崎努 余貴美子 本田博太郎
日本公開/2013年4月26日
ジャンル/[アクション] [サスペンス] [ドラマ]
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