『犬飼さんちの犬』 笑顔の裏にあるもの

 犬の登場する映画は数々あれど、『犬飼さんちの犬』はその決定打と云えるかもしれない。
 なにしろ、何のへんてつもない題名に「犬」の字が2度も登場するのだ。作り手たちの自信のほどが窺えよう。

 本作の主人公は犬飼保。姓に相違して犬が大嫌いな中年男である。何があっても角を立てずに無難に収めてしまう彼は、同僚から「いつも笑っている」と云われる。
 一方、彼が一緒に暮らすことになった犬はサモエドの「サモン」。サモエドやその血を引くポメラニアンは、口を開くと笑っているように見える。サモエドのその表情を、サモエドスマイルと呼ぶそうだ。

 本作は、いつも笑っている男とサモエドスマイルの犬との交流を描くのだが、さすがの犬飼保も大嫌いな犬には笑顔で接することができない。
 この点については、原作・脚本の永森裕二氏自身の体験が影響しているそうだ。公式サイトによれば、これまで動物映画シリーズの原作・脚本を務めてきた永森裕二氏は、自分でも犬を飼い始めることである発見があったという。
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そして、気付いてしまった。今まで描いてこなかった事柄に。
それは…
「動物と人って、そんなに簡単に仲良くなれねぇじゃん!」
という、当たり前だが厳然たる事実だった。
(略)
そもそも動物とのコミュニケーションが大丈夫な人たちを普通に登場させて、いともたやすく動物とコンタクトしていたことが、なんかとてもやばいと思った。
今更だが自分自身に突っ込みたくなってしまった。
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 こうして本作は、動物映画シリーズ初めての犬嫌いの男を主人公とすることになる。
 テレビドラマ版の犬飼保は、必ずしもいつも笑顔なわけではなく、不機嫌にもなれば文句も云うのだが、映画版では笑顔を基調としたことで、作品のテーマがより鮮明になっている。
 犬飼保はいつも笑顔だと思われているが、実は笑っていないのだ。彼は少年の頃に辛い思いをして、もう二度と笑わないと決意して成長してきたのだ。そんな彼が、サモンと接することで本当の笑顔を取り戻していく過程を描くのが本作である。

 とりわけ興味深いのは、彼の家庭が、実は彼の思う姿とは異なっていることだ。
 テレビドラマ『犬を飼うということ ~スカイと我が家の180日~』に関する記事「あなたの家の求心力は?」でも取り上げたことだが、犬飼家もまた家庭の求心力を失っていた。単身赴任してバラバラに暮らしていても求心力が保てていると思うのは主人公一人だけであり、他の家族は家庭に穴が開いていることに気付いている。
 そしてここでも、その穴を埋めるのは犬であった。犬が家庭を保つ求心力になってくれているのだ。
 にもかかわらず犬飼保は犬嫌いなので、犬を家族の一員として認めない限り、彼は家庭の調和を乱す存在だ。

 ここから犬飼保は、犬を含めた家庭を再認識することになる。
 気付いてみれば、妻には自分の知らない顔があった。子供たちが自分のことを「犬を怖がるお父さん」なんて思っていることも知った。
 だから、犬飼保は家族と家庭をもう一度見直してみる必要があり、その第一歩がサモンとの絆を結ぶことだった。
 こうして犬飼保は、自分が単身赴任しているあいだに出来上がっていた「父親抜きの家庭」に、改めて新参者として参加するのだ。


 ひとつ付け加えるならば、私は先に「サモエドは笑っているように見える」と書いたけれど、これは決してサモエドが笑ってないということではない。
 犬飼保の笑顔は作り笑いだったが、犬はそんなことはしない。笑って見えるときは、本当に笑っている。犬は緊張したり警戒しているときはそもそも口を開かないし、機嫌が悪ければたとえ口を開いてもへの字形だ。笑顔に見えるのは、リラックスして、機嫌の良いときなのだ。
 本作でも、犬を嫌うのは人間の方であり、犬は最初から人間に寄り添っている。犬はいつだって笑顔で待っているのだ。


犬飼さんちのサモンくん from 「犬飼さんちの犬」 【DVD】犬飼さんちの犬』  [あ行]
監督/亀井亨  脚本/永森裕二
出演/小日向文世 ちはる 木南晴夏 池田鉄洋 徳永えり でんでん 佐藤二朗 清水章吾 小野花梨 矢部光祐 松本秀樹
日本公開/2011年6月25日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ] [犬]
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