『アジャストメント』 マット・デイモンの功罪

 マット・デイモンが主演することの功罪は何だろうか?
 映画『アジャストメント』において、主演俳優としてマット・デイモンを迎えたことのメリットは、何といってもそのおかげで映画への注目が高まり、宣伝もしやすくなったことだろう。日本版のポスターはマット・デイモン一人が大きく描かれ、マット・デイモンが主演であることの他には何の情報ももたらさない。作品内容は下手に宣伝するとネタばらしになってしまう類のものなので、マット・デイモンが主演でなければ配給会社は何を宣伝したらいいか困ったかもしれない。

 ひるがえってマット・デイモンが主演することのデメリットは、ズバリ、映画について先入観を持たれてしまうことだろう。
 マット・デイモンはボーン・シリーズや『グリーン・ゾーン』等により、アクション俳優としての印象が強い。その彼を前面に押し出して、あえて意味不明にした邦題の脇に「操作された《運命》に、逆らえ。」なんて惹句を付けられたら、どんな陰謀と闘うアクション物なんだと、観客の期待は高まってしまうだろう。
 配給会社としては、その見当違いの期待を狙っているのだろうが。


 一方、先入観ということでは原作者フィリップ・K・ディックも同様かもしれない。
 初の映画化作品『ブレードランナー』をはじめ、『トータル・リコール』や『マイノリティ・リポート』といった映画からは、タフな主人公が活躍するアクションとサスペンスに富んだ物語が思い浮かぶ。ハリウッドで映画化したら、どんな原作であってもアクションやサスペンスになりがちではあるが、とりわけフィリップ・K・ディックの場合は、その小説世界を映像化するよりも、アクションやサスペンスのネタ元と見られがちなようだ。

 私はそれほどフィリップ・K・ディックに詳しいわけではないのだが、その乏しい読書歴から申せば、ディックの小説の主人公はタフでもマッチョでもなく、どちらかといえばうじうじした冴えない男であろう。
 そんな男が、世界に信じられるものがなく、自分さえも信じられず、途方にくれながらやっぱりうじうじしている。そんな作品ではないだろうか。


 『アジャストメント』も、意外にうじうじした映画である。
 主人公の職業は、大スターのマット・デイモンに相応しく、不動産のセールスマンから上院議員候補へ変更されているが、彼は議員としての政治活動よりも運命の女性と結ばれることを重視する。

 ここにマット・デイモンを主演に迎えたデメリットがある。
 主人公が冴えないセールスマンなら、仕事をうっちゃらかして理想の女性の許へ駆けつけるのも判らないではない。しかし、マット・デイモンに相応しく主人公にスター性を付与したおかげで、選挙を放り出す議員候補は常軌を逸しているように見えてしまう。
 本作は、マット・デイモンに『ボーン・アルティメイタム』等の脚本を提供したジョージ・ノルフィの初監督作品だからマット・デイモンも出演を承諾したのかもしれないし、そんなマット・デイモンにジョージ・ノルフィ監督なりに配慮した結果が上院議員候補という役柄なのかもしれないが、ちょっと主人公がカッコよくなり過ぎである。

 とはいえ、世界の謎を暴いたり、大きな陰謀に立ち向かうことよりも、運命の女性との出会いにこだわるのは、(SF雑誌の読者の多くを占める)冴えない男たちの願望を体現していると云えよう。ヒロインが、身近な仕事仲間の男性ではなく、よく知りもしない主人公を選んでくれるのも、夢見がちな男の願望だ。主役の男女は、周囲の異性には脇目も振らず、運命的な結びつきを信じているのである。
 実は原作者フィリップ・K・ディックは、5回も結婚と離婚を繰り返している。それが、運命的な出会いを求めた結果だと云うつもりはないが、『アジャストメント』の主人公たちが、運命の相手と一緒になるために他の人とあっさり別れてしまうのはいささか皮肉である。

 本作の原題は『The Adjustment Bureau』(調整局)だ。
 調整する側の物語としては、これまでにも『永遠の終り』や『時空監視官出動!』等、多くの作家が優れた小説を著している。
 本作は、調整される側にスポットを当てつつ、結局はごく個人的な男女の出来事を描いた点で、タフでマッチョなヒーローが跋扈する映画よりはディックらしくまとまったと思うのだが、いかがだろうか。


アジャストメント(デジタル・コピー付) [Blu-ray]アジャストメント』  [あ行]
監督・制作・脚本/ジョージ・ノルフィ  原作/フィリップ・K・ディック
出演/マット・デイモン エミリー・ブラント アンソニー・マッキー ジョン・スラッテリー マイケル・ケリー テレンス・スタンプ
日本公開/2011年5月27日
ジャンル/[SF] [サスペンス] [ロマンス]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : ジョージ・ノルフィ マット・デイモン エミリー・ブラント アンソニー・マッキー ジョン・スラッテリー マイケル・ケリー テレンス・スタンプ

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