『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』 日米観客の嗜好の違い?

 映画『ファミリー・ツリー』の記事では日米のポスターの違いについて述べたが、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』でも日米の違いが興味深い。
 日本のポスターでは、中央にソーとジェーンが立ち尽くし、二人をあざ笑うかのようなロキの顔が虚空に描かれている。ヒーローとヒロインをポスターの手前に配し、背景に敵の顔を大きく描くのは、『スター・ウォーズ』でもお馴染みの構図で珍しいものではない。
 米国のポスターも構図のとり方は同様だ。ヒーロー、ヒロインの周りにサブキャラクターを大勢配置して賑やかにしているが、それとても『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』で生頼範義画伯が用いた手法と同じであり、手前にヒーローとヒロインを置き、背景の虚空に敵の顔を描くのは変わらない。
 虚空に大きく描かれた顔が、ロキではないことを除けば。

 米国版ポスターのロキは、ソーとジェーンの周りを賑わす小さなキャラクターに過ぎない。
 とうぜんだ。『マイティ・ソー』や『アベンジャーズ』でソーたちを苦しめた邪神ロキも、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』では敵じゃないのだから。
 米国版ポスターで虚空に描かれているのは、本作の敵役マレキスである。

 そもそもロキは、本作に登場する予定ではなかったそうだ。
 けれども『アベンジャーズ』でのロキの人気を受けて、本作にもロキが登場するようにスクリプトを書き換えたという。
ポスタ- アクリフォトスタンド入り A4 パターンB マイティ・ソー ダーク・ワールド」 光沢プリント 米国版ポスターがマレキスという共通の敵にソーたちが立ち向かう映画の物語を忠実に表現しているのに比べて、日本版ポスターはロキの(というかロキを演じるトム・ヒドルストンの)人気を当て込んで、物語性とは関係なく客を呼べそうな役者の顔を大きく写したに過ぎない。
 この違いは『ファミリー・ツリー』のときと同様であり、日米の観客の嗜好の差を(正確には日米の配給会社が観客をどう思っているかを)端的に表しているだろう。

 とはいえ、本作にロキを登場させたのは大正解だ。
 すんなりとソーの味方になるはずもないロキが登場することで、ソーが頼もしい相棒を得たのか、獅子身中の虫を抱えてしまったのか判らずに、観客はハラハラすることになる。あまり個性的とも思えないマレキスをクローズアップするよりも、よほどスリリングな物語である。

 マレキスが敵として物足りないわけではない。
 マレキス率いるダーク・エルフが、アスガルドの神々が総力を挙げなければかなわないほどの強敵であることは、冒頭の過去のシーンが示している。
 そのダーク・エルフは、かつてアスガルドの軍勢に敗れたものの、"エーテル"の力によって再び覇を唱える機会を狙っていた。
 ダーク・エルフ退治のためにアスガルドが軍勢を送り込んだ過去とは違い、今回は油断しているアスガルドをダーク・エルフが強襲するので、さしものアスガルドも危機に見舞われる。
 "エーテル"を巡ってダーク・エルフ軍とアスガルド軍が激突する本作は、堂々たる宇宙冒険大活劇だ。

 『マイティ・ソー』、そして本作に続くシリーズの魅力は、なんといってもそのスケールの大きさにある。
 アベンジャーズの他のヒーローもそれぞれに魅力的だが、ゲルマン神話の雷神ソーは、強さといいスケール感といい、他のヒーローをはるかに上回る。
 また、前作『マイティ・ソー』で目にした神々の世界アスガルドの壮麗さは、スター・ウォーズシリーズにおける銀河の首都コルサントを凌駕せんばかりだったが、本作ではなんとそのアスガルドが戦場になる。
 これは嬉しい展開だ。

 スター・ウォーズシリーズの何が残念かって、タトゥイーンやらナブーやらの辺境の星ばかりが舞台になり、一番華やかな首都コルサントが主戦場にならなかったことだ。ナブーやエンドアで牧歌的な戦いを繰り広げるのは、作品の狙いとして判らなくもないが、やはりコルサントの攻防戦も見たかった。
 スペースオペラの金字塔レンズマン・シリーズが、銀河辺境での戦いの後には最高基地のある太陽系を戦場にしたように、辺境と中枢のどちらも戦場になるからこそ戦いに迫力が感じられるのだ。
 その点、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』は、人間の住む地上界ミズガルズや、ダーク・エルフの地下世界スヴァルトアルヴヘイムで戦いながら、アース神族の天上界アスガルドも戦場になるから面白い。しかもアスガルドの壮麗な大宮殿がこれでもかと破壊されて容赦ない。
 前作のアスガルドの登場だけでもスケールの大きさを感じさせたが、本作におけるアスガルド本国での戦いは、コルサント戦を観られなかった長年の不満を吹き飛ばしてくれた。

火星のチェス人間 (1966年) (創元推理文庫) しかもアスガルド勢の戦いは、文字どおり神々しい。
 なにより、バイキングの船を模したという飛行艇のデザインがたまらない。
 スマートで荘厳で、いささか古風な空飛ぶ船は、まるで武部本一郎画伯のカバーアートから抜け出したような美しさだ。そう、『火星のチェス人間』の表紙絵のような世界である。
 そんな船がアスガルド上空を飛翔し、ダーク・エルフ軍と追いつ追われつ戦うのだからワクワクする。
 どんな映画も空飛ぶ船が出てくると心躍るものだが、宇宙戦艦ヤマトのような巨船ばかりでなく、本作のような小型ボートも躍動感があって良い。

 他方、世界樹ユグドラシルが繋ぐ九つの世界での移動に、時空間の門を使うのもいかしている。
 虹の橋ビフレストを使う移動も迫力があったけれど、時空に開いた門をくぐって異世界に転移するのもこの手の作品の定番だ。フィリップ・ホセ・ファーマーの階層宇宙シリーズでは、クレッセントなる宝飾品で異世界の門を開けていたことを思い出す(後年、藤子・F・不二雄氏も同様のアイデアの「どこでもドア」を発表している)。
 マイティ・ソーの世界は魔法と見分けが付かないほど科学技術が発達しているから、こんな移動手段が似合うのだ。

 それだけに、ダーク・エルフの乗り物が宇宙船然としているのが面白い。
 彼らは、いかにもテクノロジーの塊に見える宇宙船を乗り回し、世界間を航行している。
 ダーク・エルフの宇宙船や戦闘機も超科学の産物なのだが、アスガルドの優美さの前では、その剥き出しのテクノロジーが野蛮に見える。
 実に愉快な対比である。

 こういう宇宙冒険大活劇は、小説なら枚挙にいとまがないのだが、映画では意外に少ない。
 あることはあるけれど、しっかり金をかけて、壮大なスケールのドンパチで満足させてくれる映画にはなかなかお目にかかれない。
 そんな中、神と見まがうほどの能力を持ち、宇宙を股にかけるマイティ・ソーの活躍は、頼もしい限りである。


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監督/アラン・テイラー
出演/クリス・ヘムズワース ナタリー・ポートマン トム・ヒドルストン アンソニー・ホプキンス ステラン・スカルスガルド イドリス・エルバ 浅野忠信 クリストファー・エクルストン レネ・ルッソ
日本公開/2014年2月1日
ジャンル/[SF] [アクション] [アドベンチャー]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : アラン・テイラー クリス・ヘムズワース ナタリー・ポートマン トム・ヒドルストン アンソニー・ホプキンス ステラン・スカルスガルド イドリス・エルバ 浅野忠信 クリストファー・エクルストン レネ・ルッソ

『マイティ・ソー』 なぜ実写映画化されなかったのか?

 2011年は極めつけに嬉しい年である。なぜなら、6月には『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』、7月に『マイティ・ソー』、9月に『グリーン・ランタン』、10月に『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』と、アメコミの映画化作品が続々と公開されるのだ。
 しかも、『マイティ・ソー』は1962年、『グリーン・ランタン』は1940年に登場していながら、どちらも初の実写映画化である!

 これほど知名度と歴史のある作品がこれまで実写映画にならなかったのは、一つには人気がスーパーマンやスパイダーマンらに及ばなかったためだろう。この点については、別途『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』公開時に触れてみたい。
 しかし、単に人気だけの問題ではなかろう。
 なにしろ、とても地味な『デアデビル』ですら2003年に映画化されているのだ。私は『デアデビル』の原作も映画も好きだが、『マイティ・ソー』や『グリーン・ランタン』の方が華があり、映画にはうってつけの題材に思える。

 にもかかわらず実写映画にならなかったもう一つの理由は、スケールが大きすぎるからだろう。
 『グリーン・ランタン』は全宇宙を護る組織の一員であり、街の自警団のようなヒーローたちとは出自が違う。
 ましてや『マイティ・ソー』は神様だ。ゲルマン神話の雷神ソー(日本ではトールと表記される)である。ちょっと感覚が鋭い青年や、武器を作るのが趣味の金持ちが、ギャングの親玉たちと戦うのとはわけが違う。神に相応しい物語と映像を作れなければ、『マイティ・ソー』を映画化する意味がない。


 その点で、監督としてシェイクスピア劇で知られるケネス・ブラナーに白羽の矢を立てたのは驚きではあるが、結果を見れば適任であった。
 ゲルマン人の神々の王位継承を巡る物語は、ある意味でコスチューム・プレイそのものである。『ヘンリー五世』でアカデミー賞の監督賞と主演男優賞にノミネートされたケネス・ブラナーは、ここでも戦を巡る王の葛藤を描く。
 実際ケネス・ブラナーは、本作をヘンリー五世の変種と見立てている。若き王の基本的な性格付けはもとより、愛する父王に生き方を見直すべく試練を与えられること、異郷の女性を愛すること、戦いを経験すること等が共通するという。
 またロキ役のトム・ヒドルストンは、彼の役を『リア王』に登場する悪漢エドマンドになぞらえている

 そもそも『マイティ・ソー』とシェイクスピア劇との距離は、意外に近いのかもしれない。
 なにしろソーの友人である三勇士の一人、大食漢のヴォルスタッグは、ヘンリー五世の友人としてシェイクスピア劇でお馴染みのフォルスタッフがモデルなのだ(ちなみにヴォルスタッグを演じるレイ・スティーヴンソンの次回作は、2011年10月公開の『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』のポルトスである。適役と云えよう)。


 また、神に相応しい映像という点でも、観客はみな大満足だろう。
 ゲルマン神話は、ゲルマン人の多くがキリスト教化されたために失われてしまい、かろうじて辺境の北欧で語り継がれたものが今に伝わっている。そのためゲルマン神話を北欧神話と呼ぶこともある。
 そこで語られる世界樹ユグドラシル九つの世界は壮大だ。
 本作では、そのうちの三つの世界、アース神族の住む国アスガルド、巨人の住むヨトゥンヘイム、人間の住むミズガルズが舞台となる。それぞれの特徴を表すために視覚効果が駆使されているが、とりわけアスガルドの大宮殿ヴァルハラは、『フラッシュ・ゴードン』のミン・シティやスター・ウォーズ・サーガのコルサントをも凌ぐ壮麗さである。

 アスガルドと差別化を図るため、ミズガルズすなわち地球では、ニューメキシコの地味な田舎町が物語の中心となる。これはまた、世界観を同じくする『アイアンマン』シリーズがビジネスの中心地での華々しさを売りにしていることと対比させる意味もあろう。『スーパーマン』(1978年)がメトロポリスで活躍するのに対し、『スーパーガール』(1984年)が田舎町を舞台にしたのと同じである。

 そして三つの世界を繋ぐ虹の橋ビフレストの大迫力!
 満天の星を貫いて、世界の間に架けられるビフレストは、劇中で引用されたクラークの第三法則のごとく「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」ことを印象付ける。


 こうして、神々に相応しい物語と映像が提示されるわけだが、本作の最大の魅力は主人公たるマイティ(強大な)・ソー自身である。
 アイアンマンのトニー・スタークが男性優位主義のマッチョであるとするならば、ソーは筋肉モリモリの肉体派である。ソーを演じたクリス・ヘムズワースは、6ヶ月間のジム通いと食餌療法によって、見事な肉体美を作り上げている。
 やっぱりアメコミのヒーローは、筋骨隆々でないと様にならない。クリス・ヘムズワースの硬軟使い分けた演技もさることながら、ガッシリした肉体を見せ付けることによるヒーローとしての説得力がアメコミには必要なんだと改めて思う。
 それはマイティ・ソーのべら棒な強さにも関係する。彼は神様だけあって、地球のヒーローとは桁違いの強さである。その圧倒的な強さから来る爽快さは、神という設定のみならず、強そうな肉体を視覚的に見せているから説得力が生まれるのだ。

 主役、物語、映像と、三拍子揃ったからこそ、これまで実写映画にできなかった『マイティ・ソー』を我々は目にすることができたのだろう。


 さて、『アイアンマン2』でスカーレット・ヨハンソン演じるブラック・ウィドウがアイアンマンと共演したように、本作に登場するヒーローはソーだけではない。
 ノンクレジットながら、弓の名手ホークアイをジェレミー・レナーが演じて場を盛り上げてくれる。
 残念ながら本作での登場は1シーンだけで、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でのウルヴァリン並みのゲスト出演だが、ブラック・ウィドウ同様にS.H.I.E.L.D.のメンバーとして『アベンジャーズ』(2012年)での活躍が期待される。

 そして本作で注目すべきは、ケネス・ブラナー監督作品でありながら、他の監督が撮影したシーンがあることだ。
 本作には、『アイアンマン』、『インクレディブル・ハルク』、『アイアンマン2』に続くマーベル・シネマティック・ユニバース作品の常として、エンドクレジットの後にお楽しみがあるが、ここはケネス・ブラナーではなく、2012年に公開を控える『アベンジャーズ』の監督ジョス・ウェドンによって撮られたそうだ。
 アベンジャーズのビッグ3ことアイアンマン、マイティ・ソー、キャプテン・アメリカが揃うのは、もうすぐである。


マイティ・ソー 3Dスーパーセット [Blu-ray]マイティ・ソー』  [ま行]
監督/ケネス・ブラナー
出演/クリス・ヘムズワース ナタリー・ポートマン トム・ヒドルストン ステラン・スカルスガルド レイ・スティーヴンソン 浅野忠信 ジェイミー・アレクサンダー レネ・ルッソ アンソニー・ホプキンス サミュエル・L・ジャクソン ジェレミー・レナー コルム・フィオール イドリス・エルバ カット・デニングス ジョシュア・ダラス クラーク・グレッグ
日本公開/2011年7月2日
ジャンル/[SF] [アクション] [アドベンチャー]
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【genre : 映画

tag : ケネス・ブラナー クリス・ヘムズワース ナタリー・ポートマン トム・ヒドルストン ステラン・スカルスガルド レイ・スティーヴンソン 浅野忠信 ジェイミー・アレクサンダー レネ・ルッソ アンソニー・ホプキンス

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