『指輪をはめたい』 急上昇しているのはコレだ!
思わず吹き出した。
なにしろ水森亜土さんが医師役で登場し、いきなりカルテにイラストを描きだすのだ。しかも得意の両手描き。
この絶妙なキャスティングに、期待は高まろうというものである。
そして映画『指輪をはめたい』は、最後まで期待を裏切らない。
山田孝之さん演じる主人公の片山輝彦は、30歳目前のサラリーマンだ。
モテモテの彼は、小西真奈美さん、真木よう子さん、池脇千鶴さんが演じる女性たちを相手に三股をかけている。そして彼の手には婚約指輪がひとつ。
さて、彼は指輪を誰に贈れば良いのだろう。
小西真奈美さんは医薬品の研究者らしく、終始白衣姿である。彼女の長い黒髪が白衣に映えるのは、『ちゅらさん』の医師役で実証済みだ。輝彦の云うとおり、「完璧な美しさ」である。
真木よう子さんは『SP 警視庁警備部警護課第四係』や『モテキ』のつんけんした女性が印象的だが、本人が「今までにない役」と云うように、本作では一転して屈託のない笑顔を振りまいている。こんなに可愛い笑顔の人だったのだ。
池脇千鶴さんはさすがの演技力で、二歩も三歩も五歩も下がって前に出られない女の子を演じている。手料理が一番美味そうなのである。
さらに二階堂ふみさんが、岩田ユキ監督の前作『8ミリメートル』での猫に続いて、本作でもちょっと不思議な役で登場する。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』で男を蹴倒した勇猛さとはうって変わり、カワイ子ブリッ子な笑顔が愛らしい。
こんな素敵な女性たちに囲まれるなんて、輝彦は幸せ者だ。くー、うらやましい。
現実には、こんな恵まれたことがあろうはずもないが、あながちデタラメとはいいきれない。
内閣府が20~30代の男女を調査した結果によれば、既婚者は男性の16.7%、女性の21.8%しかおらず、なんと男性の58%、女性の44.1%には恋人がいない。それどころか男性の25.8%、女性の15.1%は、これまで交際した経験すらない。
したがって、片山輝彦のようなケースはもちろん珍しいのだが、注目すべきは男女の数字のギャップである。男性よりも女性の方が交際経験を持ち、現在結婚している人や恋人がいる人も女性の方が多い。
ん?
たしかに、総務省統計局が発表した2009年11月1日現在の日本の人口によれば、20~30代では女性よりも男性の人口がやや多い。だから1対1で付き合ったら、男性があぶれる計算にはなる。
しかし、男女の人口比を考慮しても、このギャップは大きすぎる。
その理由はいくつか挙げられよう。
ひとつには、20~30代の女性が同年代の男性とは交際しないことが考えられる。加藤茶さんが68歳のときに23歳の女性と結婚した例もあるように、20~30代の女性は40代以上のオジサンと付き合うのかもしれない。とはいえ、男性の未婚率は全世代で女性を上回っているし、生涯未婚率に至っては1990年に女性を追い抜き、2000年代に入ってからは女性の2倍もの高率で推移している。
となると、世のオジ様たちがモテているとばかりもいえない。
すると、もうひとつ考えられるのは、男女の付き合いが1対1ではないということ!?
公式な統計に表れることはないだろうが、水面下で二股、三股をかけている男性は案外いるのかもしれない。
それはともかく、本作は女優陣の魅力もさることながら、山田孝之さんのコミカルな演技がまた楽しい。テレビドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』でも大笑いさせてもらったが、本作では公園から走り去るときの素っ転び方が見事である。
三股もかけていながら嫌らしさを感じさせないのは、山田孝之さんのオドオドした演技プランがマッチしているからだろう。
そしてまた、単なるラブコメに終わらないのが本作の憎いところだ。
岩田ユキ監督は短編『8ミリメートル』において8ミリフィルムの映像と夢と現実が錯綜する構成を試みていたが、本作でも記憶の混濁と幻想がない交ぜになった重層的な構成で目が離せない。
病院に運ばれる主人公と夢うつつな物語、そして不思議な女性が相談相手になる様は、ボブ・フォッシー監督の名作『オール・ザット・ジャズ』を髣髴とさせて愉快である。
本作はまがうかたなきコメディだし、恋愛モノだし、とても楽しい映画だが、その味わいは切なくほろ苦い。
独身者に「独身にとどまっている理由」を尋ねると、24歳までの男女は「結婚しない」理由を挙げるが、25歳以上になると「結婚できない」理由が増える。しかしそれは「親が同意しない」とか「結婚資金が足りない」ということではない。「適当な相手に巡り会わない」という理由がもっとも多いのだ。周囲に独身の異性はたくさんいるのに。
「適当な相手に巡り会わない」というと素敵な相手がいないかのようだが、本作の主人公は周囲が素敵な相手だらけのために、かえって適当な相手を決められない。いや、結局素敵な相手と適当な相手は違うのだが。
生涯未婚率が急上昇している現代において、「指輪をはめたい」という願望は実は重いテーマなのである。
『指輪をはめたい』 [や行]
監督・脚本/岩田ユキ
出演/山田孝之 小西真奈美 真木よう子 池脇千鶴 二階堂ふみ 山内健司 佐藤貴広 水森亜土 杉山彦々
日本公開/2011年11月19日
ジャンル/[コメディ] [ロマンス]
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なにしろ水森亜土さんが医師役で登場し、いきなりカルテにイラストを描きだすのだ。しかも得意の両手描き。
この絶妙なキャスティングに、期待は高まろうというものである。
そして映画『指輪をはめたい』は、最後まで期待を裏切らない。
山田孝之さん演じる主人公の片山輝彦は、30歳目前のサラリーマンだ。
モテモテの彼は、小西真奈美さん、真木よう子さん、池脇千鶴さんが演じる女性たちを相手に三股をかけている。そして彼の手には婚約指輪がひとつ。
さて、彼は指輪を誰に贈れば良いのだろう。
小西真奈美さんは医薬品の研究者らしく、終始白衣姿である。彼女の長い黒髪が白衣に映えるのは、『ちゅらさん』の医師役で実証済みだ。輝彦の云うとおり、「完璧な美しさ」である。
真木よう子さんは『SP 警視庁警備部警護課第四係』や『モテキ』のつんけんした女性が印象的だが、本人が「今までにない役」と云うように、本作では一転して屈託のない笑顔を振りまいている。こんなに可愛い笑顔の人だったのだ。
池脇千鶴さんはさすがの演技力で、二歩も三歩も五歩も下がって前に出られない女の子を演じている。手料理が一番美味そうなのである。
さらに二階堂ふみさんが、岩田ユキ監督の前作『8ミリメートル』での猫に続いて、本作でもちょっと不思議な役で登場する。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』で男を蹴倒した勇猛さとはうって変わり、カワイ子ブリッ子な笑顔が愛らしい。
こんな素敵な女性たちに囲まれるなんて、輝彦は幸せ者だ。くー、うらやましい。
現実には、こんな恵まれたことがあろうはずもないが、あながちデタラメとはいいきれない。
内閣府が20~30代の男女を調査した結果によれば、既婚者は男性の16.7%、女性の21.8%しかおらず、なんと男性の58%、女性の44.1%には恋人がいない。それどころか男性の25.8%、女性の15.1%は、これまで交際した経験すらない。
したがって、片山輝彦のようなケースはもちろん珍しいのだが、注目すべきは男女の数字のギャップである。男性よりも女性の方が交際経験を持ち、現在結婚している人や恋人がいる人も女性の方が多い。
ん?
たしかに、総務省統計局が発表した2009年11月1日現在の日本の人口によれば、20~30代では女性よりも男性の人口がやや多い。だから1対1で付き合ったら、男性があぶれる計算にはなる。
しかし、男女の人口比を考慮しても、このギャップは大きすぎる。
その理由はいくつか挙げられよう。
ひとつには、20~30代の女性が同年代の男性とは交際しないことが考えられる。加藤茶さんが68歳のときに23歳の女性と結婚した例もあるように、20~30代の女性は40代以上のオジサンと付き合うのかもしれない。とはいえ、男性の未婚率は全世代で女性を上回っているし、生涯未婚率に至っては1990年に女性を追い抜き、2000年代に入ってからは女性の2倍もの高率で推移している。
となると、世のオジ様たちがモテているとばかりもいえない。
すると、もうひとつ考えられるのは、男女の付き合いが1対1ではないということ!?
公式な統計に表れることはないだろうが、水面下で二股、三股をかけている男性は案外いるのかもしれない。
それはともかく、本作は女優陣の魅力もさることながら、山田孝之さんのコミカルな演技がまた楽しい。テレビドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』でも大笑いさせてもらったが、本作では公園から走り去るときの素っ転び方が見事である。
三股もかけていながら嫌らしさを感じさせないのは、山田孝之さんのオドオドした演技プランがマッチしているからだろう。
そしてまた、単なるラブコメに終わらないのが本作の憎いところだ。
岩田ユキ監督は短編『8ミリメートル』において8ミリフィルムの映像と夢と現実が錯綜する構成を試みていたが、本作でも記憶の混濁と幻想がない交ぜになった重層的な構成で目が離せない。
病院に運ばれる主人公と夢うつつな物語、そして不思議な女性が相談相手になる様は、ボブ・フォッシー監督の名作『オール・ザット・ジャズ』を髣髴とさせて愉快である。
本作はまがうかたなきコメディだし、恋愛モノだし、とても楽しい映画だが、その味わいは切なくほろ苦い。
独身者に「独身にとどまっている理由」を尋ねると、24歳までの男女は「結婚しない」理由を挙げるが、25歳以上になると「結婚できない」理由が増える。しかしそれは「親が同意しない」とか「結婚資金が足りない」ということではない。「適当な相手に巡り会わない」という理由がもっとも多いのだ。周囲に独身の異性はたくさんいるのに。
「適当な相手に巡り会わない」というと素敵な相手がいないかのようだが、本作の主人公は周囲が素敵な相手だらけのために、かえって適当な相手を決められない。いや、結局素敵な相手と適当な相手は違うのだが。
生涯未婚率が急上昇している現代において、「指輪をはめたい」という願望は実は重いテーマなのである。
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監督・脚本/岩田ユキ
出演/山田孝之 小西真奈美 真木よう子 池脇千鶴 二階堂ふみ 山内健司 佐藤貴広 水森亜土 杉山彦々
日本公開/2011年11月19日
ジャンル/[コメディ] [ロマンス]

