『アーサー・クリスマスの大冒険』 大人がプレゼントすべきもの

 ゲルマン神話の主神オーディンが起源とも云われるファーザー・クリスマスが、ローマ帝国の司教である聖ニコラオス(オランダ語ではSinterklaas(シンタクラース))と同化されるようになったのは、19世紀のことだという。
 そのためか、オランダのシンタクラースはスペインから船や馬を乗り継いでやってきたのに、現代のサンタクロースは北極に住んでいたり、ソリで空を飛んだりと、神がかった存在になっている。
 とはいえ、英国では今でもファーザー・クリスマスと呼ぶ方が主流なのだろうか。大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』でも、英軍将校に「ファーザー・クリスマス」と呼び掛けるのが印象的であった。

 そしてファーザー・クリスマスといえば、レイモンド・ブリッグズ原作のアニメ『ファーザー・クリスマス』をご覧になった方も多いだろう。1991年制作のこの英国作品は、世界中の子供たちにプレゼントを配り終えたはずのファーザー・クリスマスが、まだプレゼントが残っていることに気づいて大あわてする話だ。
 そのクリスマスシーズンに親子で見るのにうってつけであろう『ファーザー・クリスマス』――原題「Father Christmas」に、少しもじった「Arthur Christmas」というタイトルで挑んだのが『アーサー・クリスマスの大冒険』だ。

 なるほど、プレゼントが残っていた。でもたった1個だ。20億人の子供のうち、19億9999万9999人には無事プレゼントを届けられたのだから、1個ぐらいどうでもいいじゃないか――もしもファーザー・クリスマスがそう考えてしまったら。あわてて届けようなんてしなかったら。
 『アーサー・クリスマスの大冒険』は、そんなファーザー・クリスマスに代わり、息子のアーサーが大活躍するアニメだ。
 制作は英国のアードマン・アニメーションズと、米国のソニー・ピクチャーズ アニメーション。てっきり子供たちがソニー製品をプレゼントされて喜ぶ映画かと思ったら、そんなえげつないことはしていなかった。もっとも、ソニーがそんなことをしなくても、子供がプレイステーションをもらって喜ぶ映画は作られている。ソニーにとってはありがたいことだろう。


 『アーサー・クリスマスの大冒険』で目をみはるのは、なんといっても映画館の大スクリーンを意識した壮麗な映像である。
 水陸両用の巨大万能艇S-1と、北極の広大な指令室の迫力は圧巻だ。その緻密な描き込みは、CGならではだろう。
 絵の見せ方もイカしている。
 スクリーンに1頭のアザラシが登場するや、アザラシのいる水面が盛り上がる。アザラシの下から何やら巨大なものが上昇してくる。カメラがドンドン引いて、アザラシが小さくて見えないほどになると、アザラシの下から出てきた巨大なものがもっと大きなものの一部でしかないことが判る。さらにカメラが引いて水中から赤いものが全貌を表す。大迫力のS-1登場シーンである。
 このシーンといい、いっせいにプレゼントを届ける冒頭のスピード感といい、本作はワクワクする映像に満ちている。

 ところが、この映画はあまり客の入りが良くないようで、私が足を運んだ映画館では公開されて間もないのに上映回数が1日1回に減っていた。
 その理由は判らないでもない。
 本作の主なターゲットは間違いなく親子連れなのに、親子で観るには必ずしも適してはいないのだ。
 それはクリスマス一家の人物造形にある。
 主人公アーサー・クリスマスはいいヤツだ。彼はいい。たったひとつ残ってしまったプレゼントを届けるために頑張る姿は、共感できなくもない(たとえ残ってしまった原因が彼にあろうとも)。
 しかし、アーサーが頑張るシチュエーションにするには、アーサーを除く人たちはプレゼントを届けようとしない設定が必要だ。
 そのために、サンタクロースはプレゼントを届けるよりもベッドで寝たがる身勝手な人物とされた。
 次期サンタと目されるアーサーの兄も、たかが1個の届け忘れなんてどうでもいいと考える人物にされた。
 そして元サンタの祖父も、子供のことより自分の見栄を優先させる人物になった。

 次男坊のアーサーが奮闘する物語なんだから、他の人物がプレゼントを軽んじる設定にしたのは判る。
 判るのだが、こんなサンタクロースたちの姿を、親は子供に見せたいだろうか。
 子供たちが見たいサンタクロースは、もっと優しくて、届け忘れがあろうものなら大汗かいて駆け付けてくれる人物ではないだろうか。
 本作の提示するサンタクロース像では、本来の客層である親子連れが受け入れにくいのではなかろうか。

 では、本作に足を運ぶ価値がないかといえば、そうではない。
 本作の見どころは、登場人物の気持ちの変化である。
 何をやってもダメだと思っていたアーサーが、頑張ってみようとする過程。
 プレゼントだけではなく子供に夢を運んでいたはずのサンタクロースが、いつしかそれを忘れていた。そのことに気づいていく過程。
 作業効率ばかりを重視して、子供たちの笑顔なんて考えてもみなかった兄が、そもそも何のためにプレゼントを届けるのかを考えるようになる過程。
 そして、自分の居場所を奪われたように感じていた祖父が、自分を犠牲にして後進に道を譲るようになる過程。
 それは、親が子供のために見せるものではない。親の世代が自分を振り返るためにこそ見るべきものだ。

 本作は、これまでの年老いたサンタクロース像を粉々に打ち砕き、若者に未来への希望を託すことに重きを置く。
 子供への1番のプレゼントは、子供の未来を信じることなのだ。


アーサー・クリスマスの大冒険 IN 3D クリスマス・エディション(初回生産限定) [Blu-ray]アーサー・クリスマスの大冒険』  [あ行]
監督・脚本/サラ・スミス  脚本/ピーター・ベイナム
出演/ジェームズ・マカヴォイ ヒュー・ローリー ビル・ナイ ジム・ブロードベント イメルダ・スタウントン アシュレー・ジェンセン
日本語吹替版の出演/ウエンツ瑛士 大塚芳忠 緒方賢一 石田圭祐 小宮和枝 瑚海みどり 浪川大輔 佐々木りお
日本公開/2011年11月23日
ジャンル/[ファンタジー] [コメディ] [ファミリー]
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【genre : 映画

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