『ステキな金縛り』と鬼十則

 【ネタバレ注意】

 『ステキな金縛り』を英訳すれば、さしずめ「It's a Wonderful Binding」だろうか。もちろんこれは「It's a Wonderful Life」、すなわちフランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』のもじりである。
 1946年制作の名作『素晴らしき哉、人生!』については、いまさら私が説明するまでもないだろう。日本での公開は1954年2月のこと。この年、宮城から上京した小野寺少年は、『素晴らしき哉、人生!』に登場する二級天使をパクっ……もとい二級天使にインスパイアーされて、12月発売の『漫画少年』誌にそのものズバリ『二級天使』というマンガを発表している。様々な映画や小説をパクっ……もといインスパイアーされて、ギネスに認定されるほど多くのマンガを発表した石森章太郎(後の石ノ森章太郎)のデビュー作である。
 日本のマンガ、テレビ、アニメにおける石ノ森章太郎の存在の大きさを考えれば、そのデビューのネタ元……もとい影響を及ぼした『素晴らしき哉、人生!』の偉大さが判ろうというものである。

 アメリカ映画協会が2006年に選出した感動の映画ベスト100では、『素晴らしき哉、人生!』が第1位で『スミス都へ行く』が第5位と、フランク・キャプラ作品が二つも上位に入っている。
 その二作へのオマージュをたっぷり捧げた映画が、三谷幸喜監督・脚本の『ステキな金縛り』である。
 主人公の父の好きな映画が『スミス都へ行く』ということから父がたいへんな正義漢であろうことが判るし、向こうの世界から来た男の好きな映画が『素晴らしき哉、人生!』だというのだから、ただもうニヤニヤするばかりである。

 とはいえ、『ステキな金縛り』と『素晴らしき哉、人生!』の類似点をいちいち指摘するのは野暮というものだろう。いや、一番類似しているのは、『ステキな金縛り』もまた笑いと涙と感動に溢れた素晴らしい作品だということである。
 違うのは、『素晴らしき哉、人生!』よりも笑いの占める割合が大きいところだろうか。
 驚くべきは、大笑いするシーンと大泣きするシーンが同じ箇所であることだ。同じシーンを見ながら、ある観客は笑うだろうし、ある観客は泣くだろう。私はといえば、泣きながら笑っていた。こんな経験はしたことがない。


 本作は、失敗続きの弁護士が最後のチャンスとして難事件の訴訟に取り組む物語である。
 どんな映画かは、公式サイトで三谷幸喜監督がみずから述べている。曰く、「ワクワクする法廷ミステリー」「ドキドキするホラームービー」「大爆笑の幽霊コメディー」「主人公エミの成長物語」「まさかまさかの感動ドラマ」「でもそれだけじゃない」「とにかく観れば分かる」!

 主人公の成長物語という点では、劇中、彼女に足りないのは自信だと諭される場面がある。
 そのやりとりを見ながら、私は電通の鬼十則を思い出した。電通の4代目社長吉田秀雄氏が定めたビジネスの十の心得は、職業人であれば誰しも目にしたことがあるだろう。鬼十則を励みにしている人も多いはずだ。
 その第8則に、自信について書かれている。

 8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。

 この映画には、仕事が上手くいかない人が何人も登場する。世の中には幽霊を見られる人と見られない人がおり、見られる条件の一つは仕事が上手くいってないことだという設定なのである。
 そんな人を、幽霊が背中を押し(押せないけど)、手助けしてくれる(手は出せないけど)。
 この映画は、三谷幸喜監督が述べたことに加えて、ものごとが上手くいかない人への応援歌でもあるのだ。


 やがて仕事が上手くいけば、条件の一つが解消されて幽霊は見えなくなる。
 それはいささか寂しいが、現世での生活が充実することでもある。
 エンドクレジットに流れる深津絵里さんと西田敏行さんのデュエット曲「ONCE IN A BLUE MOON(ごくまれに)」に聞き惚れながら、観客はもう決して幽霊を見ることのない主人公の充実した生活に思いを馳せることだろう。


 ところで、電通の鬼十則には、吉田望氏が作った裏十則というパロディがある。とても秀逸なパロディで、こちらの方がうなずけるかもしれない。
 その第8則は次のとおりである。

 8)自信を持つな。自信を持つから君の仕事は煙たがられ嫌がられ、そしてついには誰からも相手にされなくなる。

 厳に戒めたいものである。


ステキな金縛り Blu-rayスペシャル・エディション(特典DVD付3枚組)ステキな金縛り』  [さ行]
監督・脚本/三谷幸喜
出演/深津絵里 西田敏行 阿部寛 竹内結子 浅野忠信 草なぎ剛 中井貴一 市村正親 小日向文世 小林隆 KAN 木下隆行 山本亘 山本耕史 戸田恵子 浅野和之 生瀬勝久 梶原善 阿南健治 近藤芳正 佐藤浩市 深田恭子 篠原涼子 唐沢寿明
日本公開/2011年10月29日
ジャンル/[コメディ]
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【theme : コメディ映画
【genre : 映画

tag : 三谷幸喜 深津絵里 西田敏行 阿部寛 竹内結子 浅野忠信 草なぎ剛 中井貴一 市村正親 小日向文世

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