『悪の教典』 ヒットのための3要素

 まだまだ面白い企画はあるものだ。
 先日、『北のカナリアたち』に感心したばかりだが、映画『悪の教典』も企画の上手さを堪能した。

 林朋宏氏によれば、映画がよく見られる効果要素は三つあり、それは「監督」「スター」「ジャンル」だという。
 ネームバリューのある監督やスターが多くの客を呼べることは、誰もが納得するところだろう。3番目の「ジャンル」とは、特定のジャンルを好んで観るコアなファンが存在することを指す。『東京公園』に登場した、ゾンビ映画ばかり観ている女性が良い例だ。
 その点、『悪の教典』の狙いは上手い。
 『悪の教典』はホラー映画だ。どちらかというとコアなファンが支えるジャンルだろう。学校を舞台に、教師が生徒たちを殺戮する本作は、コアなホラーファンも納得するほどの死体の山が築かれる。

 しかも本作は背徳的だ。
 ホッケーマスクの殺人鬼やブギーマンが良識に反することをしても、彼らはそのために創作されたキャラクターだからショックでも何でもない。むしろ、人付き合いが良かったり、悩み相談に応じたりしていたら幻滅だ。だが、生徒に人気の先生が、子供を手篭めにしたり殺したりしたら、ブギーマンとは違うインパクトがある。

 だが、映像の過激さや、観客を驚かせることについては、本作はまだ控え目だ。本作はそれらを極めようとはしていない。
 その代わりに本作が力を入れるのは、効果要素の残りの二つ、「監督」と「スター」である。
 三池崇史監督の名前を聞けば、『十三人の刺客』や『愛と誠』のような怒涛のごときエンターテインメントが思い浮かぶ。
 さらに「スター」についても申し分ない。『海猿』シリーズの大ヒットで知らぬ者のない伊藤英明さんを主役に迎え、生徒役にも同僚役にも有名スターをズラリと揃えている。これらスターのネームバリューのおかげで、本作の客層は大きく広がったはずだ。

 特に伊藤英明さんは、『海猿』シリーズで誠実な熱血漢を演じる一方で、『カムイ外伝』や『アンダルシア 女神の報復』ではそのイメージを払拭するような役に挑んできた。だから『BRAVE HEARTS 海猿』の大ヒットも記憶に新しいこの時期に、今度は連続殺人鬼を演じるのは、伊藤英明さんにとっても願ったりだろう。

 前述の林朋宏氏によれば、ホラー映画のようなジャンルムービーは、「一般作ほど広い観客はいなくても、コアなファンが多く、低予算の製作費でも一定のボリュームが確保できる」そうだが、本作はなんとジャンルムービーなのにしっかりと予算を注ぎ込んでいる。監督もスターも知名度に優れた人たちだから、低予算のホラー映画では考えられないほど広い観客にリーチできるだろう。

 この効果は絶大だ。普段なら連続殺人鬼の映画なんて目もくれない客層が、伊藤英明主演ということで注目し、スターの豪華さに惹かれて足を運ぶ。
 そこで観客が目にするのは、見たこともないショッキングな展開である。
 低予算映画でも足を運ぶコアなファンにはたいした刺激じゃないかもしれないが、スターに惹かれてやってきた多くの観客には充分過激だ。


 加えて本作を特徴付けるのは、殺人鬼たる主人公の人間性を掘り下げたりしないことだ。どうしてそういう人間になったのか、なんて理由探しはスッパリと切り捨てている。
 しばしば作品の良し悪しに関連して「人間が描けていない」という批評があるけれど、人間を描くことと面白さは別だ。
 お化け屋敷でお化けの身の上話を聞かされたら、どんなにつまらないことだろう。お化け屋敷のお化けは怖がらせてくれればいいのであり、客は怖ければ怖いほどまた行きたくなるものだ。
 本作では、文化祭に向けたお化け屋敷の飾り付けの中を、生徒たちがキャーキャー叫んで逃げ回る。それはまさしくお化け屋敷を逃げまどうのと同じだ。
 派手派手しい装飾の中の惨劇は、お祭り騒ぎのような楽しさに満ちて、セルフパロディの妙味すら漂わせている。映像がグロテスクになり過ぎないように控えているのも、広い観客を意識した配慮だろう。

 また、原作者の貴志祐介氏は、次のような想いで『悪の教典』を書いたという。
---
学校を舞台にした小説は数多くあるものの、どうしても最終的にはいい話になりがちなんですね。そういうものではないものを書いてみたい、と思っていました。
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 その精神は映画にも受け継がれている。
 お化け屋敷の出口でお化けに握手を求められたら、いい話かもしれないが興醒めだ。原作者のおっしゃることはもっともなのだ。


 ところで私は、学内を血の海にする主人公を見ながら、『仮面ライダー』を思い出していた。
 猟銃を手に、逃げまどう生徒たち追いかけ回す主人公が、ショッカーのアジトに乗り込んで戦闘員を襲う仮面ライダーに見えたのである。戦闘員たちにもそれぞれいろんな事情があるかもしれないのに、仮面ライダーは有無を云わさず手当たり次第に殴り殺すからだ。

 ちなみにショッカーとは、多数の国家が乱立するこの世界に、統一政府を樹立し、恒久的な平和を実現しようとする国際的なNGOである。
 政党が党首を首班に指名するように、ショッカーも自分たちの首領を世界の首班に据えようとした。だが、それが気に入らない仮面ライダーによって、ショッカーは皆殺しにされてしまう。
 私たちがエールを送ったヒーローも、その行動の一断面を捉えれば本作の主人公と変わらない。本作を見ていて、そんなことを考えた。


 とはいえ、『悪の教典』はお化け屋敷的な楽しさを味わうのが第一だ。友だちと文化祭に行くように、みんなで連れだって観たいものだ。
 鑑賞中は不道徳な場面の連続にゾッとし、映画館を出たら主人公のひどさをみんなでこき下ろす。そんな見方が楽しいだろう。
 これはオールスター悪の祭典なのだから。


悪の教典  Blu-ray エクセレント・エディション(特典Blu-ray付2枚組)悪の教典』  [あ行]
監督・脚本/三池崇史
出演/伊藤英明 山田孝之 二階堂ふみ 染谷将太 林遣都 浅香航大 水野絵梨奈 平岳大 吹越満 KENTA 宮里駿 横山涼
日本公開/2012年11月10日
ジャンル/[サスペンス] [ホラー] [学園]
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