『最強のふたり』 嗤いと笑いは大違い

 フランス映画『最強のふたり』は、『千と千尋の神隠し』の記録をも上回った。
 これまで、英語以外の映画での史上最高の興行成績は、『千と千尋の神隠し』の2.749億ドルだったが、2012年3月20日、『最強のふたり』がこれを超えたのだ。
 しかも『千と千尋の神隠し』の収益の大半が日本一国によるものなのに、『最強のふたり』は世界各国でヒットしており、2012年3月20日以降に公開された国々でも動員が伸びている
 それももっともだろう。
 本作は実に気持ちの良い作品であり、どこの国の人にとっても普遍的な物語だ。

 題名になっている最強のふたりとは、中年のフィリップと青年ドリスのことである。立場も嗜好も異なるこの二人の交流が、本作の主題だ。
 なにしろ、フィリップは大富豪、ドリスは貧しい無職の男だ。フィリップが好きなのはクラシック音楽や美術品、一方ドリスが好むのはファンクミュージック。何もかもが正反対の二人なのだ。
 そして最大の違いは、ドリスは五体満足だが、フィリップは首から下が麻痺して動かないことである。

 これまでにも身体障碍者が登場する映画は数々あった。
 そこでは障碍が物語の中心となり、障碍をこうむった経緯であるとか、障碍を抱えた主人公の苦悩や葛藤が描かれることが多かったように思う。
 ところが、本作が特徴的なのは、障碍についてのあれやこれやをほとんど取り上げない点である。
 障碍をこうむった経緯なんて、セリフでちょっと触れるだけだし、フィリップの抱える苦悩は、障碍そのものよりも障碍があるために生じる人間関係なのだ。
 そしてドリスのがさつな人物造形も手伝って、障碍はまるでギャグのネタのように扱われる。

 たとえば、ドリスはフィリップの麻痺した足に熱湯をかけたり、熱いヤカンを押し当てたりして、フィリップが熱がらないか試している。
 また、雪の日にフィリップを連れ出して、雪合戦に興じてもいる。もちろんフィリップは雪つぶてを投げられないから、一方的に雪をぶつけられるだけだ。
 さらに、フィリップが抵抗できないのをいいことに、ドリスはフィリップの髭を変な形に剃って大笑いする。

 このように書くと、本作を見ていない人はけしからん描写だと眉をひそめるかもしれない。あるいは、とんでもないブラックユーモアを仕掛けた作品だと誤解するかもしれない。
 ところが劇場を埋め尽くした観客は、これらのシーンであっけらかんと大笑いする。いずれのシーンも、すがすがしいくらいに楽しいからだ。
 ドリスの行動は意地悪なものではなく、友人同士に見られるような悪ふざけなのだ。

 本作におけるフィリップの苦悩は、障碍そのものというよりも、周囲が障碍者扱いすることである。
 フィリップは何をするにも他人の介護を要するから、常に誰かが周囲におり、プライバシーなんてものはない。彼らは、朝から晩までフィリップの健康を気遣い、管理を徹底しようとする。周囲の人間にとって、フィリップは管理すべき対象物だ。フィリップは勝手に破目をはずすこともできないし、他人に隠れてこっそり悪さをすることもできない。

 そんな彼の前に現れたドリスは、一緒にマリファナを吸ったり、二人でスポーツカーを駆ってスピード違反で追われたりと、フィリップの健康にお構いなしの傍若無人ぶりを発揮する。
 その善し悪しはともかく、フィリップにとってはドリスが唯一悪ふざけの相手なのだ。
 一歩間違えれば不快な描写になりかねないところを、オリヴィエ・ナカシュとエリック・トレダノ両監督のさじ加減は絶妙だ。だからこそ、観客は安心して笑っていられる。
 思えば、映画の作り手の多くもまた、これまで障碍者を特別扱いし過ぎてはいなかったろうか。


 また、本作は健常者のドリスが障碍者のフィリップに接する、というだけの映画ではない。
 映画の中盤、フィリップは親戚の者から忠告される。ドリスは前科者だ、あんな者を周りに置くのは良くないと。
 その忠告を一蹴するフィリップは、ドリスにとって前科者とか貧困層という色眼鏡で見ない唯一の金持ちだ。

 人間誰しも、持っているものもあれば、持っていないものもある。
 持っている者同士、持っていない者同士が固まれば、立場が同じだから話は早い。
 けれども本作は、立場が違っても人と人とは交流できることを示している。そして心の交流があればこそ、悪ふざけもできるのだと。

 本作は実話に基いており、映画の試写にはモデルになった二人も招かれた。
 公式サイトによれば、映画が終わると本物のフィリップは目に涙を浮かべて、「私は両手で拍手しているんだ!」と微笑んだという。


最強のふたりコレクターズエディション(初回限定仕様) [Blu-ray]最強のふたり』  [か行]
監督・脚本/エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演/フランソワ・クリュゼ オマール・シー アンヌ・ル・ニ オドレイ・フルーロ クロティルド・モレ
日本公開/2012年9月1日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ]
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【theme : フランス映画
【genre : 映画

tag : エリック・トレダノ オリヴィエ・ナカシュ フランソワ・クリュゼ オマール・シー アンヌ・ル・ニ オドレイ・フルーロ クロティルド・モレ

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