『スーパー!』 私たちが好きなものの正体

 あなたは『キック・アス』の映画とマンガのどちらが好きだろうか?
 ストーリーラインは概ね同じでも、その印象は大きく異なる。
 映画の方はちょっとブラックなコメディーで、そのくせポップで痛快で、見終わった後なんだか楽しい気分になれる。
 それにひきかえ原作マンガは、陰鬱でシニカルで、読後に落ち込むような作品だ。たしかにこの内容じゃ映画にできない。毒が効きすぎて、観客にウケないだろう。

 と思ったら、まさしく『キック・アス』の原作マンガのテイストそのままの映画が登場した。それが『スーパー!』である。

 主人公は妻に捨てられた中年男フランク・ダルボ。容姿も頭脳も性格も、いいところはまったくない。そんな彼がテレビのスーパーヒーローに触発されて、お手製のみっともないスーツで「クリムゾンボルト(深紅のボルト)」に扮し、街の平和のために戦うのだ。
 その戦い方は、彼の主観で悪党だと思った人間に殴りかかること。たしかに標的は麻薬の売人だったり児童虐待者だったり物取りだったりする。悪い奴らには違いない。だからといって、血まみれになるまでレンチで滅多打ちにして良いのか、それが本当に正義なのかは、はなはだ疑問である。

 しかし、私たちはフランクのダメ男ぶりに同情し、彼が信心深く悪意はないことを知っているから、その過剰な暴力を非難できない。
 それどころか、映画の列に割り込んできて、注意されてもまったく反省しない男女など、ぶん殴られて当然と思わないでもない。

 そして私たちはあることに気づく。
 あぁ、暴力って楽しい。悪党をぶん殴るのは爽快だ。覆面することが免罪符になるのなら、こんな風に暴力を振るってみたい。
 必殺シリーズが根強い人気を保つのも、権力がなくても暴力で悪党を排除するからだろう。


 そして映画は、クリムゾンボルトの相棒ボルティーの登場で最高潮となる。
 エレン・ペイジ演じるボルティーは、信心深いフランクとは大違いだ。暴力を振るうのが楽しくて仕方ない。フランク同様、手製のコスチュームに身を包んだ彼女は、見知らぬ男に大怪我させて、あわや殺す寸前までいく。
 そのときの彼女のセリフがふるっている。
 「殺しちゃいけないって知らなかったのよ!」
 彼女にとってスーパーヒーローとは、悪党を殺しちゃってもいい特権階級なのだ。たとえその悪が、友人のクルマにキズをつけただけであっても、それが男の犯行なのか証拠がなくても、ヒーローなら殺していい。

 はじめは彼女の暴走を諌めていたフランクも、徐々にやることがエスカレートしていく。二人はともに凶器を持って、狙い定めた相手を滅茶苦茶に襲いまくる。
 フランク役のレイン・ウィルソンのトボけた演技と、エレン・ペイジの弾けっぷりが面白くて、その暴力シーンは愉快痛快だ。

 そもそも私たちは暴力を振るうことに免疫があるはずだ。
 ライオンが獲物を追うのをためらっていたら飢え死にしてしまう。人間も他の動物を殺したり、植物の実をもいだりしないと、生きることができない。
 もちろん私たちの遺伝子には暴力を抑制する働きもあるはずだが、いざとなれば暴力を振るえるのだ。そういう生き物なのだ。


 映画のクライマックスで、暴力の限りを尽くすフランクは問われる。
 「それで世界が変わると思うか?」
 フランクは答える。
 「僕にも判らない。試してみないと。」

 さすがに、そんな彼らが型どおりのハッピーエンドを迎えることは許されない。映画版『キック・アス』のラストが温く感じた方も、本作の結末には納得だろう。
 しかし、私たちはすでに気づいている。
 私たちの中には暴力を肯定するものがあり、意図して抑制しなければ、たやすく噴出することを。


 残念なのは、本作の上映中に携帯電話をいじっている客がいたことだ。
 そんな不届き者は、やっぱりレンチでぶん殴るべきだろうか。

(つづく)


スーパー! スペシャル・エディション [Blu-ray]スーパー!』  [さ行]
監督・脚本/ジェームズ・ガン
出演/レイン・ウィルソン エレン・ペイジ リヴ・タイラー ケヴィン・ベーコン ネイサン・フィリオン グレッグ・ヘンリー マイケル・ルーカー
日本公開/2011年7月30日
ジャンル/[コメディ] [ドラマ] [アクション]
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