『カーズ2』 無責任ではない問題提起

 2008年、短編映画『メーターの東京レース』と同時上映された『ボルト』には、一つ残念なところがあった。
 映画は、ミラクルボイスならぬスーパーボイスを放つスーパーヒーロー犬・ボルトの活躍から始まるのだが、このアクションシーンは単に映画の撮影という設定で、映画はすぐにスタジオで飼われている小犬の話になってしまうのだ。
 もちろんそれが物語の中心なのだが、3D画面いっぱいのアクションシーンは、それだけで終わるのがもったいないほど魅力的だった。
 『トイ・ストーリー3』も同様だ。冒頭の手に汗握るアクションは『男はつらいよ』シリーズの夢のシーンのようなもので、本来のストーリーとは関係なくかき消されてしまう。

 それを残念に思っていた人には、『カーズ2』は痛快だろう。
 颯爽たるスパイアクションで幕を開ける本作は、最後の最後までスパイアクションで通すのだ。
 しかも、英国スパイとして陰謀と戦うフィン・マックミサイルは、ボンドカーの中でも特に有名なアストンマーチン・DB5。その声を当てるのが、英国諜報部員ハリー・パーマーシリーズで知られるマイケル・ケイン。やっぱりこうでなくちゃいけない。

 そして世界各国を舞台とするワールド・グランプリと、007シリーズばりに世界中を股に掛けたスパイアクションとが楽しめる本作は、往年の傑作アニメ『マッハGoGoGo』(1967年)をも髣髴とさせる。
 とりわけ、フィン・マックミサイルがベルトタイヤ(マッハ号のBボタン機能)を装着するシーンなど、心躍る人も多いだろう。
 なんといっても、クルマはアニメーションの格好の題材だ。
 最近もカーレース物の『REDLINE』(2010年)が評判になったし、ディズニーには2006年の『カーズ』一作目に先駆けて1952年に『青い自動車』(『小型クーペのスージー』)という作品がある。
 クルマが登場すると気分が高まるのは、昔も今も変わらないのだろう。


 とはいえ、本作は楽しく痛快なばかりではない。
 『ウォーリー』で環境問題を取り上げ、『カールじいさんの空飛ぶ家』ではアメリカ同時多発テロ事件の後遺症を取り上げてきたピクサー・アニメーション・スタジオが、『カーズ2』で描くのはエネルギー問題である。

 クルマ好きには残念なことに、クルマはガソリンを食いまくる代物だ。日本自動車工業会によれば、日本のガソリン乗用車の1リットル当たり平均燃費は1996年の12.4kmから2009年の18.1kmへと大きく改善してはいる。ハイブリッドカーの普及を考えれば、さらなる改善が見込めよう。
 しかし、コンパクトシティ構想にも見られるように、近年はそもそもクルマを必要とする場所に離れて暮らすことの必然性が問われている。クルマの使用は物流業者のトラック輸送等に任せ、各家庭は徒歩や自転車や、せめて公共交通機関で用事を済ませられるところに移り住めば、自家用車を持つ必要はない。燃費向上や低公害車(エコカー)も良いが、クルマを使わないことに勝るものはない。

 まして、カーレースには生活上の必要性がまったくない。ガソリンを食いまくり、大気汚染物質を排出するカーレースは、究極の娯楽であり贅沢である。
 並みのクリエイターならそんなことは気にしないだろうが、思慮深いピクサーの制作陣は、環境保全の対極にあるレーシングカーを、手放しで楽しく描くことができなかったに違いない。
 そのため本作の通奏低音として流れるのは、従来の化石燃料と夢の代替エネルギーとの相克だ。
 本作のキーとなるのは、大気を汚染しない再生可能の新燃料アリノールだ。アリノールを世に広めるため、アリノールを燃料としたマシンによるワールド・グランプリが開催される。本作の主人公ライトニング・マックィーンもアリノールを搭載して参戦するが、アリノールを快く思わない連中がレースを妨害し……というのが本作のストーリーである。


 本作が公開された2011年は、これまで以上にエネルギー問題が注目された年であった。3月11日に東日本を襲った地震と津波は、広範囲な停電や電力不足をもたらし、多くの人がエネルギーについて考えざるを得なかった。
 『カーズ2』の制作は地震の前から進められていたが、奇しくもたいへんタイムリーな問題提起になったのである。
 そこで示されるのは、すぐに飛びつける夢の代替エネルギーなんてないということだ。いささかシニカルかもしれないが、現実に私たちが直面している問題に対して、夢を振りまくことでお茶を濁すほどピクサーは無責任ではないのだ。

 私たちは、これまで利用してきたエネルギー源をまだまだ活用せざるを得ない。
 幸いにして、石油は過去に人類が消費してしまった量の10~15倍はまだ存在するというし、シェールガスも莫大な埋蔵量がある。そして私たちはこれら化石燃料が持つエネルギー量の35%程度しか利用しておらず、残りの65%を無駄に捨てている。その35%の中で節電に励んだり、あらぬ代替エネルギーを探す前に、まず65%も捨てるのを止めるべきなのだろう。
 もちろん本作は、代替エネルギーの可能性を否定しているわけではない。たとえば最近注目されているトリウムなど、研究に取り組むべきものもあろう。


 さて、日本の観客が本作に興味を引かれる点として、主要舞台の一つが東京であることが挙げられる。『メーターの東京レース』がスケールアップしたのだ。
 ワールド・グランプリの開催地として描かれる日本の姿は、いまさらながら外から見た日本の魅力に気づかせてくれる。とりわけ強調されるのは、劇中で実況担当者が紹介するように「古い伝統とテクノロジーの国」という点だ。
 聞くところによれば、日本を訪れた外国人観光客がカメラに収めたがるのが吉野家の看板だそうだ。なるほど、橙色の地に黒い漢字が並ぶところは、歌舞伎座の垂れ幕を思わせなくもない。
 本作でも「古い伝統」の代表として歌舞伎や相撲が登場し、さらには鳥居や提灯のデザイン性にも目が向けられる。いささか誇張はあるものの、どれも日本を特徴づけるものだ。

 一方、「テクノロジー」の代表はコンピューター制御のトイレや電気街のきらびやかな看板だろう。主人公たちが巡る世界のレース場の中で、日本だけが夜のレースなのは、その魅力が夜景にあるからだ。
 七色にライトアップされたレインボーブリッジを、マックィーンたちレースカーが激走する場面は、楽しく美しい。

 ところが実際のレインボーブリッジは、3月11日の東日本大震災から5ヶ月を経ても節電のためにライトを消したままである。
 本作を観た世界中の青少年が、日本に興味を持って訪れたときに、彼らを迎えるのが暗闇に沈んだ街並みだったら、あまりにも寂しい。


カーズ2 [DVD]カーズ2』  [か行]
監督・原案/ジョン・ラセター、ブラッド・ルイス
出演/ラリー・ザ・ケイブル・ガイ オーウェン・ウィルソン ボニー・ハント トニー・シャルーブ グイド・クアローニ マイケル・ケイン エミリー・モーティマー ジェイソン・アイザックス エディ・イザード ジョン・タートゥーロ フランコ・ネロ ヴァネッサ・レッドグレーヴ
日本語吹替版の出演/山口智充 土田大 戸田恵子
日本公開/2011年7月30日
ジャンル/[アドベンチャー]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

【theme : ☆ディズニー映画「カーズ」☆
【genre : 映画

tag : ジョン・ラセター ブラッド・ルイス ラリー・ザ・ケイブル・ガイ オーウェン・ウィルソン マイケル・ケイン エミリー・モーティマー ジェイソン・アイザックス 山口智充 土田大

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示