『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』 歌と踊りに驚いた!

 手元のチケットを見る。
 作、演出に並んで、作詞者の名前が載っている。
 これぞ劇団☆新感線! これぞ「音モノ」の極めつけ、SHINKANSEN☆RX!
 シリーズ三作目となる『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』は25曲もの歌を配して、歌と踊りと歌と踊りと殺陣と歌と歌が炸裂する、愉快痛快なお笑い伝奇ロマンである。

 思えば近年の劇団☆新感線の作品は、客演陣の魅力に負うところが大きかった気がする。
 シリーズ一作目の『五右衛門ロック』では森山未來さんのズバ抜けたダンスが観客の目をさらったし、シリーズ二作目の『薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive』は宝塚出身の天海祐希さんによる男装の麗人役があればこその演目だった。
 役者の個性と実力を最大限に活かしてこそ芝居は面白いのだから、当然のことだろう。
 だが、劇団員だけの芝居を大いに楽しんできたファンとしては、演目が客演陣に支えられているようで心中複雑であった。客演の有無に関わらず、新感線の芝居は面白いはずなのだから。

 その点、三作目の『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』はもっともバランスの取れた作品だ。
 もちろん今回も多彩なゲストが参加している。
 中でも主役の古田新太さん以上に出ずっぱりで、全25曲のうちなんと10曲を歌っている三浦春馬さんの活躍は目覚しい。続く蒼井優さんも9曲に参加しており、主人公の古田新太さんが3曲しか歌っていないのが淋しいくらいだ。
 中島かずき氏がコラムで「テレビや映画だとあまりそういうイメージはないでしょうが、実は二人とも良い声をしています。」と書かれているとおり、これまで三浦春馬さんや蒼井優さんの舞台を観ていなかった私には、お二人の歌と踊りは大発見であった。

 だからといって、本作はゲストのキャリアや特技から構想されたわけではなかろう。
 中島かずき氏はインタビューにおいて、高橋由美子さんの役を思いついたおかげで「すべてのストーリーがするするっとできた」と述べているが、その高橋由美子さんは「こんな役できないよー」と云っていたそうだから、役者の得意技に依拠したわけではない。
 作家が構想した骨太の物語と、キャスティングの妙が相まって、本作は実にバランスの取れたエンターテインメントになっている。

 かつて劇団☆新感線の芝居は歌謡ショーのような方向に進んでいたことがある。その頃はストーリー性よりも、役者が登場するたびに歌をうたうことを重視しているように感じられたものだ。
 しかしそこから再びストーリー重視に転じ、帝国劇場でのロック・ミュージカル『SHIROH』(2004年)を経て、新感線はストーリー性と音楽性の絶妙なバランスを完成させていった。
 歌謡ショーの本場・新宿コマ劇場の閉館直前に上演された『五右衛門ロック』(2008年)には、新感線ファンのみならず、演歌の殿堂たる新宿コマ劇場の固定客らしき人々も見受けられたが、皆一様に満足したことだろう。
 本作もたっぷりと歌と踊りを披露しながら、第一幕の伝奇物らしい謎解きから、第二幕では一転して激動の戦乱を描き、そのダイナミズムに驚かされる。

 しかも、一作目の敵だったイスパニア商人のアビラ・リマーニャと、二作目の敵アヴァンギャルド公爵夫人マローネが集結し、新登場の悪玉・蜂ヶ谷善兵衛と共に五右衛門を罠にかけるのだから、シリーズを通して見てきたファンにはたまらないシチュエーションだ。

 ただし、ここにはおかしな点もある。
 石川五右衛門が活躍したのは16世紀末。一方、二作目の時代設定は17世紀中頃であることから、『薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive』の公式サイトでは、一作目の五右衛門と二作目の五右衛門は別人だと説明されていた。
 けれども、本作には1598年に没する豊臣秀吉が登場することから、再び16世紀が舞台となっている。だから二作目のキャラクターが三作目に登場することは本来あり得ない。

 もちろん、そんなことを気にするほどケツの穴が小さい新感線ではない。
 それに本作最大の魅力は、世界を股にかけたスケールの大きさだ。
 一作目の舞台は南海のタタラ島、二作目の舞台はイベリア半島の小国コルドニアと、いずれも日本国外での物語だったが、三作目にして初めて本格的に日本が舞台になる。それでは世界を股にかけてないじゃないかと思われるかもしれないが、一作目、二作目がそれぞれの地域内での物語だったのに対して、本作は舞台こそ日本としながらも、前作までのキャラクターの登場によりグローバルな展開になっている。善兵衛、マローネ、アビラの三悪人が歌う曲は、その名も『蜂ヶ谷・ザ・グローバル』だ。

 また、物語の背景には文禄・慶長の役という東アジアの大戦争があり、国際情勢を絡めたストーリーでもある。
 劇中、日本のことを「ひのもと」と呼んで、「日の本」の国であることを強調するのもその表れだろう。
 日本という国号が決まったのは、浄御原令(きよみはらりょう)という法令が施行された689年だそうだ。対外的には、702年に遣唐使・粟田真人が中国の皇帝・則天武后に対して「日本」の使いと述べたのが最初である。[*]
 太陽は世界のどの国も等しく照らすから、世界中が日の下であるはずだが、わざわざ「日の本」と名乗るのは日本国が日の昇るところにあることを示している。
 もちろん、太陽は地球から1億5000万kmも離れており、日本の地を割って出現するわけではない。太陽が日本から昇るように見えるのは、観察者が日本より西にいる場合、すなわち中国大陸から見たときのことだ。「日本」とは、中国大陸に住む人に向けて、あなたより東から来ましたと説明する言葉なのだ。
 そこには、世界の中心は中国であるという7世紀当時の世界観が込められている。だからナショナリストは「日本」という国号を好まない。網野善彦氏は、幕末の神道家が水戸学の創始者藤田幽谷を訪ねて「この名前は嫌いだ」とこぼしたエピソードを紹介している。[*]

 また、本作の題名に使われている「ジパング(ZIPANG)」は、元代の中国語で「日本国」を発音したものだ。
 いずれも世界の中の日本を意識した言葉であり、東の辺境に位置する我が国と諸外国との関係に目を向けたものである。

 このような世界観の中、五右衛門が日本で大暴れし、さらには世界の大海原へと乗り出していく。
 ここがポイントで、悪党を懲らしるだけで終わらないのが本作の特徴だ。
 そのスケールの広がりと雄大な浪漫が、何よりも爽快なんである。


[*] 網野善彦 (2001) 『歴史を考えるヒント』 新潮社

ZIPANG PUNK―五右衛門ロック〈3〉 (K.Nakashima Selection)ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』  [演劇]
演出/いのうえひでのり  作/中島かずき  作詞/森雪之丞
出演/古田新太 三浦春馬 蒼井優 浦井健治 高橋由美子 村井國夫 麿赤兒 天海祐希 橋本じゅん 高田聖子 粟根まこと 右近健一 山本カナコ 河野まさと
公演初日/2012年12月19日
劇場/東急シアターオーブ
ジャンル/[時代劇] [アドベンチャー]
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