『マイ・バック・ページ』 若者に足りないものは?

 【ネタバレ注意】

 誰が云ったか知らないが、よく持ち出される言葉にこんなものがある。[*]
 「20歳までに左翼に傾倒しない者は情熱が足りない。20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が足りない。」
 ことほど左様にこの言葉が広まったのは、それだけ人々を頷かせるものがあったからだろう。
 もちろん、社会主義国の多くが崩壊し、かつて「左翼」と称された勢力がほぼ姿を消した現代では、この言葉の「左翼」の部分は別のものに置き換わっていくだろう。けれども、若者に情熱と反抗心がある限り、若者はその時々の何かに傾倒するはずだ。

 『マイ・バック・ページ』は、1971年の朝霞自衛官殺害事件にまつわる川本三郎氏の回想録を、フィクションとして再構成した映画である。
 ここに登場するのは、ジャーナリストになりたかった男と革命家になりたかった男だ。


 映画は冒頭、片桐が1969年1月に陥落した安田講堂に忍び込み、その"残り香"に浸る姿から始まる。すでに東大安田講堂事件が終わってから革命活動を開始した片桐の、情熱の持って行き場がない姿は痛々しい。
 一方、硬派の東都ジャーナルの記者になりたかった沢田は、隣の週刊東都に配属され、雑誌から浮いた記事を書いている。その一つが、取材のために身分を偽って、市井の人の生態を観察した記事である。しかし彼の取材は、先輩記者からセンチメンタルだと罵倒される。
 ジャーナリストたらんとした沢田と、革命家たらんとした片桐は、それぞれが抱くジャーナリスト像、革命家像に振り回され、やがて事態は取り返しのつかないところに至ってしまう。

 映画の作り手は、とりわけ革命家を目指した片桐に対して残酷だ。
 片桐は革命を目指してはいない。革命家を目指している。そのことは、大学の討論会で「いったい君は何がしたいんだ」と問われて露呈してしまう。
 革命を目指すのではなく、革命家を目指す男。そんな男は世の中にいくらでもいる。事業経営を目指すのではなく事業家を目指す男、社会問題の解決を目指すのではなく社会企業家を目指す男、小説家を目指す男、映画監督を目指す男……。
 片桐はいつまでたっても本物の革命を起こせないが、そのニセモノぶりは、観客の誰しも多かれ少なかれ身に覚えがあり、後ろめたく感じているものだろう。

 それを強調するのが、劇中で引用される映画だ。
 本作には幾つもの映画が、登場人物のセリフや背景のポスターの形で現れる。それらは本作のテーマを語ると同時に、60~70年代という時代性を感じさせる小道具でもある。
 そんな中、唯一映像が映し出されるのは、本作の時代とは関係のない1956年公開の『洲崎パラダイス 赤信号』である。川島雄三監督のこの作品のうち、沢田が眺めているのは、三橋達也演じるうだつの上がらない男が、新珠三千代演じる女になじられるシーンだ。赤線地帯の洲崎パラダイスに入る覚悟もなければ、そこから離れて別天地を目指す思い切りもない二人は、洲崎パラダイス近くの橋の上でこれからの身の振り方をいつまでも論じあう。
 女は男を責め続ける。
 「どうすんのさ。これからどうすんのさ……。」
 いくら責められても、男だって答えなんか持っていない。それが判っていても、女は責め続ける。
 「どうすんのさ。これからどうすんのさ……。」


 本作は、沢田の視点が中心であり、片桐の心情を直接描くことはない。そのため観客は、沢田の悩みや焦りには共感しやすいものの、片桐のことはあくまで客観視し続ける。
 だから沢田が、革命家気取りの片桐に騙されたと思い、そのために東都新聞社を辞めざるを得なくなったと思うときにも、沢田の挫折感や被害者意識は理解しやすい。
 それゆえ、ジャーナリスト気取りの沢田に騙されていた人物との再会は強烈だ。
 そのとき初めて、沢田は、そして観客は、自分が片桐をまるで理解していなかったこと、自分こそが片桐を理解すべき人間であったことを知る。

 かつて「泣く男なんて男じゃないよ」と云っていた沢田が、おいおいと泣くラストは胸を打つ。それは、人前で泣くなんて想像できなかった若者が、いつの間にか自分も大きな荷物を背負い込んでいたことに気づく瞬間だ。
 20歳まで泣いてる者は強さを知らないが、20歳を過ぎて泣かない者は弱さを知らないのだ。


[*]この言葉には様々なバリエーションがあり、考案者もはっきりしない。 


マイ・バック・ページ [Blu-ray]マイ・バック・ページ』  [ま行]
監督/山下敦弘  脚本/向井康介
出演/妻夫木聡 松山ケンイチ 忽那汐里 石橋杏奈 韓英恵 中村蒼 長塚圭史 山内圭哉 古舘寛治 あがた森魚 三浦友和
日本公開/2011年5月28日
ジャンル/[ドラマ] [青春]
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【genre : 映画

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