『空気人形』に詰まっているもの

 是枝裕和監督は、トークショーで「映画は映画館で観るもの」と語っていたが、おんなじセリフを岩松了さん演じるレンタルビデオ店店長に云わせていたのがおかしかった。
 商売ではレンタルしていても、店長するくらいならやっぱり映画が大好きで、「映画は映画館で観る」ことがモットーだったりするものだ。

 そのトークショーで、『空気人形』に触れてこんなこともおっしゃっていた。
 ・『空気人形』では人工的な光を意識した。人工的な光を作りこむことを楽しんだ。
 ・『歩いても 歩いても』では、逆に自然な光を意識した。

 人工的な光なんて云われると、『どですかでん』や『ワン・フロム・ザ・ハート』を思い出してしまうが、是枝監督の「人工的」はまったく違う意味だった。


 人形の"のぞみちゃん"が心を持って1日目、日が落ちて薄暮の迫る街を俯瞰するショットがある。
 マンションの灯や看板の灯りが蛍のように光るなか、のぞみがビルの上にたたずみ、隅田川を提灯に彩られた屋形船が滑っていく。
 『歩いても 歩いても』の田舎の自然光とはまったく違う光を、東京の街が放っていた。

 それは、フランク・ハーバートの言葉を借りるなら「画面を切り取って、額に入れて飾っておきたい」絵である。

 月島周辺は映画やテレビで頻繁に撮影されるので、見慣れた景色ではあるのだが、『空気人形』の風景はまったく新鮮だった。
 空き地のベンチで、のぞみが老人と佃島の高層マンションを眺めるシーン。
 松本零士デザインのヒミコに手を振るシーン。
 いずれも「額に入れて飾っておきたい」ほどである。

 のぞみがしばしば老人と、受付嬢と言葉を交わした空き地のベンチは、ストリートビューで皆さんも見ることができる。
 驚くなかれ、この映画のために作られたかのような空き地もベンチもマンション群も、普段の何気ない景色の一部でしかないのだ。
 しかし今は、すべてこの映画のために存在してきたとしか思えない。

 撮影監督リー・ピンビンは、私たちの住む東京を、見知らぬファンタジックな街として浮かび上がらせた。


 『空気人形』への取り組みについて、是枝監督はインタビューで次のように語っている。
---
原作の『空気人形が、抜けてしまった空気を自分の好きな人に吹き込まれて満たされる』というシーンが非常に官能的で、ぜひ映画にしたいというところからスタートしました。他人の息で満たされる、つまり空虚感は自分だけでは埋められない。もっと言うと、自分の中に感じる他人の息が『心』なのだという哲学的な問いも感じましたね。また、息という映画的なモチーフを介してセックスが描けるのも魅力的で、その前後の人形の感情をオリジナルでどのぐらい作れるか?というのが勝負でした。
---
 いや、そこまで云っちゃいますか
 自分で自作をバンバン語っちゃうのが、是枝監督の面白いところ。

 作中でも「空虚感は自分だけでは埋められない」ことを吉野弘氏の詩『I was born』と『生命は』に託して語っている。
 私にとってこの映画の最高のクライマックスは、のぞみが詩『生命は』を詠むところだ。

 『空気人形』はここで前半の物語を終え、後半は別の展開を見せる。
 そこにはまた別の感動があるのだが、まずはこの詩を噛み締めたい。

  生命は
  自分自身だけでは完結できないようにつくられているらしい
  …


空気人形 [DVD]空気人形』  [か行]
監督・脚本・編集・プロデューサー/是枝裕和  撮影/李屏賓(リー・ピンビン)  原作/業田良家
出演/ペ・ドゥナ ARATA 板尾創路 岩松了 オダギリジョー
日本公開/2009年9月26日
ジャンル/[ドラマ] [ロマンス] [ファンタジー]

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