『ロボジー』 成長の鍵はコレだ!

 『ロボジー』で主役を務める五十嵐信次郎って誰?そんな役者さんいたっけ?
 ……と思ったら、『時空戦士スピルバン』(1986年)のギローチン皇帝や『世界忍者戦ジライヤ』(1988年)の黒猫こと闇忍デビルキャッツで特撮ファンにもお馴染みのミッキー・カーチスさんではないか。

 というわけで、本作の見どころは73歳にしてロボット「ニュー潮風」の被り物に挑戦する五十嵐信次郎さんの愉快な演技だが、ロカビリーで鳴らした彼らしく、「五十嵐信次郎とシルバー人材センター」というバンドで主題歌も披露している。
 これがまた傑作で、本作の音楽も担当しているキーボードの天才・ミッキー吉野氏や、ゴダイゴのギタリスト浅野孝已氏らが結集し、あの名曲『Mr. Roboto』を聴かせてくれる。

 『Mr. Roboto』は米国のロックバンド・スティクスが1983年に大ヒットさせた曲だ。英語を交えた日本の曲は多いけれど、日本語を交えた米国の曲は珍しいのではないか。
 その詞はこんな風にはじまる。
 
  どうもありがとうミスターロボット
  また会う日まで
  どうもありがとうミスターロボット
  秘密を知りたい

 1983年といえば、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が日本で70万部を超えるベストセラーになった余韻も覚めやらず、日本車が米国市場を席巻し、日米自動車摩擦が激しかったころである。米国ではその前年に、日本人に間違えられた中国系技術者が自動車工場を解雇された白人労働者に撲殺される事件が起きるほど、日本製品の流入が敵視されていた。この後、80年代後半には半導体でも摩擦が生じ、SF映画で未来社会を牛耳るのは日系企業ばかりになった。

 だからこそ当時スティクスは、日本製の部品からなるロボットの歌をうたったわけだ。
 なのに、その曲が、実はロボットの開発ができていない騒動を描いた『ロボジー』の主題歌になるんだから、何ともおかしい。


 この懐かしい名曲を、五十嵐信次郎さんがかくしゃくとして歌い上げるエンドクレジットを観ていると、しみじみとした感慨が湧いてくる。
 怒涛のような感動じゃないのは、本作の構成が変則的だからだ。
 本作はロボットの開発に勤しむ若者たちを描きながら、その目指すところは必ずしも大会やコンテストではない。矢口史靖監督は過去のヒット作『ウォーターボーイズ』のような晴れの舞台を用意していないので、本作には判りやすい山場がない。

 では何で盛り上がるのかというと、ロボットを巡る学生たちの熱い討議なのである。
 今どきの日本の大学生が技術屋の講演に詰めかけて、『ハーバード白熱教室』ばりに活発な議論を戦わせるものなのかは判らない。
 しかし、ロボットのメカニズムを考察し、激論を重ねて技術的困難を解決していく彼らの姿は、観客の胸を熱くさせる。


 思えば、80年代はなぜあれほどまでに日本製品が売れまくったのだろうか。
 日本人が優秀だったのか?
 その要因はいろいろあろうが、私見を云わせてもらえば、当時まともに工業製品の開発・製造に取り組んでいた国は日本しかなかったのだと思う。
 社会主義国では計画経済の下、創意工夫して優れた製品を生み出そうとする自由(=自由競争)がなかった。開発途上国は政情不安や戦乱で産業どころではない。西側先進国と云われる国々も、社会が麻痺するようなストライキを繰り返したり、品質そっちのけの大味な製品作りだったりと、欠点だらけの状態だった。
 そんな中で、日本は治安が良く、企業は製品作りに邁進し、現場もカイゼンにいそしんだ。相対的に日本製品の欠点は少なかったのだ。

 しかし、各国だっていつまでも自分で自分の首を絞め続けてはいない。いくつもの国が政情不安や戦乱を克服したし、米国等は制約条件の理論(TOC)やシックス・シグマによってまともな製品開発に取り組んだ。
 人間の能力に大した差はないから、各国がまともに取り組めば、まともな製品が生み出される。
 かつて日本は技術立国を標榜したが、どこの国でもそれは可能なのだ。

 とはいえ、ことロボットに関していえば、日本の取り組みは格別かもしれない。他国もロボットを開発しているが、二足歩行や人間そっくりであることへのこだわりは、日本人がもっとも強いのではないだろうか。
 自分に代わって困難に当たってくれる他者を待望するのは、近世以来の日本人の伝統的な心理であろうと思うが、今回そこにはあまり触れずにおこう。
 とにかく、米国映画の『リアル・スティール』や『サロゲート』でロボット開発の本場として日本が登場することからも判るように、日本人は自他共に認めるロボット好きなのだ。
 科学技術を進展させることにネガティブな想いを抱く人もいる昨今、誰もが科学技術の夢や楽しさを語れる分野は、宇宙開発とロボットくらいなのかもしれない。

 だからこそ、本作に登場する学生たちが、ホワイトボードいっぱいに自分の考えを書き連ね、みんなでロボットのあり方を検討する熱気は、映画の観客にも共感しやすい。
 本作が偽ロボットの話であることを忘れてしまいそうな盛り上がりである。


 そして、ここに老人を絡めてくるのが本作の面白いところだ。
 主人公鈴木重光73歳は、勤め先を退職し、毎日々々やることがない。同年齢の老人たちは、老人会の芝居や踊りに取り組んでいるけれど、鈴木翁はそんなものじゃ満たされない。
 これは日本が直面している重要な問題だ。
 白川方明氏によれば、ここ10年の日本経済の落ち込みは急速な高齢化の影響が大きいという。労働人口が激減したために、実質GDP成長率の低下や財政悪化を招いたのだ。
 なるほど、日本の65歳以上人口の15~64歳人口に対する比率は2010年時点で35%に達し、米、英、伊、仏、独と比べても断然高い。毎日時間を持て余したり、ときどき芝居や踊りをするだけの人が激増すれば、経済が落ち込むのはとうぜんだろう。
 また映画では、老人が時間を持て余す一方、学生たちは就活に追われている。ここには世代間格差の問題もあるのだ。

 そこで本作が指摘するのは、ロボットがやれば驚かれることでも、老人には普通にできるという点だ。
 若手技術者は彼らなりに熱心だし頑張っているが、失敗もする。他方では時間を持て余す老人がいる。本作では両者の組み合わせで難局を乗り切るのだが、両者が補完関係にあるのは映画の世界にとどまらないだろう。ひらたくいえば、ロボットの活躍は待ち遠しいものの、まだ二足歩行がやっとのロボットより、老人の方が役に立つということだ。
 この映画が描いたのはある種のインチキだ。しかし、そこに日本が成長する鍵があるように思えるのだが、いかがだろうか。

 スティクスが歌うミスターロボットは、部品こそ日本製だが頭脳はIBM製品だった。
 けれども本作のニュー潮風なら、頭脳も含めて立派な日本生まれである。


ロボジー<Blu-ray>スペシャル・エディション(特典Blu-ray付2枚組)ロボジー』  [ら行]
監督・脚本/矢口史靖  脚本協力/矢口純子
音楽/ミッキー吉野
出演/五十嵐信次郎 (ミッキー・カーチス) 吉高由里子 濱田岳 川合正悟 川島潤哉 田畑智子 和久井映見 小野武彦
日本公開/2011年1月14日
ジャンル/[コメディ]
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