『アベンジャーズ』 アイアンマンは何番目か?

 【ネタバレ注意】

 怪物を前にしてアイアンマンことトニー・スタークが叫ぶ。
 「ヨナじゃないんだからさ!」
 そんなアイアンマンのぼやきが聞き届けられるはずもなく、戦いは激しさを増していく。ヨナってなんだよ、という観客の疑問は置いてけぼりである。

 映画『アベンジャーズ』は全編その調子で、目まぐるしいことこの上ない。
 突然はじまる量子トンネル効果の講釈も、ヒドラ党の悪だくみの話も、詳しく説明されることなく素っ飛ばされる。先行するシリーズ作品を見れば判ることなのか、単なる戯言なのか、吟味する間もありはしない。

 そのテンポの早さが本作の魅力だ。
 新幹線で旅しながら幕の内弁当をかっ込んでいるときに、漬物の素材を分析したり、窓外の一点をじっくり観察する人はいない。旅の楽しさは、そんなところにはないからだ。
 本作でも、ヒドラ党の悪だくみなんか思い出さなくともキャプテン・アメリカに因縁があるらしいことが判ればいいし、量子トンネル効果を知らずともトニー・スタークとブルース・バナー博士が科学に詳しいことが判ればいい。もちろんその科学談義から、The Science and Entertainment Exchange により科学者が映画をコンサルテーションした成果を楽しんでも良い。

 アイアンマンが口にしたヨナとは、旧約聖書の『ヨナ書』に登場する預言者であり、大きな魚に飲み込まれる物語で知られる。アイアンマンは、怪物に飲まれそうな自分をヨナに例えたわけだ。でもそんな話に意味はなくて、観客は、アイアンマンが危機に瀕しても軽口をたたくような男であると判ればいい。

 みずから脚本も手掛けたジョス・ウェドン監督は、数々のヒーローたち、すなわちアイアンマンマイティ・ソーキャプテン・アメリカ、ハルク、ホークアイ、ブラック・ウィドウ、そしてニック・フューリーが集結するこのお祭り映画を、ごった煮の魅力で溢れさせることに徹している。

 集団ヒーローというだけなら、X-MENシリーズや日本のスーパー戦隊シリーズ等の例もある。しかし、それらは最初から集団物として構想されているから、キャラクターのバランスが取れている。直情径行の者やお調子者、ニヒルな者らが、個性が被らないように配置されているのだ。
 だが本作は、一枚看板を背負った主役が複数集結するものだから、アイアンマンとソーの俺様キャラが被ったり、ホークアイとブラック・ウィドウがいずれも凄腕スパイだったりと、煩雑なことこの上ない。そこにはウルトラ一族に見られる秩序立った上下関係も、歴代仮面ライダーのような先輩後輩の間柄もない。
 だがその個性のぶつかり合いこそが、本作の楽しさの源泉だ。

 さらに、単独主演映画があるアイアンマン、ソー、キャプテン・アメリカ、ハルクと違い、これまで脇役に甘んじてきたホークアイとブラック・ウィドウに関しては、アクションの見せ場だけでなく、秘められた過去にまつわるエピソードを挿入することで、キャラクターを掘り下げて観客に親しみを持たせている。

 これまではゲスト出演の域を出ていなかったS.H.I.E.L.D.長官ニック・フューリーの指揮官ぶりも見どころだ。
 平和の維持が最優先である彼は、敵の攻撃を封じるには抑止力が欠かせないことを知っているし、必要であれば汚いことも厭わない。そのやり口はときに非情にも見えるが、そこまで踏み込んだ彼の行動が本作に深みを与えている。

 その彼が命名した「アベンジャーズ」とは、復讐者という意味である。「復讐」なら『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』に使われた"revenge"という言葉があるけれど、"revenge"と"avenge"ではその意味するところがいささか異なる。
 revenge: 私憤的な恨みをはらす。憎悪感がある。
 avenge: 悪に対する正義の(非合法的)報復との含み。
       ―eプログレッシブ英和中辞典より―

 アベンジャーズは、悪に対して敢然と立ち上がる者たちなのだ。そして彼らの活躍を描く本作は、幾つもの作品が世界を共有し、相互に関連しあうマーベル・シネマティック・ユニバースの集大成となる映画である。
 この複雑な世界を把握すれば映画をより楽しめるという配慮からだろう。『アベンジャーズ』の公式サイトの情報は、近年稀に見るほど充実している。
 特に、『アベンジャーズ』に至る5作品に散りばめられた伏線や、戦いの焦点となる四次元キューブがたどった運命を表にまとめてくれているのはありがたい。こんな情報は本国のサイトにだってないから、日本版サイトの制作者が大いに楽しみながら仕事をしたのだろう。


 ところで、映画のたびに新型が登場するアイアンマンのスーツは、本作で遂にマークVIIになる。
 その脱着シーンを手がけたのは、『トランスフォーマー』のトランスフォーム・シーンで知られる山口圭二氏だ。アメコミヒーローの中でもとりわけアイアンマンは日本の特撮・アニメの影響が濃厚であり、山口氏もトニー・スタークがマークVIIを装着するシーンを『宇宙の騎士テッカマン』で鎖帷子が体を巻いていくところをイメージしながら組み上げたという。
 なるほど、アイアンマンの装着シーンに説得力を感じるのは、私たちが子供のころに刷り込まれた光景だからなのだ。


 さて、本作でのチタウリ軍の地球侵略はアベンジャーズの活躍で阻止されるが、「アベンジャーズに戦いを挑めば死あるのみ」というチタウリからの報告は、あらゆる者の死を願うタイタン人サノスかえって喜ばせてしまう
 この狂ったタイタン人との戦いは、引き続きジョス・ウェドンが監督する『アベンジャーズ2』で描かれることだろう。


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監督・脚本/ジョス・ウェドン  脚本/ザック・ペン
出演/ロバート・ダウニー・Jr クリス・エヴァンス マーク・ラファロ クリス・ヘムズワース スカーレット・ヨハンソン ジェレミー・レナー サミュエル・L・ジャクソン トム・ヒドルストン グウィネス・パルトロー クラーク・グレッグ ステラン・スカルスガルド コビー・スマルダーズ ダミオン・ポワチエ
日本公開/2012年8月14日
ジャンル/[アクション] [SF]
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【theme : アベンジャーズ
【genre : 映画

tag : ジョス・ウェドン ロバート・ダウニー・Jr クリス・エヴァンス マーク・ラファロ クリス・ヘムズワース スカーレット・ヨハンソン ジェレミー・レナー サミュエル・L・ジャクソン トム・ヒドルストン グウィネス・パルトロー

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