『先生を流産させる会』 埋められたい願い

 「先生を流産させる会」という、これ以上ないほどの悪意を込めた会を結成した中学生たち。彼らの標的にされた女性教師。その同僚や上司の保身、親たちの支配欲。さらに傍観しながら笑っている大勢の生徒たち。
 この題名は衝撃的だ。「先生」からは教育現場が、「流産」からは生命倫理が、「させる会」からは同調圧力に満ちた社会が、異臭を放ちながら私たちに迫ってくる。

 何より衝撃なのは、「先生を流産させる会」が実在したことだ。
 パンフレット収録のインタビューによれば、内藤監督もその名称に衝撃を受けたという。
---
「先生を殺す会」より「流産させる会」のほうがはるかにおぞましい印象がある。悪意のあり方として、人間の最も否定されたくない部分を否定されたようなニュアンスを感じる。だからこそ、この題材を描くことで僕たちが肯定したいものを逆説的に描けるだろう、と思いました。
---

 映画『『先生を流産させる会』の上映時間は62分。一般の長編映画に比べれば短いかもしれない。
 しかし、目を覆い、耳を塞ぎたくなるようなこの映画は、短いなんて感じないだろう。上映が終わり、場内が明るくなったとき、観客は映画から受けたものの重さにうな垂れると同時に、ようやく解放されたことに安堵するはずだ。

 この強烈な映画を撮った内藤瑛亮監督とは、さぞかしアクの強い人物だろうと思ったら、上映後に登壇したのはさらりとした好青年だった。
 2012年7月20日、オーディトリウム渋谷での夜の上映の最終日、内藤監督は満場の客席に向かって「埋める」ことについて語ってくれた。


 内藤瑛亮監督は愛知県の三河地方のご出身だそうである。
 その地域では古くから土葬が行われており、監督は穴掘り当番になった祖父に連れられて、墓堀の現場を見ていたという。
 墓堀は死者の親族がやってはならないため、当番になった祖父があちこちの家の墓を掘る。広い土地に、家ごとの墓を掘る場所が決まっており、掘っていると土の中から骨が出てくることもある。
 この習慣は今ではあまり行われず、火葬が一般的になってきたそうだ。親族が穴を掘れないということは、必ず他の家に墓堀を頼まなくてはならないのだが、ムラの中の結びつきが希薄になるとこのような頼みごとは難しいのだ。

 けれども、内藤監督の祖父は、自分が死んだら土葬がいいと云うそうだ。
 土葬では、掘った穴に棺桶を入れ、掘り出した土を上からかける。するととうぜん棺桶の分だけ土がこんもり盛り上がる。
 やがて遺体が腐敗する頃には棺桶も腐り、盛り上がっていた土がストンと落ちる。それは次の遺体を埋められる合図なのだ。
 こうして墓には、その家の人が死ぬたびに重なるように埋められていく。
 土葬にすれば、死んでも家族と一緒にいられる。だから祖父は死んだら埋めて欲しいのだという。

 映画『先生を流産させる会』でも埋めるシーンは象徴的だ。
 土葬の際は親族が掘ってはいけない。すなわち土葬するには人の結びつきが必要だということを、監督からお聞きできたのは貴重だった。

 そしてもう一つ、内藤監督は文鳥と猫の思い出も語ってくれた。
 文鳥が死んだときに「あんたのせいだよ」と叱った母。雨の中、猫の死骸を手掴みで運んで埋める母。その話はとても映像的で、いずれ監督が映画の中で見せてくれることを期待したい。


 さて、本作は実話に基づいているものの、事実をそのままなぞったわけではない。
 大きな違いは、会を結成した中学生たちを男子ではなく女子に設定したことだろう。

 この点について、内藤監督は先のインタビューで次のように語っている。
---
先生が妊娠していることそのものに嫌悪を感じるキャラクターでないと、自分が追求したいテーマは成立しないと思ったんです。(略)中学生の頃に同級生の女子が「そういう行為(セックス)で自分が生まれてきたってイヤだよね」と話しているのを聞いたことがあって(略)ギョッとしたんですね。
---

 映画では会のメンバーを女子に変更したことで、彼らもやがて妊娠や流産をするかもしれない、先生と性を共有する存在になった。
 ここから映画はそのエキセントリックな題材にもかかわらず、確かな物語性を持ちはじめる。
 内藤監督はこう続ける。
---
しかもそれだけ嫌がっていた女子たちが数年後には普通に彼氏を作って肉体関係もあると言う。体が少女から大人へと変化しつつあるときに、性的なものを拒みたい時期があると思うのですが、その葛藤を描きたかったんです。
---

 そして設定を女子生徒に変えたことは、映画にほのかな救いをももたらしている。
 なぜなら少女から大人への変化は、永遠に続くものではないからだ。内藤監督の同級生が数年後には彼氏を作っていたように、映画の中の少女たちもいずれ変化を完了し、妊娠したりするだろう。

 だから、この映画はそのおぞましさにもかかわらず、現実より穏やかなのかもしれない。
 現実に女性教師を攻撃したのは男子であり、彼らは永遠に妊娠しないし、流産のおそれに直面することもない。

 男子の抱いた強い暴力性と悪意には、いつかどこかで終止符が打たれるのだろうか。
 私たちはそれに終止符を打てるのだろうか。


・トーク内容をWebに公表することで関係者の方に不都合がございましたら、ご連絡ください。


先生を流産させる会 [Blu-ray]先生を流産させる会』  [さ行]
監督・制作・脚本/内藤瑛亮
脚本協力/佐野真規、松久育紀、渡辺あい
出演/宮田亜紀 小林香織 高良弥夢 竹森菜々瀬 相場涼乃 室賀砂和希 大沼百合子
日本公開/2012年5月26日
ジャンル/[ドラマ] [青春] [サスペンス]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

【theme : 日本映画
【genre : 映画

tag : 内藤瑛亮 宮田亜紀 小林香織 高良弥夢 竹森菜々瀬 相場涼乃 室賀砂和希 大沼百合子

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示