『ハングオーバー!!』 外科医がチェロを弾く謎

 【ネタバレ注意】

 『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』の敗因分析は容易である。
 大ヒットした一作目『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』に倣わねばならないという作り手の思いは、一作目のフォーマットへの過剰な遵守をもたらしながら、肝心のギャグは前作ほどの切れがなく、従来の観客には新鮮味がない作品にしてしまっている。
 一方、ことあるごとに顔を出す一作目の引用は、二作目から見始めた新たな観客を戸惑わせる。
 結果として、これまでの観客にも新たな観客にも、楽しみにくい作品かもしれない。

 また、ヒット作の続編だけあって制作費は増えているものの、それは海外ロケやカーアクションに費やされてしまい、肝心かなめの"笑い"に結びつかない。
 もちろん一作目のフォーマットが優れているから、それにのっとるだけで何となく愉快なのだが、そのフォーマットを作り出した脚本家ジョン・ルーカス&スコット・ムーアが今回は抜けているのが残念である。


 そんな中で、一作目を超えて強烈にアピールしているものがある。
 人間の暗黒面だ。
 トッド・フィリップス監督はまさに「ダーク」と表現している。
 「少しダークなものが入っている。そういったことは一作目にもあったけど、多分今回の方がもう少し入っているね」

 一作目は、酔ってる間に仕出かしたことの後始末に右往左往する話だった。映画だからかなり誇張はしているものの、酔ってるときに羽目を外すなんて誰にでもある、そう思える範囲だった。
 しかし二作目はレベルが違う。暴動を扇動して警官隊と衝突し、身体も満足では済まないほどの事故を起こしている。酔って羽目を外したどころの騒ぎではない。
 主人公トリオの一人であるステュ自身も云っている、「自分には暗黒面がある」のだと。ジキル博士がハイド氏に変わるように、人間はキッカケがあれば変貌する。
 どちらかが真の姿で、どちらかは偽の姿なのか?
 そうではない。どちらも人間本来の姿なのだ。
 本作は、人が常日頃は抑え込んでいる暗黒面と向き合うまでの物語なのである。

 したがって、タイ王国を舞台にしたのは気まぐれではない。
 敬虔な仏教徒の国としての面がある一方、2010年3~5月の大規模な反政府デモに見られるように民衆はマグマのようなエネルギーを秘めている。だから、寺院や僧侶も登場すれば、次の瞬間、風俗店やギャングも登場する。[*]
 トッド・フィリップス監督は、タイこそ人間の二面性を表現する場としてうってつけと考えたのだろう、インタビューで次のように語っている。
 「一作目を撮影している時にも、『バンコクを舞台にしたら面白いのでは?』って話していたしね。そしてストーリーをそれに合わして書いたんだ」
 もっとも、さすがに虎の尾を踏むのは避けたのか、僧侶の品格をおとしめるような場面はなかったが。


 これらのテーマを最も体現しているのが、本作で初登場のテディだ。彼は、優秀な外科医としての将来が嘱望され、同時に優れたチェリストでもある。
 外科医という職業や、チェロを奏でる姿には、この映画の作り手の過激さが表れている。映画をご覧になればお判りのとおり、もうテディは父親の望みどおり外科医になることも、チェロを弾いて喝采を浴びることもない。主人公トリオに同席したばっかりに、テディの将来はメチャクチャになってしまった。

 印象的なのは、そんなとんでもない目に遭ったにもかかわらず、テディがヘラヘラ笑っていることだ。彼には将来を悲嘆している素振りがまったくない。
 酔ってる間に大はしゃぎしているのは、酒のせいということで説明できるかもしれないが、素面に戻っても彼がヘラヘラしているのは、心からこの事態を楽しんでいるからだ。
 資産家の息子として親に期待され、親の望むとおりに大学へ行き、自慢のタネにされることを、テディは本心では喜んでいなかった。だからこそ、みずからの手で既定路線の未来を破壊してしまい、正気に戻ってもニコニコと笑い続けたのだ。

 親が押し付けるものや、体制が押し付けるものに、唯々諾々と従っていても幸せにはなれない。本作の主人公たちは、暗黒面の解放という表現で、それを世界に示したのだ。


[*] さらに云えば、多くの国の負の面は、元をたどれば列強諸国による植民地化のためにもたらされていることが少なくない。その点、タイは植民地化されなかった数少ない国の一つであり、暗黒面があったとしても歴史的経緯を気にせず描けるのかもしれない。


ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える [DVD]ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』  [は行]
(鑑賞したのはR18+版ではなくR15+版)
監督・制作・脚本/トッド・フィリップス  脚本/クレイグ・メイジン、スコット・アームストロング
出演/ブラッドリー・クーパー エド・ヘルムズ ザック・ガリフィアナキス ケン・チョン ジェフリー・タンバー ジャスティン・バーサ ポール・ジアマッティ ジェイミー・チャン メイソン・リー
日本公開/2011年7月1日
ジャンル/[コメディ] [ミステリー]
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【theme : コメディ映画
【genre : 映画

tag : トッド・フィリップス ブラッドリー・クーパー エド・ヘルムズ ザック・ガリフィアナキス ケン・チョン ジェフリー・タンバー ジャスティン・バーサ ポール・ジアマッティ ジェイミー・チャン メイソン・リー

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