『奇跡』は世界に溢れてる

 人形が意思を持って動き出す、という奇跡の物語『空気人形』を世に送り出した是枝裕和監督が、またもや奇跡に満ちた映画を撮り上げた。
 タイトルはそのものズバリ『奇跡』なのだが、劇中で語られる"奇跡"は、陳腐で子供だましでトンデモだ。九州新感線の一番列車がすれ違うとき、大きなパワーが生じて願いが叶うというのだ。
 その噂を信じた福岡と鹿児島の少年たちが、中間である熊本を目指す。

 ここに、子供を主人公にする必然があろう。願いを叶えるために仲間たちで行動する姿は、大人では描きづらい。
 『空気人形』では、大人たちを通して、この世界に奇跡があることを伝えたが、今回は子供を中心にすることで、よりストレートに、より現実的に、たくさんの奇跡を伝えている。

 自転車のベルをなくした女性教師には、一人の生徒が、なぜか拾ったベルが彼女のものだと判って届けてくれる。
 子供に去られて淋しく暮らしていた老夫婦の許へは、ある日、孫のようなたくさんの子供たちが訪ねてくる。
 何年も前に菓子屋を廃業した老人が久しぶりに作ったかるかんを、孫はどうやら気に入ってくれたらしい。

 私たちが見落としがちなささいな出来事の数々が、一つ違えば起こらなかったかもしれない奇跡であることを、この映画は伝えている。


 本作は、少年たちの小旅行を描いた『スタンド・バイ・ミー』よりも、もっと地味な話である。
 それなのに、私たちがこの映画に惹かれるのは、是枝作品ならではの完成度の高さによろう。
 とりわけ多くの是枝作品を手がけてきた撮影の山崎裕氏は、本作でも変幻自在なショットで観客を魅了する。

 少年が庭で育ったトマトを食べるショットでは、低い位置から少年の顔を見上げる構図で、熟したトマトの丸々とした曲線と、少年の嬉しそうな表情を収め、トマトがなるという奇跡を示している。
 そうかと思えば、駅前を走る少年たちを、遥かな高みから俯瞰するショットで捉え、少年たちの表情を見せない。そこでは、もしかしたらとてつもない奇跡が起きているのかもしれないことを予感させる。
 

 九州新感線に願いをかけた少年たちは、きっと確信するだろう
 願いは必ず叶うと。
 自分の努力や、ほんの偶然や、誰かの配慮や、いろんなものが混ざりながら、少年の願いが叶ってこの世界は形作られているのだと。

 花が咲いたり、カツどんが温かかったり、音楽を聴いてもらえたり、火山が噴火したり、かるかんがほんのり甘かったり、母ちゃんがフラダンスで楽しそうにするのも、どこかで少年が願ったからかもしれない。
 それは奇跡なのかもしれない。


奇跡 [Blu-ray]奇跡』  [か行]
監督・脚本・編集/是枝裕和  撮影/山崎裕
出演/前田航基 前田旺志郎 大塚寧々 オダギリジョー 夏川結衣 阿部寛 樹木希林 橋爪功 長澤まさみ 原田芳雄 林凌雅 永吉星之介 内田伽羅 橋本環奈 磯邊蓮登
日本公開/2011年6月11日
ジャンル/[ドラマ]
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【theme : 日本映画
【genre : 映画

tag : 是枝裕和 前田航基 前田旺志郎 大塚寧々 オダギリジョー 夏川結衣 阿部寛 樹木希林 橋爪功 長澤まさみ

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