『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』 原作と違う理由

 高校時代、『ダルタニャン物語』に熱中した私は、まさしく巻を措くあたわずという状態だった。この長大な物語の先を早く読みたかったので、とうぜん授業中も読みふけった。
 国語の授業でのこと、先生は教科書を片手に、席の間を歩きながら話していた。私はといえば、級友の背に隠れて『ダルタニャン物語』を読み続けていた。やがて私の席まで来て歩みを止めた先生は、私の手から本を取り上げた。そして書名を確認すると、黙って本を私に戻し、また話しながら席の間を歩き続けた。私も黙々と本を読み続けた。とにかく、ダルタニャンの冒険の行方ばかりが気になったのである。

 その大好きな『ダルタニャン物語』の第一部『三銃士』の、中でも前半の山場である王妃の首飾り事件を映画化したのが『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』である。
 感心したのは、意外にも原作に忠実なことだ。
 とりわけキャスティングは、原作ファンの多くも納得されるのではないだろうか。田舎から出てきた血の気の多いダルタニャン、いささか沈鬱なアトス、スマートなアラミス、豪放磊落なポルトス、そして可憐なコンスタンスに妖艶なミレディら、いずれも原作の雰囲気を良く表している。


 もちろん、違うところもある。バッキンガム公爵が悪者扱いなんてビックリだ。
 しかしそれは、この作品を良くしようという気持ちの表れであることがハッキリと伝わってくる。
 長年にわたり世界中の人々に親しまれた作品を映画化するに当たっては、幾つかのアプローチがあるだろう。ひとつは、リアリティを重視し、史実や考証にこだわる方法である。私にとって偉大なヒーローの一人ロビン・フッドは、先ごろこの方法で映画化された。そこでは、あたかもロビン・フッドが実在の人物であるかのように描かれていた。

 もうひとつは、リアリティなんてそっちのけで、人々を惹きつけてきた魅力を増幅する方法である。
 『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』は明らかに後者だろう。主人公ダルタニャンは実在の人物だし、三銃士の面々にもモデルがいるので、ロビン・フッド以上に史実にこだわった描き方もできたはずだ。
 しかし映画の作り手は、そんなことよりも、人物の魅力、ストーリーの魅力、そして活劇の魅力を、映像技術を駆使して膨らませることにこそこだわった。

 本作がなによりもアクションを重視しているのは論をまたない。ミレディの活躍ぶりは原作をはるかに凌駕しよう。
 そして本作は、アクションのためには設定を変えることすら辞さない。
 かくして、バッキンガム公爵はおいそれとは首飾りを返してくれないことになった。ロンドンに着けばなんとかなった原作と違い、映画はロンドンに着いてからが一波乱だ。
 そのため、バッキンガム公爵はアンヌ王妃を思いやる人物ではなくなった。
 するとアンヌ王妃のバッキンガム公爵への恋心は行き場をなくし、本来の落ち着き先である夫のルイ13世に向かうことになった。

 これは好ましい副作用ももたらした。
 原作の、浮気と不倫に満ちた王侯貴族たちの物語が、貞淑な妻とそれを信じたい夫の物語に変わったのだ。この方が現代の倫理観には合うだろうし、なにより本作をデートムービーとして利用したいカップルにうってつけだ。しかも、原作の三銃士たちは不倫の後始末のために駆け回ったが、映画では堂々と王家と国家の危機を救うという大義が成り立つことになった。これは、主人公たちを応援する上で大事な要素である。

 ただし、国家の危機を扱うとなると、立ち向かうのが三銃士と田舎者のダルタニャンだけでは辻褄があわない。銃士隊が全力で取り組むべき話になってしまう。
 したがって、本作の銃士隊は予算削減のあおりを受けて実態がなく、アトスたちは元銃士になりさがっている。
 もしも銃士隊が健在で、総力を挙げて事件に取り組んだなら、リシュリューの護衛隊だけでは妨害しきれないだろうから、この改変も致し方ない。

 また、アクションを大仕掛けにするためか、今回の三銃士たちが剣戟だけでなく銃や大砲での撃ち合いに積極的なのも目を引く。
 三銃士なら剣戟すべきだと眉をひそめる御仁もあろうが、どちらかといえば、これまでの三銃士映画が剣戟に偏り過ぎていたのかもしれない。なにしろ、彼らは**士なのだ。この時代、剣ではなくマスケット銃で武装した兵士を銃士と呼んだのである。
 その点、本作は剣戟もたっぷり見せるし、銃も構えるしで、まことにバランスが取れている。

 先ほど、アンヌ王妃の不倫がないことで現代の倫理観に合うと書いたが、同じことはダルタニャンとコンスタンスにもいえる。
 原作のコンスタンスは亭主持ちで、にもかかわらずダルタニャンはコンスタンスに入れ上げてしまうのだが、今回の映画のコンスタンスは可憐な乙女である。
 フランス人は恋多いのかもしれないけれど、朴訥な日本人としては、やっぱりヒロインの亭主はウロチョロしない方がいい。


 これら、アクションの重視と、不倫関係の削減により、映画は原作と異なる内容になったが、それは現代の観客の嗜好に合わせれば必然といえる。実際、それらを除けば、本作は驚くほど原作を尊重しているのだ。
 従者へのむごい仕打ちや、ダルタニャンの傍若無人ぶり等、たしかに『三銃士』はこんな話だった。
 『ダルタニャン物語』のファンとしては、ぜひ続きも映画化してもらいたい。


 ところで、高校時代、授業中も小説を読んでいた私は、先生がどんな話をしていたのかサッパリ憶えていない。困ったものである。
 毎日の高校生活は当時の私にとって何の変哲もない日常であり、そこでの先生の話は、そのときにしか聞けないのだということが判らなかったのだ。いまや先生の話を聞くために講演会に足を運ぶ人もいるというのに。
 当時は、先生が後に直木賞作家になるとは予想だにしなかったのである。


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監督・制作/ポール・W・S・アンダーソン
出演/ローガン・ラーマン ミラ・ジョヴォヴィッチ オーランド・ブルーム クリストフ・ヴァルツ マシュー・マクファディン レイ・スティーヴンソン ルーク・エヴァンス マッツ・ミケルセン ガブリエラ・ワイルド ジェームズ・コーデン ジュノー・テンプル フレディ・フォックス
日本公開/2011年10月28日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー]
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【theme : ヨーロッパ映画
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