『アウトレイジ ビヨンド』 やさしい漫才映画

 「日本人は想像力を使えなくなっている。映画では前より倍しゃべって説明しないとダメになった」
 かつて、極めてセリフの少ない映画を撮っていた北野武監督が、こう語っている。
 「テレビでさえ吹き出しを付ける。お笑い番組では笑い声まで書いてある。そこまで徹底しないと客が理解しないのか?」(日経新聞10月1日夕刊)

 『アウトレイジ ビヨンド』は、そんな客たちに北野監督が最大限歩み寄った作品だ。
 登場人物たちは冗舌で、誰も彼もが喋り続けている。無言のイメージシーンが延々と続く北野映画の特徴が、今やすっかり影を潜めた。
 北野監督はもともと漫才師として大ブームを起こした人だから、言葉の応酬は得意中の得意。その人が、言葉によらない映画を作るのは驚きだった。
 けれども「想像力を使えなく」なった日本人には、漫才のように判りやすいオチを提示してやらなきゃダメなのだ。本作は、そんな北野監督の割り切りの産物だろう。

 先のインタビューで、北野監督はこうも語っている。
 「漫才と同じ。言葉は筋振りであって、落とし所を考える。言葉をうのみにしていると、アレッとなる。予想外のことが起こる」
 「しゃべってわからせといて、実はそれウソだよ、となる。落語のオチみたいなところがある。そうやって客を混乱させる」

 なるほど、本作は漫才やショートコントの積み重ねのようである。「『出てけ!』と云ったら出て行っちゃった」なんて展開はツービート時代の漫才のようだし、ヤクザ同士が怒号のやりとりに加熱したところをストンと落としてみせるタイミングも、漫才を思わせる切れの良さだ。
 おそらく北野監督は、これまでだって本作のような映画を作ろうと思えば作れたのだろう。激しい言葉の応酬を中心に据えるなんて、簡単すぎてやる気が起こらなかったのかもしれない。
 それを今になって手掛けるほど、日本人は「しゃべって説明しないとダメになった」。

 監督の思いはともあれ、本作が判りやすくてテンポの良い映画であることは間違いない。
 日本が誇る題材――サムライ、ニンジャに続くコンテンツと云えばヤクザだろうし、その抗争を描いた本作は世界のどこでも受けるだろう。
 かつて脚本家・笠原和夫氏は、北野武作品のシナリオの弱さを指摘したそうだ。そりゃあ、笠原和夫氏がシナリオを書いた『県警対組織暴力』(1975年)の急坂を転がり落ちるがごとき怒涛の面白さは他人が再現できるものではないが、本作にはヤクザが演芸場に立って怒鳴りながら漫才をするようなアンバランスな魅力がある。
 これぞ北野監督ならではのシナリオだろう。


 ただ、漫才らしいノリを大事にする本作では、ノリと相容れない要素が省かれているのは残念だ。
 その一つが、かつて北野作品に見られた美しい絵のようなショットである。
 フィルムの1コマを拡大して額に飾れば、それだけで素晴らしい絵画になる。北野作品はそんな映像に溢れていたが、本作ではそれを敢えて避けている。
 たとえば死体を映すときはカメラの動きを止めて、美しい絵画のように撮ることが多かった北野監督だが、本作の死体は美しくない。かつての北野作品が、美術館に絵を飾るようなものだとすれば、本作は演芸場でコントや漫才を見せるようなものだろう。

 北野監督は前作『アウトレイジ』の公開時に次のように述べていた。
 「基本的には漫才の出身だから、お金払って見に来る人にもう実験はしちゃいかんと思ったんだ。(略)やっぱり映画はエンターテインメントじゃないとね」
 そして「みんなが喜ぶエンターテインメントなんて、その気になれば簡単なんだよ。」と語ったとおり、『アウトレイジ』は興行収入7.5億円を記録した。
 より一層観客に歩み寄った本作は、さらに好成績を残すだろう。

 私たち観客は、北野監督の手玉に取られるばかりである。


アウトレイジ ビヨンド [Blu-ray]アウトレイジ ビヨンド』  [あ行]
監督・編集・脚本/北野武
出演/ビートたけし 西田敏行 三浦友和 加瀬亮 中野英雄 松重豊 小日向文世 高橋克典 桐谷健太 新井浩文 塩見三省 中尾彬 神山繁
日本公開/2012年10月6日
ジャンル/[犯罪] [ドラマ] [アクション]
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【genre : 映画

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