『ファミリー・ツリー』 ささいな違いが大違い

 『マイレージ、マイライフ』と同様なことが、またしても起きている。

 『マイレージ、マイライフ』の公開に際して興味深いと思ったのは、日米のポスターの違いだった。
 日本のポスターは、主要な登場人物を演じるジョージ・クルーニーとヴェラ・ファーミガとアナ・ケンドリックが空港で座っている写真が使われていた。この構図は公式サイトでも見ることができる。ジョージ・クルーニーはやや横向き、アナ・ケンドリックは斜め上を向いているが、三人とも顔がはっきり見て取れる。
 一方、米国のポスターは、やはり空港にいる三人の姿ではあるものの、逆光になって三人とも顔が見えない。主役のジョージ・クルーニーに至っては、背を向けてるので顔立ちすら判らない。

 日本では出演者が誰であるかを明確にして、役者の顔で売っているのに対し、米国ではジョージ・クルーニーの名前こそ書かれているものの、絵柄には出演者のことが現れず、それより内容の奥深さを想像させるものにしている。
 顔を重視する日本と、内容を重視する米国との違いである。

 これはマンガだともっと判りやすい。
 日本のマンガの表紙には、主人公の顔のアップや、正面を向いた立ち姿や座った姿が圧倒的に多い。本を売る上でもっとも重要な表紙に、キャラクターそのもの、顔かたちそのものが使われている。
 しかしアメコミの表紙で、ただ主人公が突っ立っていたり、ニッコリしているものはまずない。そこでは主人公が敵と戦っていたり、危機に陥ったりしている。アメコミの表紙は、たった1枚の絵でもキャラクターではなくシチュエーションを描いているのだ。


ファミリー・ツリー オリジナル・サウンドトラック 『ファミリー・ツリー』でも、日米のポスターの些細な違いが決定的な差を生じさせているのが面白い。
 日本のポスターは、ジョージ・クルーニーの横顔を大きく描いたものだ。その背後には浜辺が広がり、遠くに二人の少女の姿がある。そして「ハワイに暮らしていても人生は楽じゃない」という惹句が書き添えられている。
 これにより、主人公がジョージ・クルーニーであること、少女たちが登場すること、海のきれいなハワイが舞台であることが判る。

 サウンドトラックのCDジャケットも同じ絵なので、参考までに掲げておこう。上が日本のポスターに使われた絵、下が米国のポスターに使われた絵である。

 一見して判るように、ほとんど同じ構図なのだが、ジョージ・クルーニーの向きがわずかに違う。日本版では横を向いていたジョージ・クルーニーが、米国版では斜め後ろを向いてしまい、顔立ちがよく判らない。
Descendants そして主役の顔を犠牲にすることで明確になったのは、少女たちとの関係である。日本版では背景でしかなかった少女たちを、米国版のジョージ・クルーニーはじっと見つめている。そこにかぶさる原題「The Descendants(子孫)」の文字。

 これにより、少女たちがジョージ・クルーニー演じる主人公の娘であること、彼は娘たちをはじめとした将来世代のことを考えて、もの思いにふけっていることが判る。
 日本のポスターがジョージ・クルーニーという役者の顔で売っているのに対し、米国のポスターは、子供たちのことを考える男というシチュエーションを表現しているのだ。
 人物を配置する際のわずかな角度の違いから、まったく異なる意味が生じているのである。


 そしてもちろん、映画の本質を表しているのは米国版のポスターだ。
 本作の主人公キングは、カメハメハ大王の子孫である。彼は今、二つの大事なものを失おうとしている。一つは事故で意識の戻らない妻、もう一つは先祖伝来の原野だ。土地の所有を制限する法律のため、風光明媚なその原野を手放さざるを得ないのだ。開発業者に土地を渡せば、そこにはリゾート施設等が林立するだろう。
 これまで彼は、どちらもほったらかしにしていた。妻とは、仕事にかまけて会話すらなかった。また、土地の賃貸等で暮らす従兄弟たちと違い、彼は弁護士業で生計を立ててきたから、土地の所有は生活に関係なかった。

 ところが彼は妻の浮気を知って、妻と死別するだけでなく、彼女の心まで失っていたことに苦悩する。土地を売れば莫大な金を手に入れられるが、もはや妻に贅沢させてやることもできない。
 残される子供たちや、将来の子孫のために、彼はどうすれば良いのか。

 そんな彼の悩みと行動を、本作は時にコミカルに、特にシニカルに描き出す。
 本作を通じて彼が身に沁みるのは、努力しなければ大切なものを維持できないということだ。ほったらかしにしといて、旨くいくわけがない。
 彼は、これまでそれに気づかなかった。

 ひるがえって私たちは、今の暮らしを維持するために必要なことに気づいているだろうか。
 目の前の子供たちのために、将来の子孫のために。


ファミリー・ツリー(ジョージ・クルーニー主演、第69回ゴールデングローブ賞受賞) [Blu-ray]ファミリー・ツリー』  [は行]
監督・制作・脚本/アレクサンダー・ペイン  原作/カウイ・ハート・ヘミングス
脚本/ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ
出演/ジョージ・クルーニー シャイリーン・ウッドリー アマラ・ミラー ニック・クラウス ボー・ブリッジス ロバート・フォスター ジュディ・グリア マシュー・リラード メアリー・バードソング
日本公開/2012年5月18日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

tag : アレクサンダー・ペイン ジョージ・クルーニー シャイリーン・ウッドリー アマラ・ミラー ニック・クラウス ボー・ブリッジス ロバート・フォスター ジュディ・グリア マシュー・リラード メアリー・バードソング

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