『モテキ』 ガッポリ儲ける方法

 思わず唸った。上手い!
 映画『モテキ』の上映中、終始ニヤニヤし通しだった私は、大根仁監督の上手さに舌を巻いた。

 この映画は、あたかもモテない男のルサンチマンが爆発しているかのように見せている。主人公の鬱屈した思いや、いわゆるサブカルチャーにどっぷりはまっている様子に、全国の童貞・セカンド童貞の多くが共感するであろうことは間違いない。
 しかし、その実この映画はけっこうオシャレなんである。森山未來さん演じる主人公はポップス等に造詣が深く、natalie(ナタリー)のライターとして野外フェスの取材も難なくこなしてしまう。また、長澤まさみさんが演じるのは、ファッションやカルチャーを扱うEYESCREAM誌の編集者で、もちろんみずからもファッショナブルだ。そして彼らは、若者文化の発信地たる下北沢界隈で飲み歩いている。

 ここでもう、2次元界が友だちのアニメオタクは差が付けられている。女性と同席できるのが後楽園のヒーローショーだけの特撮オタクや、アバター越しにしか会話しないゲームオタクも同様である。
 本作は、モテない男の共感を呼んで独身者を集客しつつ、滑稽さの中にオシャレ感をかもし出す恋愛劇としてデートムービーにも打ってつけなのだ。


 その目指すところは明白だ。指摘される前に白状しようということか、公式サイトには次のように書かれている。
 「本作のミュージカルシーンは09年公開の恋愛映画『(500)日のサマー』をパクっ……もといオマージュである。」
 『(500)日のサマー』の日本公開は2010年なんだけど、制作の2009年と混同してしまうほど前のめりだ。
 たしかに、さえない男がキレイで奔放な女性を好きになり、振り回されながらもひたむきに想い続ける姿は、まさしく『(500)日のサマー』そのものである。ちょっとマニアックな音楽の趣味が二人の会話のきっかけになり、全編をイカした選曲の音楽が彩るところも同様だ。
 しかし、私は『(500)日のサマー』が苦手だった。とても素敵な映画で面白いのだけれど、さえない男を演じるのはハンサムなジョセフ・ゴードン=レヴィットだし、あまりにキレイにまとまって別世界のようだった。ひらたく云えば、私なんぞにはオシャレ過ぎてむず痒かったのだ。
 その点『モテキ』はオシャレな感じを漂わせながらも、私のような本物のさえない男を置いてきぼりにはしない。
 さえない観客は主人公に感情移入し、イカした観客は主人公のダメっぷりに笑いを漏らし、どちらにしても楽しめるのだ。

 ここは大事なところである。
 さえない男の物語としては、本作よりも『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の方が一枚も二枚も上手だ。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を観たさえない男たちは、並々ならぬ感情移入をすることだろう。
 しかしそのために、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は客層を狭めてしまう。特に女性を邪悪な存在として描いているため、女性客の支持を得るのは難しいだろう。
 ところが『モテキ』はヒロインたちの悩みや苦労も描くことで、翻弄される主人公ばかりが被害者ではないことを明らかにする。
 こうしてバランスを取りながら、オシャレな『(500)日のサマー』よりも、鈍臭い『ボーイズ・オン・ザ・ラン』よりも、幅広い観客にアピールするのだ。うーん、上手い。


 そしてまた、お馬鹿ムービーとしても抱腹絶倒である。
 冒頭からかましてくれる女神輿!グラビアアイドルやポールダンサーたちが男一人のためにあられもない姿で神輿を担いでくれるなんてバカバカしいにもほどがある。
 しかし、大根仁監督はこの神輿をバカバカしさで白ける寸前ギリギリのところで踏みとどまり、ポップで愉快な映像に仕上げている。

 さらに人間の生理として大事なもの、ちょっとHな要素も欠かさない。それこそ観客の目を引き付けるストレートなテクニックである。
 これまた、度が過ぎるとデートムービーらしさをぶち壊してしまうわけだが、本作はきわどいところで品を失わず、艶笑譚としてまとめている。

 さらに更に、人間にとって向上するのは大事なことなのか、現状にとどまっていたらダメなのかと、人生への問いかけらしきものも持ち出して、深掘りしたい観客が考察できるようにもしてある。

 これらを印象的なセリフの数々と、切れのいい映像でテンポ良く繋いでいくのだから、本作は多くの観客のストライクゾーンに入ることだろう。


 ……と、ここまでは劇場公開で観る客にとっての話だ。
 日活の林朋宏氏によれば、映画ビジネスで儲けを確保するには2つのパターンがあるという。
---
 娯楽映画にはステップごとに違った利用方法がある。劇場公開を1次利用と呼ぶ。2次利用はDVDなどのホームビデオ販売、3次利用はテレビ放映。だが、この流れに2つのビジネスパターンがあると林氏は説明する。

 1つは、劇場での収入に重きを置く場合。もう1つはDVD、テレビなどの2次利用、3次利用が重視されるパターンであり、それは劇場での観客層と、DVDなどのユーザー層が必ずしも一致しないためである。
---

 ここまで見てきたように、本作は幅広い観客に受けることは間違いなく、1次利用たる劇場での収入は確実だろう。
 では、2次利用、3次利用についてはどうなのかというと、ここにもまた見事な仕掛けが施されている。
 それが音楽の使い方とカラオケ的映像だ。

 本作は主人公の感情を表現するのに、ポップスを多用している。もう途切れることなく様々なバンドの楽曲が流れ続ける。
 のみならず、ここぞというときには曲のタイトルと作詞者名、作曲者名まで大写しになり、曲にあわせて歌詞まで出てくる。カラオケの映像そのままだ。

 この映像には二重の意味がある。一つには、ルサンチマンが爆発している主人公の感情を面白おかしく表現することで、過剰に深刻な展開になるのを避けているのだ。これは映画館で楽しむ観客を意識しての処置だ。
 そしてもう一つは、ズバリ、カラオケとして楽しめるようにすることだ。こちらはDVDを自宅で鑑賞する人を念頭に置いている。 だってそうだろう。カラオケの話題やカラオケのシーンをさんざん見せられて、その後の感情が盛り上がったところで有名な曲が流れ出し、字幕で歌詞が現れたら、誰でも一緒に歌うだろう。だから曲は断片的な使い方ではなく、カラオケ好きが満足する程度の長さを確保する。映画館で見ているときはいささか冗長に感じるかもしれないが、自宅で酒を飲みながら一人であるいは恋人と一緒に歌っているときは、途中で止められたくないだろう。
 すなわち、これらのシーンはカラオケ用の映像を模しているのではなく、カラオケ用の映像そのものを狙っているのである。

 カラオケ的でない場面でも楽曲が流れ続けるのは、本作が「ながら視聴」やBGMとしても機能するように考えてのことだ。
 はたして映画と音楽との違いは何か?
 違いは多々あるだろうが、大きな点として繰り返し楽しめるかどうかということがある。お気に入りの曲だったら、1日に何度も聴くだろう。毎日毎日聴くかもしれない。しかしいくらお気に入りの映画でも、繰り返し見るには限度がある。
 だから、音楽は金を払ってでも手元に置いておきたいが、映画のDVDを購入するのは余程好きなものだけである。
 その点、本作は普通に映画として鑑賞するだけでなく、ミュージックビデオを見るように楽しむこともできる。映画のDVDの購入は躊躇する人でも、CDやミュージックビデオのDVDを兼ねているなら、購入意欲が高まることだろう。
 なにしろ楽曲が流れるだけではなく、本物のミュージシャンたちが入れ替わり立ち代り登場するのだから。

 とどめは、動画共有サイトのような映像だ。
 まるでYouTubeみたいな画面で歌うところは、映画館で観ていると、動画共有サイトが一般的になった現代をリアルに切り取ったかのように思わせる。それはそれで面白いのだが、もっとストレートな効果として、YouTubeで見たら面白くないということが挙げられる。
 パソコンの画面の一角に動画を配信するYouTubeでこの映像を見ると、動画用の小さな一角の中にさらに小さな一角が設けられて、その中に小さな小さな人が歌っている姿が映し出されることになる。そんなの全然面白くない。
 つまりこの映像は、動画共有サイトにアップロードされた違法コピーを見て済ませようとする不届き者をガッカリさせ、対価を払ってDVDを見るように仕向けるものなのだ。

 かように本作は、DVDの販売による2次利用を促進する仕掛けを凝らしているのである。


 3次利用のテレビ放映については云うまでもないだろう。
 本作はテレビドラマの続編であり、テレビで放映すればドラマを支持した視聴者が見てくれるのは確実だ。
 もちろん、続編といっても、あらかじめテレビドラマを見ておかないと困るわけではない。かくいう私自身がテレビシリーズを見ていないのに、充分に楽しんでいる。

 このように、本作は1次利用で儲け、2次利用でも儲け、3次利用でも受けるように配慮された最強ムービーなのだ!


 前述の林朋宏氏によれば、映画がよく見られるには3つの効果要素があるという。それは、「スター」「ジャンル」「監督」だ。
 本作は、「スター」については申し分ない。単に『(500)日のサマー』のパクっ……オマージュというだけでなく、舞台でも華麗なダンスを披露している森山未來さんにミュージカルシーンを演じさせることで彼の魅力を最大限に引き出し、さらに主役級の女優を4人も配する贅沢さ。大根仁監督は4人にそれぞれ個性的な役を割り当て、彼女たちの魅力も存分に引き出している。
 「ジャンル」としては、恋愛映画という一般的なものでありながら、コアなファンが存在するサブカルチャーが題材だ。
 そして、「監督」。大根仁監督はこれが映画デビュー作となるわけだが、今後とも必見であることは間違いない。


モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)モテキ』  [ま行]
監督・脚本/大根仁  原作/久保ミツロウ
出演/森山未來 長澤まさみ 麻生久美子 仲里依紗 真木よう子 リリー・フランキー 金子ノブアキ 新井浩文
日本公開/2011年9月23日
ジャンル/[青春] [ドラマ] [ロマンス] [音楽]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

【theme : 恋愛映画・ロマンティックコメディ
【genre : 映画

tag : 大根仁 森山未來 長澤まさみ 麻生久美子 仲里依紗 真木よう子 リリー・フランキー 金子ノブアキ 新井浩文

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示