『リアル・スティール』 共感を集める悲しい理由

 【ネタバレ注意】

 面白い映画を作りたい。多くの映画制作者がそう思っているだろう。
 面白くするにはこうすべき、という鉄則はあるものの、それを踏襲したから必ず面白くなるとは限らない。
 しかし『リアル・スティール』は、面白くするための要素をふんだんに盛り込み、ちゃんと面白い映画になった幸福な例だ。

 本作に登場するロボットは、その名もATOM。スパーリング用に作られた第二世代の旧式ロボットである。ちなみに第一世代のロボットは、ロボットがボクシングをする玩具『Rock'em Sock'em Robot』に瓜二つという洒落になっている。
 『ロッキー』シリーズへのオマージュも詰まっており、本作との類似は多々指摘されている
 逆に『ロッキー』シリーズとの大きな違いは、ヒュー・ジャックマン演じる主人公チャーリーがボクシングをしないことだ。ボクシングをするのはロボット。チャーリーはリモコンで操るだけである。
 本来ロボットとは自動機械のことだから、人間が操ったらロボットじゃないのだが、日本の"ロボット"アニメのおかげで、人間が操縦する"ロボット"は世界に定着した。

 そしてこれが、他のボクシング映画と比べた大きな利点である。
 通常、ボクサーたる主人公が強敵に挑むには、厳しい訓練と相応の時間を要する。ところが本作ではボクシングそのものは「不思議なロボット」が担ってくれるので、訓練やら減量やらの描写が不要だ。その分を親子の情愛や男女関係に割けるわけだ。だから短い期間で人間関係が劇的に変化し、映画のテンポがスピーディーになる。

 さらに『リアル・スティール』で物語にダイナミズムを与えているのが、チャーリーとATOMの関係の変化である。
 映画の冒頭、ボクサーロボットはただの道具に過ぎない。壊れたら買い換える。部品は売っ払う。それはカーアクションで大破するクルマのようなもので、ロボットへの愛着なんて感じられない。ロボットアニメを愛する我々にとっては、むごく感じる場面である。
 ところが、映画の途中にATOMが一人でポツンとしているショットを差し挟むことで、あたかもATOMが人格を備えた仲間のように印象が変わる。
 そして最後はチャーリーとATOMが一体になって最強の敵と相まみえる。
 ことここに至って、観客が主人公チャーリーを応援する気持ちと、リング上のATOMを応援する気持ちは一つになる。劇中で語られる親子の絆も、男女のロマンスも、すべての要素が一つになる。
 実に見事な盛り上がりだ。


 そもそもボクシングは映画向きの題材といえよう。
 うらぶれた男が誇りをかけてリングに立ち、ボロボロになりながら戦い抜く。――そんな物語は、映画を盛り上げるのにうってつけだ。
 『ロッキー』シリーズは云うに及ばず、近年では『ザ・ファイター』という秀作が生まれている。
 単に映画の山場を作りやすいだけではない。落ち目な男が殴られながらも耐えに耐える物語は、とても感情移入しやすいのだ。その男が遂に反撃に臨むとき、観客の興奮はピークに達する。
 ひらたく云えば、"熱い"物語になるのだ。

 『リアル・スティール』も、そんなボクシング映画の系譜をしっかり踏まえている。
 主人公チャーリーは、かつて優れたボクサーだったものの、今では借金まみれで酒浸りだ。
 ATOMは廃品置き場に埋もれていた粗大ゴミに過ぎない。
 彼らは、社会の底辺にいる人々の象徴である。そしてまた、「オレだって昔はなかなかのもんだったぜ」と愚痴りがちな中高年を表現してもいる。
 そんな彼らがチャンピオン(=金持ち)に挑戦する姿は、泪橋を逆に渡ろうとする丹下段平と矢吹丈にも似て、いつだって多くの人に支持されるのである。

 ましてや、近年は所得の格差が増している。
 所得分配の不平等さを測る指標としてジニ係数がある。所得が完全に平等に分配されていればジニ係数はゼロだが、平等でなくなるとジニ係数は1に近づく。そしてCIAの The World Factbook によれば、米国のジニ係数は1980年代でも0.34と大きめだった上に、2008年前後には0.45とさらに大きな値になった。
 日本でも1980年代の0.28から2008年前後には0.38と大きくなり、2000年前後の米国の0.36を抜いて、格差が激しくなっている。
 1国の中で格差が広がることは、必ずしも世界規模での格差拡大を意味しないが、米国でも日本でも本作に共感する人は増えていよう。

 その点で、頑張ればみんなが豊かになれそうだった『あしたのジョー』のころとは違い、本作が立身出世や一攫千金の物語にならないのは興味深い。
 主人公チャーリーと息子が目指すのは、裕福になって共に暮らすことではなく、チャンピオンすなわち大金持ちの鼻を明かすことなのだ。


 スパーリング用ロボットのATOMは、パンチで打たれるために作られた。
 それは現実に様々な困難に打ちのめされている人に重なる。
 しかしATOMの打たれ強さは、彼の最大の武器になった。
 打ちのめされている人々も、耐えることが最大の武器になろう。

 本作が共感を集める理由はそこにある。


リアル・スティール ブルーレイ(2枚組/デジタルコピー & e-move付き) [Blu-ray]リアル・スティール』  [ら行]
監督/ショーン・レヴィ 原作/リチャード・マシスン
制作総指揮/ロバート・ゼメキス、スティーヴン・スピルバーグ
出演/ヒュー・ジャックマン ダコタ・ゴヨ エヴァンジェリン・リリー アンソニー・マッキー ケヴィン・デュランド カール・ユーン オルガ・フォンダ ホープ・デイヴィス ジェームズ・レブホーン
日本公開/2011年12月9日
ジャンル/[ドラマ] [アクション] [ファミリー] [SF]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : ショーン・レヴィ リチャード・マシスン ロバート・ゼメキス スティーヴン・スピルバーグ ヒュー・ジャックマン ダコタ・ゴヨ エヴァンジェリン・リリー アンソニー・マッキー ケヴィン・デュランド カール・ユーン

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