『白雪姫と鏡の女王』 理想の映画って何だ?

 この映画を、ハリウッドスターを配したVFXたっぷりのアメリカ映画――なんて思うと、その素晴らしさを掴みそこなうおそれがあろう。
 『白雪姫と鏡の女王』の魅力は、何といっても驚くほどの能天気さだ。そしてふんだんに金色を使った豪華絢爛な衣裳とセット、さらにはやたら贅沢な映像に圧倒される。トドメを刺すのが、脈絡なく飛び出す陽気な歌と踊りである。
 そうだ、これはまさしくインド映画のノリではないか。
 そういえば、本作のターセム・シン・ダンドワール監督はインド出身だ。

 もちろん監督がインドの出身だからインド映画風になる、なんて単純な話ではないだろう。
 けれども、本作はマサラムービーを観るような態度で臨んでこそ、映画と観客との幸せなシンクロが生まれよう。受身な態度で楽しませてもらう、面白がらせてもらうのではなく、観客の方から楽しんでやるぞ、面白がっちゃうぞ、と能動的な気持ちで臨めば、本作は何倍も楽しめる。

 とにかく愉快だし、バカバカしいし、人物造形も至って単純だ。
 たとえばテリー・ギリアム監督あたりだと、グリム童話に材を取っても知的に処理してしまうのだが、本作はちっとも知性を感じさせないところがイイ!
 設定だって無茶苦茶だ。グリム兄弟は二人そろって言語学者・文学者にして大学教授だったのに、本作ではあろうことか盗賊の一味扱いだ。
 だが、それほど無茶苦茶でも、本作はベタなギャグを押し付けず、スマートで取っ付き易い。
 そしてターセム・シン・ダンドワール監督お得意の、見事な構図や映像美は健在だ。


 もしかしたら、これは理想の映画ではないだろうか。
 映画はしばしば総合芸術と称される。たしかに映画には、映像があり、音楽があり、その上ストーリーを語る力もある。他の芸術よりも多様な面を持っている。
 しかし、多様な面があるからこそ、制約もまた多い。

 上映時間や予算、技術面の制約は、小説やマンガの映画化においてしばしばスケールダウンをもたらし、原作ファンをガッカリさせる。130巻に及ぶグイン・サーガなんて、原作に忠実に映画化されることは永遠にないだろう。
 舞台やコンサートのような双方向性もないので、演者が観客のノリに合わせていつにも増して素晴らしい演目を披露することもない。
 演劇ならば初日から楽日のあいだに変化することもあるが、映画は公開初日に不評だと判っても、翌日も翌々日も同じ作品を上映しなければならない。
 ゲームのように、観客が登場人物の行動を変えることもできない。
 こうしてみると、映画とは実はあんまり面白いものではないのかもしれない。

 けれど、他の芸術に比べて映画が秀でる点もある。
 その一つが、現実には見たこともない光景を現出させられることだろう。
 視覚は人間の情報源として大きなウェイトを占めている。そこに向けて、あり得ないほど美しく、あり得ないほど豪勢で、あり得ないほど奇妙な光景を見せてくれるのは、映画ならではの楽しみだ。
 なにしろ、ただ美しいとか奇妙なばかりではなく、映し出された人物はお喋りするし、鳥や獣は動き回るし、草木はなびくし、雪も舞う。絵画や写真とは異なり、その光景には動きがあるのだ。
 しかも映画なら、人間が一瞬にして消えることも可能だ。役者がカメラのフレームの外へ歩み出るところを、編集でカットすれば良い。こんな単純なことですら、ナマの舞台では不可能だ。

 このような映画の魅力を、充分に心得ているのがターセム・シン・ダンドワール監督である。
 『白雪姫と鏡の女王』も前作『インモータルズ -神々の戦い-』に引き続き、カチッと決まった構図やきらびやかな色彩や大胆なカメラワークに溢れている。

 そしてその映像に、息を呑むほどの素晴らしさを与えているのが、石岡瑛子氏のデザインによる衣裳である。
 石岡瑛子氏がターセム・シン監督と決めた本作のコンセプトは「ハイブリッド・クラシック」だという。その衣裳は、16世紀から19世紀までのデザインの混合である。
 もちろん、いくらクラシックと云ったって、こんな衣裳はいまだかつて世界のどこにもなかったろう。
 私はゴキブリ風の礼服がこんなにチャーミングに見えるとは知らなかった。ウサギにシルクハットが似合うのも驚きである。金色のドレスなんて趣味が悪いと思いきや、とんでもなく美しい。

 眼福にあずかるとは、まさに本作のことを云うのだろう。


白雪姫と鏡の女王 コレクターズ・エディション [Blu-ray]白雪姫と鏡の女王』  [さ行]
監督/ターセム・シン・ダンドワール  衣装デザイン/石岡瑛子
出演/ジュリア・ロバーツ リリー・コリンズ アーミー・ハマー ネイサン・レイン メア・ウィニンガム マイケル・ラーナー ロバート・エムズ ショーン・ビーン
日本公開/2012年9月14日
ジャンル/[ファンタジー] [コメディ] [アクション]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : ターセム・シン・ダンドワール ジュリア・ロバーツ リリー・コリンズ アーミー・ハマー ネイサン・レイン メア・ウィニンガム マイケル・ラーナー ロバート・エムズ ショーン・ビーン 石岡瑛子

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