『アイアンマン3』 シリーズ物がはまる罠

 大成功を収めたシリーズの新作を撮るに当たって、これまでの作品を否定するとは面白い。

 2008年の『アイアンマン』にはじまるマーベル・スタジオズ制作のヒーロー映画は、作品世界がクロスオーバーするために「マーベル・シネマティック・ユニバース」と総称される。そのフェイズ1「Avengers Assembled(アベンジャーズ集結編)」は、2012年公開の大ヒット映画『アベンジャーズ』をもって終了した。
 フェイズ1では、一作ごとに他のヒーローの存在を示唆するシーンを織り込んでスーパーヒーロー大集合への期待を高める作戦が功を奏し、ヒーロー集団アベンジャーズが全貌を現す映画『アベンジャーズ』は全世界で15億ドル以上を稼ぎ出した。

 ところが、『アベンジャーズ』後にはじまったフェイズ2の作品群は、一転してヒーローひとり一人に焦点を絞った映画になるようだ。
 その先駆けである『アイアンマン3』は、なるほどお祭りのように賑やかだった『アベンジャーズ』とは裏腹に、アイアンマンことトニー・スタークの孤独な戦いに終始する。それどころか、スーパーヒーローたるアイアンマンをも否定する。

 私はその戦略の巧さに感心した。
 しばしばシリーズ物がはまる罠は、前作のスケールを超えねばならないとか、敵の数や強さをエスカレーションさせねばならない、という強迫観念に取り付かれてしまうことだ。
 ゴジラシリーズが二作目にして早くもアンギラスとの対戦物になってしまったがために、以降は知名度のある怪獣と対戦したり(対キングコング)、怪獣の数を増やしたり(三大怪獣、怪獣総進撃)し続けたのがその例だ。ティム・バートンとジョエル・シュマッカーのバットマンシリーズが、一作ごとに敵味方の数を増やしたのも同様だ。

 しかし『アイアンマン3』では、世界中で歓迎されたスーパーヒーロー大集合にあっさり背を向け、人間トニー・スタークを掘り下げている。『アイアンマン2』が前面に出していた社長の地位も大金持ちであることも今回は脇に置き、ボディガードのハッピーすらいない中、トニーが頼るのは偶然出会った孤児の少年だけとなる。成功しているシリーズが、これほど大きな路線変更を図るとは驚きだ。

 本作が巧みなのは、スケールアップやエスカレーションの期待をある面では満足させていることだ。
 アイアンマンのアーマーはマーク42に及び、敵対する超人兵士たちはこれまで以上の難敵である。1.4億ドルの制作費が『アベンジャーズ』のヒットを受けて2億ドルに跳ね上がっただけあって、アーマーのパーツが体を覆う変身シーンは(ILMが不参加でも)これまで以上にテッカマンらしいし、トニー・スタークの大切なものがことごとく破壊されるシーンも大迫力だ。

 その一方で、『アイアンマン2』の公聴会ではあれほどトニーとアーマーが一体だと強調していたのに、本作のアーマーには重みがない。単に脱着可能な部品と化し、ときにはトニーのお荷物にすらなっている。アーマーが42体もあっては、もはやどれがアイアンマンというわけでもなく、替えの服がたくさん吊ってあるようなものだ。
 アーマーが破壊されるシチュエーションが続くのも、アイアンマンの姿からヒーロー性をはぎ取るためだろう。
 観客の目の前に残るのは、生身のトニー・スタークだけとなる。本作は、アイアンマンではなく人間トニー・スタークがいかに活躍するかが焦点なのだ。

 『アイアンマン2』以来ヒーローの仲間入りをしたローズ大佐も、ウォーマシンを改良したアイアン・パトリオットのアーマーをあっさりと脱ぐ破目になる。
 トニーの恋人ペッパー・ポッツがアーマーを装着して新ヒーロー「レスキュー」になるけれど、映画ではレスキューと名乗りもしないので、単に誰もがアーマーを装着できるようにしか見えない。
 これらも、アーマーの重みを削ぐための計算だろう。


 実のところ、制作会社は『アイアンマン2』の演出に満足していなかったという。
 制作に回ったジョン・ファヴロー監督に代わり、本作の監督に抜擢されたシェーン・ブラックは、本作を「鋼鉄のスーツを着た男たちが格闘するような映画にはしない」と語っている。すなわち一作目、二作目のようにはしないと云っているのだ。シェーン・ブラックが目指すのは、現実的な敵と戦うトム・クランシーのスリラーだという。

 現実的な敵といっても、『デアデビル』のようにギャングや武道家が相手ではない。
 トム・クランシーの小説は映画化され、『レッド・オクトーバーを追え!』『トータル・フィアーズ』等が公開されているから、その国際的な謀略の世界は映画ファンにもお馴染みだろう。
 もちろんシェーン・ブラック監督は、トム・クランシーが書くような世界と、鋼鉄のアーマーに身を固めたアイアンマンの世界が調和しないことを知っている。

 だからこそシェーン・ブラック監督が描くのはアイアンマンではなくトニー・スタークなのであり、戦う相手は「鋼鉄のスーツを着た男」じゃなく、マンダリン率いるテロ組織テン・リングスだ。テレビ電波を乗っ取って10個の輪のロゴマークを放映するテン・リングスは、一作目『アイアンマン』の冒頭でトニー・スタークを拉致監禁した組織でもある。
 本作では、なんとトニー・スタークがアイアンマンになる前に出会った組織が、ヴィランとして名乗りを上げるのだ。
 その陰謀は、再生医療の悪用と爆破テロ。彼らの技術を用いれば、大怪我がきっかけでアイアンマンになったトニー・スタークを元の体に戻せるし、普通の人間を超人にすることもできる。ヒーロー物らしい荒唐無稽さを残しつつ、鋼鉄のスーツを着た男たちとは一線を画す設定だ。

 このような路線変更は、一作目、二作目が好きな御仁には唐突かもしれない。
 しかし、同じ路線で観客を惹きつけようとしたら、内容をエスカレーションし続ける必要があり、いずれ設定の辻褄が合わなくなったり、リアリティを損なったりして破綻することだろう。
 作品の魅力を人間トニー・スタークに求めることは、今後アイアンマンシリーズを続ける上で大きな意味を持つはずだ。
 本作は三部作の掉尾を飾るものではあるが、当然『アイアンマン4』と『アイアンマン5』が期待されるのだから。


アイアンマン3 3Dスーパー・セット(2枚組/デジタルコピー付き) [Blu-ray]アイアンマン3』  [あ行]
監督・脚本/シェーン・ブラック  脚本/ドリュー・ピアース
出演/ロバート・ダウニー・Jr グウィネス・パルトロー ドン・チードル ガイ・ピアース レベッカ・ホール ベン・キングズレー ジョン・ファヴロー ステファニー・ショスタク ジェームズ・バッジ・デール
日本公開/2013年4月26日
ジャンル/[SF] [アクション] [ドラマ]
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tag : シェーン・ブラック ロバート・ダウニー・Jr グウィネス・パルトロー ドン・チードル ガイ・ピアース レベッカ・ホール ベン・キングズレー ジョン・ファヴロー ステファニー・ショスタク ジェームズ・バッジ・デール

『アイアンマン2』 世界は何を待っている?

 実力たっぷりの俳優たちによるノリノリの演技合戦。
 それが『アイアンマン2』だ。

 ミッキー・ロークはうらぶれた親父がすっかり板についているし、かつて主人公トニー・スターク役の候補だったサム・ロックウェルは仇敵ジャスティン・ハマーをエキセントリックに演じて楽しませてくれる。
 グウィネス・パルトローの生真面目な秘書も前作同様魅力的だし、スカーレット・ヨハンソンは法務部のインテリと黒装束のスパイの両面をトボけた顔で演じ分けてみせる。
 ジョン・ファヴロー監督も、前作に引き続き運転手のハッピー・ホーガンを演じ、今回はチョイとした見せ場もある。

 各俳優のファンはもとより、そうでない人もそれぞれのキャラクターに魅了されることだろう。

 そして何といっても見ものなのはトニー・スタークを熱演するロバート・ダウニー・Jrだ。
 先端技術を売りにする企業のCEOにして大富豪、みずからも技術者であり、トレードマークのヒゲを欠かさず、スピーチでは雄弁に語るその姿は、劇中でも紹介されるオラクルラリー・エリソンそのものだ。両手でVサインを繰り返すロバート・ダウニー・Jrは、オーバーアクションのギリギリ手前の楽しい演技で、まるで『フラッシュ・ゴードン』におけるマックス・フォン・シドーの名演技を髣髴とさせる。

 このロバート・ダウニー・Jrの演技と相まって、映画全体がトニー・スタークを持ち上げる作りになっている。
 トニー・スタークが主人公だから当然といえば当然だが、近年これほどマッチョな主人公も珍しいのではないだろうか。
 ここでいうマッチョとは、筋肉隆々の体を指すのではなく、「男らしさ」とか「男性優位主義」のことである。
 とりあえずトニー・スタークにも悩みがある。しかしそれは主に健康に関するものであり、スパイダーマンのように生き方に悩んだり、ハルクのように自分の二面性に悩んだりはしない。トニー・スタークは内省的な人物ではないのである。

 そして興味深いのは、グウィネス・パルトロー演じるペッパー・ポッツの扱いだ。
 トニー・スタークからスターク・インダストリーズの社長の座を譲られた彼女は、意外な昇進に大喜び。
 しかし彼女に社長業は重荷すぎて、すぐにキリキリ舞いしてしまう。
 『アイアンマン』一作目のペッパー・ポッツは、有能な秘書としていい加減なトニー・スタークを責め立てたが、本作では経営者としてのストレスに耐えきれないことを露呈するのだ。
 これはすなわち、長年にわたって社長を務めてきたトニー・スタークが、マッチョで優れていることの証左である。


 それにしても、いまどき女性が無能さをあらわにする映画は珍しい。

 SF映画における男女の関係に変化が訪れたのは、『スター・ウォーズ』(1977)からだろう。
 それまでは、戦うヒーローと助けられるヒロインという図式が一般的だったと思う。
 しかし、古典的な冒険活劇や、世界の神話に影響されたというこの作品は、男女の描き方に関しては新鮮だった。世間知らずの田舎の青年と、おきゃんでしっかり者の女性の物語は、ジョージ・ルーカス監督の青春群像劇『アメリカン・グラフィティ』の延長であり、それまでのSF映画にはないものだった。
 そして決定的なのが『エイリアン』(1979)である。定石どおりなら悲鳴を上げて逃げ惑うはずのヒロインが、この作品では頼りにならない男たちを尻目に、黙々とモンスターと戦った[*]。
 それに続く『エイリアン2』で、ジェームズ・キャメロン監督は最初から戦うヒロインに主眼を置いた。そしてその後もジェームズ・キャメロン監督は、女も男も同じように戦う姿を描き続けた。

 こうしてフェミニズムの進展と呼応して映画の中の女性は強くなり、時には主人公として、時にはパートナーとして、男とともに戦った。
 マッチョな男性の代表格とも云える007シリーズにおいてすら、007の上司は女性になり、花を添えてた美人秘書のマネーペニーは姿を消した。


 それが『アイアンマン2』では、ペッパー・ポッツは社長業をこなしきれなかった。社長なんて、トニー・スタークが抱える幾つかの面の1つでしかないにもかかわらず。
 結果として、トニー・スタークこそが、スターク・インダストリーズの社長もスーパーヒーロー・アイアンマンもこなせるマッチョの星であることを強調することになる。

 本作の主要登場人物、すなちわ大企業の社長たる主人公、同じく大企業の社長たる仇敵、秘密組織の長官たる支援者がいずれも男性なのは注目だ。
 ミッキー・ローク演じるウィップラッシュも、誰の命令を聞くでもなく自分の意思で行動する男だ。

 一方で、ペッパー・ポッツとバランスを取るように大活躍する女性が、スカーレット・ヨハンソン演じるブラック・ウィドーである。劇中ではその名で呼ばれることはないが、「黒衣の未亡人」の名のとおり黒装束に身を包み、アクションを一手に引き受ける。
 その活躍は痛快だが、しょせん彼女は一兵卒にすぎない。
 自由に行動するウィップラッシュと違って、S.H.I.E.L.D.の一員としてニック・フューリー長官の意を受けて動くだけである。


 フェミニズムは数十年かけてハリウッド映画に浸透してきた。
 内田樹氏は先ごろ公開された『プレシャス』をして、「男性中心主義の終焉」とまで云っている。
 しかし本作は、その流れに反しているのである。


 世界情勢の捉え方も特徴的だ。
 本作では北朝鮮とイランが敵対的な国家として実名を挙げられる。
 これには、ジョージ・W・ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と発言していた頃を思い出してしまった。
 いやはや、こんなところもマッチョである。

 『アイアンマン2』は、米国はもとより世界中で大ヒットしている。
 日本では「草食男子」なんて言葉が流行ったが、世界はマッチョを待っているのか?


[*] 女性が主人公のSF映画としては、すでに『バーバレラ』(1967)や『スタークラッシュ』(1978)があったが、これらは戦う女性というよりもセックスシンボルである。


アイアンマン2  ブルーレイ&DVDセットアイアンマン2』  [あ行]
監督/ジョン・ファヴロー
出演/ロバート・ダウニー・Jr グウィネス・パルトロー ドン・チードル スカーレット・ヨハンソン サム・ロックウェル ミッキー・ローク サミュエル・L・ジャクソン ジョン・ファヴロー
日本公開/2010年6月11日
ジャンル/[SF] [アクション] [ドラマ]
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