『ブラック・ブレッド』『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 ムービープラス・アワード2012

 ムービープラスが実施しているムービープラス・アワード 2012
 その4部門に投票したので、内容を紹介する。

 投票に当たっては、例によって当ブログで未紹介の作品であることを心掛けた。
 すなわち、取り上げたい作品であったにもかかわらず、ブログ記事をまとめるには至らなかったことを、ここに懺悔する次第である。


作品賞

リンカーン弁護士 [DVD] リンカーン弁護士

 「未紹介の作品」と云いつつ前回紹介済みの作品で恐縮だが、前回の記事は元々本記事の内容だった。『リンカーン弁護士』の紹介文を書いていたら長くなってしまったので、独立した記事にしたものである。
 したがって、この作品については前回の記事を参照されたい。

リンカーン弁護士』  [ら行]
監督/ブラッド・ファーマン
出演/マシュー・マコノヒー マリサ・トメイ ライアン・フィリップ ジョシュ・ルーカス ジョン・レグイザモ マイケル・ペーニャ フランシス・フィッシャー ボブ・ガントン ブライアン・クランストン ウィリアム・H・メイシー
日本公開/2012年7月14日
ジャンル/[サスペンス] [ドラマ] [ミステリー]


監督賞

王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] ツイ・ハーク (『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』)

 『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』は、『リンカーン弁護士』に勝るとも劣らない面白さだ。娯楽性に関してはこちらが上だろう。

 題名からして島田荘司氏のミステリー小説『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』を髣髴とさせ、とんでもない奇想を期待させる。はたしてミステリーファンの納得するものかどうかはともかく、本作は人体発火のカラクリを上手くサスペンスに活かしながら、唐朝の探偵ディーの活躍をアクション満載で描いていく。
 見る者を圧倒する巨大な仏塔「通天仏」のスペクタクル感といい、地の底や深い森までも舞台にするスピーディーな展開といい、観客を一瞬たりとも退屈させない。
 各キャラも立っていて、物語から退場するキャラクターがもったいなくて仕方がない。キャラクターを退場させたらシリーズ化できないじゃないか。

 これだけ楽しませてくれたツイ・ハーク監督に敬意を表したいと思う。

王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』 [あ行]
監督・制作/ツイ・ハーク  アクション監督/サモ・ハン
出演/アンディ・ラウ リー・ビンビン ダン・チャオ レオン・カーフェイ カリーナ・ラウ
日本公開/2012年5月5日
ジャンル/[ミステリー] [アクション]


男優賞

スーパー・チューズデー ~正義を売った日~ [Blu-ray] ジョージ・クルーニー (『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』)

 本当なら、『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 のジョージ・クルーニーは、監督賞で言及すべきである。だが、前述のように監督賞にはツイ・ハーク監督を選んでしまったので、いささか筋違いだが男優賞にジョージ・クルーニーを挙げた。

 本作の男優陣はみんな魅力的で、主演のライアン・ゴズリングも、彼を雇うフィリップ・シーモア・ホフマンも、味のある役どころだ。
 一男優の活躍としては『ぼくたちのムッシュ・ラザール』のフェラグ等も挙げられるが、本作の男優陣を監督兼助演のジョージ・クルーニーに代表してもらった。

スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 [さ行]
監督・制作・脚本/ジョージ・クルーニー
脚本/グラント・ヘスロヴ ボー・ウィリモン
出演/ライアン・ゴズリング ジョージ・クルーニー フィリップ・シーモア・ホフマン ポール・ジアマッティ マリサ・トメイ ジェフリー・ライト エヴァン・レイチェル・ウッド
日本公開/2012年3月31日
ジャンル/[ドラマ] [サスペンス]


女優賞

ブラック・ブレッド [DVD] マリナ・コマス (『ブラック・ブレッド』)

 2012年の女優賞は何といっても『ふがいない僕は空を見た』の田畑智子さんだ。魔法少女のコスプレも、彼女の丸みを帯びた顔と大きな瞳には驚くほど似合っており、実に素敵である。
 ただ、本記事は未紹介の作品を対象とするため、『ふがいない僕は空を見た』については先の記事をご覧いただくとして、ここでは『ブラック・ブレッド』を取り上げたい。

 『ブラック・ブレッド』も、ポイントとなるのは『リンカーン弁護士』同様にカネである。
 『リンカーン弁護士』の記事では、人と人との結びつき方の違いから、愛情がベースの世界とカネが基本の世界があると述べた。

 橘玲氏はこれらを同心円状の空間として整理している。
 私たちの周りには、家族や恋人からなる半径10メートルくらいの愛情空間がある。その周りには親しい友だちからなる半径100メートルほどの友情空間があり、さらにその周囲に年賀状をやりとりするような「知り合い」の空間がある。ここまでをひっくるめて政治空間と呼ぶ。
 政治空間の外には、「他人」の世界が広がっている。そこにいるのは名前くらいなら知っているかもしれないが、普段は気にかけることのない人々であり、かろうじて貨幣を介して繋がっている(買い物先の店員とか)。これが貨幣空間だ。世界のほとんどは貨幣空間だが、私たちにとって価値があるのは政治空間、とりわけ愛情空間である。

 『ブラック・ブレッド』の主人公は、愛情空間に包まれて生きてきた少年アンドレウ。
 舞台は内戦を制したフランコが支配する1940年代のスペインだ。内戦が終結したとはいうものの、国を二分して国民同士が争った傷跡は深く、いまだ人々のあいだには憎しみや怨嗟が渦巻いている。
 そして一つの殺人事件をきっかけに、アンドレウの周りの空間も恨み辛みや欺瞞に満ちていく。人と人のあいだにあるのは愛情だけではなかったのだ。
 橘玲氏はこれを次のように説明する。
---
政治空間には愛情や友情だけではなく、嫉妬や憎悪、裏切りや復讐などのどろどろとした感情が渦巻いている。恋愛から戦争まで、人間ドラマのすべては政治空間で繰り広げられる。
---

 だが、アンドレウが知るのはそれだけではなかった。
 彼は、世界のほとんどが貨幣空間であること、大切に思っていた愛情空間ですらカネに侵食されていることに気づいてしまう。
 小さな愛情空間と広大な貨幣空間は、様々な作品で取り上げられるテーマだ。たとえば『クリスマス・キャロル』は、愛情空間が消え去って、貨幣空間に直接身をさらしていた主人公が、自分の周りに愛情空間を復活させる物語とも云えるだろう。
 本作は逆に、堅固だと思っていた愛情空間が実は薄っぺらで、自分は貨幣空間の真ん中にいることを理解していく物語だ。
 だからアンドレウは、貨幣空間に適応して生きることを選択する。カネは信条や理想をも上回り、世の中を動かす強い力を持っているのだから。

 …と、作り手は考えているように思えるが、私はあまり賛成できない。
 カネでものごとが解決できるなら、世の中はもっと簡単だろう。実際には思想信条や感情的な好悪が強すぎて、カネだけではどうにもならないことが多いように思う。
 しかし、鉄壁だと思っていた愛情空間の崩壊を目にした少年が、愛情によらない別の世界に踏み出す過程は、観客にも多かれ少なかれ憶えがあるのではないだろうか。


 そんな『ブラック・ブレッド』からは、従妹のヌリアを演じたマリナ・コマス嬢に注目したい。
 ヌリアは純朴なアンドレウ少年よりも大人びて、謎めいた美少女として登場する。ところが物語の進行につれてアンドレウはヌリアを追い越すほどに大人びていき、やがてヌリアの方がアンドレウに振り回されてしまう。彼女は、アンドレウの成長を測るバロメーターなのだ。
 そのため、アンドレウ役のフランセスク・クルメが線の細い少年なのに対し、マリナ・コマスは目鼻立ちのはっきりした、凛々しさを感じさせる少女である。
 やや暗いトーンの本作において、彼女の美しさは清涼剤といえよう。


ブラック・ブレッド』 [は行]
監督・脚本/アグスティ・ビリャロンガ
出演/フランセスク・クルメ マリナ・コマス ノラ・ナバス セルジ・ロペス
日本公開/2012年6月23日
ジャンル/[ドラマ] [ミステリー]
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