『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 いま日本で観るべき理由

 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を2012年2月下旬に公開するかどうか、配給会社は悩んだことだろう。まだ公開すべきではないという意見、今だからこそ公開すべきという意見、いずれもあったはずだ。
 本作を延期やお蔵入りにせず、最終的に公開に踏み切った配給会社には感謝したい。これはいつだって観る価値のある映画だ。

 本作は、2001年9月11日から1年を経てもなお、その後遺症に苦しむ遺族たちの物語である。
 あの日、世界貿易センタービルにいた1700人の命が失われた。事件全体では3000人もの人々が亡くなった。主人公の少年は大好きな父を失った。その悲しみと恐怖は少年の心に巣食い、母との関係も崩壊させた。

 何の前触れもなく一瞬にして多くの命が失われる恐怖は、少年を捉えて離さない。
 そのため、少年は公共交通機関に乗ることができない。テロの標的になるからだ。
 ガスマスクも欠かせない。空気中の毒物を吸い込むからだ。
 細い橋は渡れない。橋が崩れて投げ出されるからだ。
 怖くて怖くて、街を歩くことができない!

 日本でも、1年前に大きな災厄があった。
 2011年3月11日にマグニチュード9の地震と津波が発生し、多くの命が失われた。地震以降は不安感にさいなまれる人も多く、病院の心療内科は予約でいっぱいになった。

 主人公の少年が、地下鉄に乗ろうにも地下へ降りられないことや、ガスマスクを付けて歩いているのは、いかにも滑稽だ。はたから見れば奇行でしかない。
 でも私たちはそれを笑えない。
 2011年の日本ではガイガーカウンターが売れ、公園で遊ぶのにガイガーカウンターを持参する人がいた。後年の人はそれを奇行と思うだろうが、当時は真面目にやっている人がいたのだ。

 私たちは、ほとんどのリスクがゼロにはならないことを知っている。地震が起こらない、津波が起こらない、飛行機が突っ込まないと100パーセント断言できる人はいない。
 しかし同時に、毎日欠かさず起こるわけでもないことを知っている。テレビ番組で隕石が落ちた家を紹介することがあるけれど、すべての家に毎日々々隕石が降り注ぐわけではない。隕石を避けるために1日中空を見上げている必要はないのだ。

 恐怖に囚われた少年を変えるのは、大人の行動だ。
 本作では、橋の上で足がすくんでいる少年の目の前で、大人が橋を渡って見せる。
 少年の顔を覆ったガスマスクを取り、呼吸できることに気づかせる。
 じっくりと話を聞いてやる。
 うるさいことを云うばかりでなく、ありえないほど近くにいてあげる。
 ――恐怖を感じている人に「怖くない」と云っても逆効果だそうだから、子供に接する大人が態度で示すしかないのだろう。


 そして本作は、私たちに大切なことを考えさせる。
 ・愛する人を失った悲しみに囚われ続けないこと
 ・恐怖を克服すること
 ・生きている人ときちんと関係を築くこと

 これらは『カールじいさんの空飛ぶ家』をはじめとする近年の米国映画の主要なテーマである。2001年のアメリカ同時多発テロ事件から時を経て、ようやく新しい生活に取り組むことを考えられるようになったのだ。

 それでも、比喩的な物語ではなく、ストレートにテロの遺族が主人公の映画を作れるほど事件から距離を置き、素材として扱えるようになるまでに10年を要した。
 2011年の東日本大震災を映画にできるほど震災から距離を置き、素材として扱えるようになるには、どれだけの時を要するだろうか。


ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [DVD]ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』  [ま行]
監督/スティーヴン・ダルドリー  原作/ジョナサン・サフラン・フォア
出演/トム・ハンクス サンドラ・ブロック トーマス・ホーン マックス・フォン・シドー ヴァイオラ・デイヴィス ジョン・グッドマン ジェフリー・ライト ゾー・コードウェル
日本公開/2012年2月18日
ジャンル/[ドラマ]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

tag : スティーヴン・ダルドリー トム・ハンクス サンドラ・ブロック トーマス・ホーン マックス・フォン・シドー ヴァイオラ・デイヴィス ジョン・グッドマン ジェフリー・ライト ゾー・コードウェル

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