『南極料理人』を観るつらさ
テアトル新宿は全席指定なのに、『南極料理人』は立ち見が出る盛況だった。
同じくテアトル新宿で観た『インスタント沼』も混んでいた。
映画ファンの嗅覚はたいしたものだ。
『南極料理人』は、8人の隊員の1年半にわたる南極での暮らしを描いたものである。
それだけ。
長いあいだ8人だけで生活していれば、さまざまな問題が出てくる。
ルールを守らないヤツ、奇行に走るヤツ、家族から見放されるヤツ。
でも本作はそれぞれの問題を深く掘り下げたりしない。
規律の見直しをしたり、メンタルヘルスの問題として取り組んだり、人事的な配慮をしたり、という展開にはならない。
ちょっと注意することや、軽く謝ったりはする。
それだけ。
なぜか。
大人だからだ。
人間だれしも、ちょっとくらい変なところやルーズなところや悩みを抱えている。
でも正面きって取り上げたり、大騒ぎはしないのだ。
我々は日々そうしている。
それで何となく平穏にやり過ごしている。
南極という厳しい環境では、日々平穏に過ごすことこそ大事だ。
日本での日常も同じこと。
『南極料理人』では、日々の問題について掘り下げずにやり過ごす姿が描かれており、我々はそこに共感と安心を覚える。
『インスタント沼』が豪快に笑わせながらも最後はちょいと説教っぽくなってしまうのに対して、本作は淡々と日常生活が続く。
私は『インスタント沼』を観て「すべて笑いのネタにして終われば良かったのに」と思っていたので、『南極料理人』にいたく共感した。
興味深いのは、たった8人の隊なのに、日々の作業がきっちりある人と、これといって目先の作業がない人がいること。
車両担当なんて、車両を出さない日はやることがない。
でも、1年半の生活のどこかでは必要になるかも知れない。
だから、いる。
作業の軽重は関係なく、8人の歯車がそれぞれきちんと回ってはじめて共同体が成立するのだ。
作中で明示的には語られていないが、8人には重要なルールがある。
みんな揃って、一緒に食事すること。
食事の席にいない人間が問題を起こす展開には、うなずく人も多いだろう。
調理担当の西村は、父親が単身赴任で母の元気がないという娘に、こう助言する。
「今度は、キミがお母さんにご飯を作ってあげたらどうかな。」
「…なんで?」
「だって、おいしいものを食べると元気になるでしょ。」
娘のつくる料理がおいしいかどうかは判らない。
しかし母にとっては、娘がつくってくれた料理を一緒に食べるのは何よりもおいしいことだろう。
一緒に食べることが大切だとこの映画は云っている。
とはいえ、南極越冬隊のみならず、極寒の網走で撮影に臨んだスタッフ、キャストもたいへんだったろう。
医師を演じた豊原功補さんは語る。
---
どんなに離れていても、夫婦や親子の間には断ちがたい愛情があり、自分を奮い立たせる力にもなります。
僕自身、映画などの撮影が始まると、小学生の息子とは、なかなか一緒に過ごせませんが、絆(きずな)を信じているので、不安はありません。
---
-讀賣新聞 2009年8月18日夕刊-
ところで、私が観たのは18時55分開始の回。
映画は全編、食事しているシーンと食事を作っているシーンと食事について話し合っているシーンばかり。
空きっ腹にはつらすぎる。
早く帰って家族と一緒にご飯を食べよう!
『南極料理人』 [な行]
監督・脚本/沖田修一 音楽/阿部義晴
出演/堺雅人(調理担当) 生瀬勝久(雪氷学者) きたろう(気象学者) 高良健吾(雪氷サポート) 豊原功補(医療担当) 古舘寛治(車両担当) 小浜正寛(大気学者) 黒田大輔(通信担当)
日本公開/2009年8月8日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ]
http://bookmarks.yahoo.co.jp/bookmarklet/showpopup?t='+encodeURIComponent(document.title)+'&u='+encodeURIComponent(location.href)+'&ei=UTF-8','_blank','width=550,height=480,left=100,top=50,scrollbars=1,resizable=1',0);">
同じくテアトル新宿で観た『インスタント沼』も混んでいた。
映画ファンの嗅覚はたいしたものだ。
『南極料理人』は、8人の隊員の1年半にわたる南極での暮らしを描いたものである。
それだけ。
長いあいだ8人だけで生活していれば、さまざまな問題が出てくる。
ルールを守らないヤツ、奇行に走るヤツ、家族から見放されるヤツ。
でも本作はそれぞれの問題を深く掘り下げたりしない。
規律の見直しをしたり、メンタルヘルスの問題として取り組んだり、人事的な配慮をしたり、という展開にはならない。
ちょっと注意することや、軽く謝ったりはする。
それだけ。
なぜか。
大人だからだ。
人間だれしも、ちょっとくらい変なところやルーズなところや悩みを抱えている。
でも正面きって取り上げたり、大騒ぎはしないのだ。
我々は日々そうしている。
それで何となく平穏にやり過ごしている。
南極という厳しい環境では、日々平穏に過ごすことこそ大事だ。
日本での日常も同じこと。
『南極料理人』では、日々の問題について掘り下げずにやり過ごす姿が描かれており、我々はそこに共感と安心を覚える。
『インスタント沼』が豪快に笑わせながらも最後はちょいと説教っぽくなってしまうのに対して、本作は淡々と日常生活が続く。
私は『インスタント沼』を観て「すべて笑いのネタにして終われば良かったのに」と思っていたので、『南極料理人』にいたく共感した。
興味深いのは、たった8人の隊なのに、日々の作業がきっちりある人と、これといって目先の作業がない人がいること。
車両担当なんて、車両を出さない日はやることがない。
でも、1年半の生活のどこかでは必要になるかも知れない。
だから、いる。
作業の軽重は関係なく、8人の歯車がそれぞれきちんと回ってはじめて共同体が成立するのだ。
作中で明示的には語られていないが、8人には重要なルールがある。
みんな揃って、一緒に食事すること。
食事の席にいない人間が問題を起こす展開には、うなずく人も多いだろう。
調理担当の西村は、父親が単身赴任で母の元気がないという娘に、こう助言する。
「今度は、キミがお母さんにご飯を作ってあげたらどうかな。」
「…なんで?」
「だって、おいしいものを食べると元気になるでしょ。」
娘のつくる料理がおいしいかどうかは判らない。
しかし母にとっては、娘がつくってくれた料理を一緒に食べるのは何よりもおいしいことだろう。
一緒に食べることが大切だとこの映画は云っている。
とはいえ、南極越冬隊のみならず、極寒の網走で撮影に臨んだスタッフ、キャストもたいへんだったろう。
医師を演じた豊原功補さんは語る。
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どんなに離れていても、夫婦や親子の間には断ちがたい愛情があり、自分を奮い立たせる力にもなります。
僕自身、映画などの撮影が始まると、小学生の息子とは、なかなか一緒に過ごせませんが、絆(きずな)を信じているので、不安はありません。
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-讀賣新聞 2009年8月18日夕刊-
ところで、私が観たのは18時55分開始の回。
映画は全編、食事しているシーンと食事を作っているシーンと食事について話し合っているシーンばかり。
空きっ腹にはつらすぎる。
早く帰って家族と一緒にご飯を食べよう!
![南極料理人 [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51WIGvtoxUL._SL160_.jpg)
監督・脚本/沖田修一 音楽/阿部義晴
出演/堺雅人(調理担当) 生瀬勝久(雪氷学者) きたろう(気象学者) 高良健吾(雪氷サポート) 豊原功補(医療担当) 古舘寛治(車両担当) 小浜正寛(大気学者) 黒田大輔(通信担当)
日本公開/2009年8月8日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ]

